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それが、幸せ
04.この手をとって
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「…すまん…」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの俺を見て、先生が本当に困った様に眉を下げて唇を結ぶのが見えた。
すまんって、何だよ?
俺、フラれたのか?
俺が望む答えをくれるんじゃなかったのかよ?
三年待たせたから、考えが変わったのか?
三年…俺なりに考えて頑張ったんだけど、意味無かったのか?
何も考えないで、卒業から一年で突撃した方が良かったのか?
期待させてから落とすの、本当にやめてくれよな。
何だよ、羽間に松重先生だって。
何、期待させる事を言ってくれてんだよ。
こうやって、泣いてる俺を見て笑ってんのか?
こうして出した手を、いつ、どうやって引っ込めりゃいいんだよ?
解んなくて、俺は唇を噛んで、視線を伸ばした手に落とした。
困った顔の先生を見ていたくない。
そうさせたのは俺だけど。
先生の色んな顔見たいし、色んな声を聞きたいけど。
けど。
こんな辛いのは嫌だ。
笑って欲しい。
笑わせたい。
俺が作った飯食って、俺が思った様に『美味いな』って、笑ってくれたらそれだけで、俺、舞い上がるのに。
先生と飯を食う時間が好きで、ずっとずっと、それだけを考えて来た。
先生と生徒じゃなくて。
ただ、好きな相手と一緒に食べて居たい。
それを現実にしたかった。
これから、それが出来ると思った…のに。
そう、したかったのに。
そう、なりたかったのに。
「ったく、何時まで泣かせてる気だ」
「趣味が悪いですよ?」
段々と目線が下がって、先生の磨かれた黒い革靴が目に入った頃、呆れた様な羽間と松重先生の声が聞こえた。
いや、趣味が悪いのは、覗き見してたお前らだろ。なんて、言う元気もない。
明日、休み貰っといて良かった。
上手く行っても、駄目でも、浮かれたり落ち込んだりで仕事にならないと思ったから、有休を取った。俺、えらい。因みに、今日は半休で午前中は仕事をして来た。
これって、やっぱ、まだ子供の考え方なのかな?
会社は快く休みをくれたと思ったけど、違ったのかな?
俺、まだまだガキなのかな?
もっともっと頑張って大人になれば、先生は俺を好きになってくれんのか?
「…お二人に言われなくとも…」
涙でグチャグチャの視界の端で、黒い革靴が動いたと思ったら、俺の頭に何かが乗せられた。
見なくても解る。
先生の手だ。
ちょっとゴツいけど、そんな見た目とは違くて、優しく頭を撫でてくれんだよな。
俺が美味い飯を作った時は、こうやって頭を撫でて欲しいって、そう思いながら過ごして来た。
「…泣かせるつもりは無かったんだが…」
「…的場…?」
優しい手付きと声に、俺はゆっくりと顔を上げた。
「…あのな…」
そこには、困った様な、嬉しい様な、そんな先生の笑顔があった。
「…俺も歳だ…今年、四十五になる。そんな親父が、まだまだ若いお前の手を取って良いのか、今も悩んでいるし、迷っている。あの時は、ああ言ったが…踏み出す事に、やはり尻込みしてしまうし、この先に、お前が…俺より好きになれる相手が出来るかも知れない。俺と違って、先のある相手が。そんなあるかも知れない未来を、俺が奪っても良いのか…」
先生の言葉に、俺は反射的に声を上げる。
「そんなの出来ねーよっ! 的場だけだっ!」
先生より好きな相手なんか出来るかよ!
ふざけんなよ!
俺も先生も男なんだぞ!?
羽間に言われて自覚したけど、ああ、そっかって、すんなりと受け入れられたんだ。
きっと、本当は色んな葛藤があると思うんだ。
けど、そんなの無かった。
それは、きっと、それが俺にとっては当たり前だったからだ。
俺は、ただ普通に、自然に、先生に惹かれた。
そんなの初めてだし、先生だけなんだからな!?
「ああ、お前はそう言うだろうと思ったよ。…だが、これは…想いは理屈じゃない。何がどうなるかなんて、俺にもお前にも解らない。先の保証なんて何も無い、が…」
そんな俺に、先生は一旦目を閉じて、開いた時にはとても深く優しく。
「俺は、お前が好きだよ、矢田」
俺を見て笑った。
「…的場…」
その何処までも優しい笑顔に、俺の胸がぎゅうって締め付けられた。
好きって言われた。
先生が、俺の事を好きって。
それは、俺が欲しかった言葉だ。
じわじわと胸が熱くなって、顔も熱くなって、目の奥も熱くて、何時の間にか止まってた涙も、また出そうになって来る。
「今日、こうして、実際にお前が来るまで不安だった。…また、今年も来ないんじゃないか…本当は、もう俺の事なんて忘れて、誰か良い人が出来たんじゃないかって…来たとしても…それは…断りを入れる為なのじゃないか…って、おわ!?」
少しだけ寂しそうに笑う先生に、俺は思い切り抱き付いた。
「そんな事…っ…! 俺、ちゃんと、もう少し大人になったらって、羽間にメッセージ送ったぞ!?」
両腕を背中に回してぎゅうぎゅう締め付ける。
以前に後ろから抱き付いた時は、先生の頭はもう少し上にあったけど、今は俺の頭がちょっとだけ上にあるのか?
けど、先生が俺の頭を撫でる手付きは変わらない。
ゆっくりと優しく撫でてくれる。
変わらないそれが、本当に嬉しい。
けど、あの頃は髪を掻き分ける様にして撫でてくれたな、なんて思う。
伸ばせば、またあんな風に撫でてくれんのかな?
「ああ。…それでもな…羽間先生から、お前からのメッセージを聞いても、やはり不安で…情けないだろう? こんないい歳した親父がさ、好きな相手の前だと…」
「情けなくなんかねーよ。情けねーのは、先生をこんな風に不安にさせた俺だろ?」
もっと早くに来れば良かった。
けど、まだ、今よりもガキだったし、もう少し大人になりたかったし、先生に見合う男になりたかったから、来たかったけど我慢したんだ。
なあ?
俺、ちょっとは大人になれたのかな?
眩しそうに先生が俺を見たのは、ちょっとは大人になれたからって思って良いのかな?
待った甲斐が…待たせた甲斐があったって、思って良いのかな?
「だから、うだうだと回りくどくてウゼぇっての。矢田、いいか? こいつな、今日お前が来なきゃ会いに行くっつってたんだぞ?」
「え?」
羽間が喋るとロクな事にならないから黙ってろって思ったけど、何だよ、その新情報?
「ちょ、羽間先生っ!?」
俺の腕の中の先生の身体が驚くぐらいに跳ねたから、本当の事なんだと思う。
「会いに行って、未だ想いがあるのなら、そのまま押し倒したらどうですかと、アドバイスをしましたら乗り気になりましてね」
へ?
「松重先生っ!!」
は?
え?
何?
俺が、もしも今日…ここに来なかったら…先生が会いに来た…って事か…?
俺、に?
先生が…?
こんなに顔を赤くして…?
「…やべーんだけど…」
ぽつりと呟けば、先生が俺の頭から手を離して、それで顔を覆って叫ぶ。
「ああああああああっ!! ドン引くよな!? 俺もどうかと思う! こんないい歳した親父が会いに行っても迷惑だよな!? 周りの目もあるもんな!? だが、お前が卒業して時間が経って、お前が居た時の事、お前と昼を食べてた時の事、たわいもない会話とか、馬鹿だと言われた時の事とか思い出すと懐かしくて…いや、懐かしい思い出にしたくないって…。また、お前に告白されるのを楽しみにしているとか…本当に、すまん! こんな親父に好かれても迷惑だよな!?」
いや、隠しても遅いし、指の間から真っ赤な顔見えてるからな?
「…いや…的場が…可愛過ぎて俺がヤバい…」
けど、きっと俺の顔も真っ赤なんだろな。
「へ? い、いや、可愛くはないぞ? お前と恋人同士になって、何時か別れる日が来たら、俺はきっとみっともなく泣くし、それが怖いから、こうして予防線を張って逃げようとしているし、歳だから…これが最後の恋だと思うと…捨てられるのが怖いし…それなら俺から…と思ったが…それも…出来そうにないし…会いに行って、ヤ…ヤり逃げとか…考えたりもしたし…」
真っ赤だろうけど、泣いて赤くなるよりはマシだよな?
いや、嬉し過ぎて泣きそうだけどさ。
「…本当にヤバいって…それって、俺と同じ様に…この三年、的場の中に俺が居たって事だろ? 俺が、ずっと的場の事を考えてた様に…的場も…俺の事を考えてくれてたんだろ? すげー…嬉しい…」
嬉し過ぎて、鼻血出そーだ。
俺だけじゃないって。
先生も、俺の事を想ってくれてたって。
先生の中に、俺がずっと居たって思ったら、本当に嬉しくて叫んで踊り出したい。
けど、我慢だ。大人は、きっとそんな事しない。
「…矢田…」
俺の言葉にちょっとは落ち着いたっぽい先生から腕を離して、身体一つ分間を開けて、俺は右手を前へと差し出す。
「…俺、やっぱバカだし、ガキだけど…的場が好きなんだ。いつか、俺が食堂開く時には、そこに的場が居て欲しい。誰か、悩むヤツが居たら…そいつと飯を食って、話を聞いてやって欲しいんだ…別に、アドバイスとか無くていいし…。ただ、側で聞いてやって欲しい…ただ…それだけで…俺…嬉しかったから…。…だから…的場…俺のこの手をとってくれよ…」
俺の伸ばした手を見て、先生は顔をぐちゃぐちゃに歪めた。
泣きたい様な、笑いたい様な、どんな顔をすれば良いのか解らない…そんな顔だ。
「…本当に、俺で良いのか? 先刻も言ったが…歳だから、これが最後の恋になるだろう。この手を取ったら死ぬまで離さないぞ? お前が俺に飽きても、絶対に離さないぞ? いい歳した親父が泣いて縋るぞ?」
そんな先生の脅し…なのか? に、俺も泣きそうになりながら、でも歯を見せて笑う。
「そんな事させねーし。的場が死んでも、俺が離さねーし。…俺が作った飯食ってさ、長生きしてくれよ…ずっと、俺と一緒に飯を食ってくれよ…」
「…矢田…」
ずずっと鼻を鳴らした後、先生は俺が出した右手を両手で包んでくれた。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの俺を見て、先生が本当に困った様に眉を下げて唇を結ぶのが見えた。
すまんって、何だよ?
俺、フラれたのか?
俺が望む答えをくれるんじゃなかったのかよ?
三年待たせたから、考えが変わったのか?
三年…俺なりに考えて頑張ったんだけど、意味無かったのか?
何も考えないで、卒業から一年で突撃した方が良かったのか?
期待させてから落とすの、本当にやめてくれよな。
何だよ、羽間に松重先生だって。
何、期待させる事を言ってくれてんだよ。
こうやって、泣いてる俺を見て笑ってんのか?
こうして出した手を、いつ、どうやって引っ込めりゃいいんだよ?
解んなくて、俺は唇を噛んで、視線を伸ばした手に落とした。
困った顔の先生を見ていたくない。
そうさせたのは俺だけど。
先生の色んな顔見たいし、色んな声を聞きたいけど。
けど。
こんな辛いのは嫌だ。
笑って欲しい。
笑わせたい。
俺が作った飯食って、俺が思った様に『美味いな』って、笑ってくれたらそれだけで、俺、舞い上がるのに。
先生と飯を食う時間が好きで、ずっとずっと、それだけを考えて来た。
先生と生徒じゃなくて。
ただ、好きな相手と一緒に食べて居たい。
それを現実にしたかった。
これから、それが出来ると思った…のに。
そう、したかったのに。
そう、なりたかったのに。
「ったく、何時まで泣かせてる気だ」
「趣味が悪いですよ?」
段々と目線が下がって、先生の磨かれた黒い革靴が目に入った頃、呆れた様な羽間と松重先生の声が聞こえた。
いや、趣味が悪いのは、覗き見してたお前らだろ。なんて、言う元気もない。
明日、休み貰っといて良かった。
上手く行っても、駄目でも、浮かれたり落ち込んだりで仕事にならないと思ったから、有休を取った。俺、えらい。因みに、今日は半休で午前中は仕事をして来た。
これって、やっぱ、まだ子供の考え方なのかな?
会社は快く休みをくれたと思ったけど、違ったのかな?
俺、まだまだガキなのかな?
もっともっと頑張って大人になれば、先生は俺を好きになってくれんのか?
「…お二人に言われなくとも…」
涙でグチャグチャの視界の端で、黒い革靴が動いたと思ったら、俺の頭に何かが乗せられた。
見なくても解る。
先生の手だ。
ちょっとゴツいけど、そんな見た目とは違くて、優しく頭を撫でてくれんだよな。
俺が美味い飯を作った時は、こうやって頭を撫でて欲しいって、そう思いながら過ごして来た。
「…泣かせるつもりは無かったんだが…」
「…的場…?」
優しい手付きと声に、俺はゆっくりと顔を上げた。
「…あのな…」
そこには、困った様な、嬉しい様な、そんな先生の笑顔があった。
「…俺も歳だ…今年、四十五になる。そんな親父が、まだまだ若いお前の手を取って良いのか、今も悩んでいるし、迷っている。あの時は、ああ言ったが…踏み出す事に、やはり尻込みしてしまうし、この先に、お前が…俺より好きになれる相手が出来るかも知れない。俺と違って、先のある相手が。そんなあるかも知れない未来を、俺が奪っても良いのか…」
先生の言葉に、俺は反射的に声を上げる。
「そんなの出来ねーよっ! 的場だけだっ!」
先生より好きな相手なんか出来るかよ!
ふざけんなよ!
俺も先生も男なんだぞ!?
羽間に言われて自覚したけど、ああ、そっかって、すんなりと受け入れられたんだ。
きっと、本当は色んな葛藤があると思うんだ。
けど、そんなの無かった。
それは、きっと、それが俺にとっては当たり前だったからだ。
俺は、ただ普通に、自然に、先生に惹かれた。
そんなの初めてだし、先生だけなんだからな!?
「ああ、お前はそう言うだろうと思ったよ。…だが、これは…想いは理屈じゃない。何がどうなるかなんて、俺にもお前にも解らない。先の保証なんて何も無い、が…」
そんな俺に、先生は一旦目を閉じて、開いた時にはとても深く優しく。
「俺は、お前が好きだよ、矢田」
俺を見て笑った。
「…的場…」
その何処までも優しい笑顔に、俺の胸がぎゅうって締め付けられた。
好きって言われた。
先生が、俺の事を好きって。
それは、俺が欲しかった言葉だ。
じわじわと胸が熱くなって、顔も熱くなって、目の奥も熱くて、何時の間にか止まってた涙も、また出そうになって来る。
「今日、こうして、実際にお前が来るまで不安だった。…また、今年も来ないんじゃないか…本当は、もう俺の事なんて忘れて、誰か良い人が出来たんじゃないかって…来たとしても…それは…断りを入れる為なのじゃないか…って、おわ!?」
少しだけ寂しそうに笑う先生に、俺は思い切り抱き付いた。
「そんな事…っ…! 俺、ちゃんと、もう少し大人になったらって、羽間にメッセージ送ったぞ!?」
両腕を背中に回してぎゅうぎゅう締め付ける。
以前に後ろから抱き付いた時は、先生の頭はもう少し上にあったけど、今は俺の頭がちょっとだけ上にあるのか?
けど、先生が俺の頭を撫でる手付きは変わらない。
ゆっくりと優しく撫でてくれる。
変わらないそれが、本当に嬉しい。
けど、あの頃は髪を掻き分ける様にして撫でてくれたな、なんて思う。
伸ばせば、またあんな風に撫でてくれんのかな?
「ああ。…それでもな…羽間先生から、お前からのメッセージを聞いても、やはり不安で…情けないだろう? こんないい歳した親父がさ、好きな相手の前だと…」
「情けなくなんかねーよ。情けねーのは、先生をこんな風に不安にさせた俺だろ?」
もっと早くに来れば良かった。
けど、まだ、今よりもガキだったし、もう少し大人になりたかったし、先生に見合う男になりたかったから、来たかったけど我慢したんだ。
なあ?
俺、ちょっとは大人になれたのかな?
眩しそうに先生が俺を見たのは、ちょっとは大人になれたからって思って良いのかな?
待った甲斐が…待たせた甲斐があったって、思って良いのかな?
「だから、うだうだと回りくどくてウゼぇっての。矢田、いいか? こいつな、今日お前が来なきゃ会いに行くっつってたんだぞ?」
「え?」
羽間が喋るとロクな事にならないから黙ってろって思ったけど、何だよ、その新情報?
「ちょ、羽間先生っ!?」
俺の腕の中の先生の身体が驚くぐらいに跳ねたから、本当の事なんだと思う。
「会いに行って、未だ想いがあるのなら、そのまま押し倒したらどうですかと、アドバイスをしましたら乗り気になりましてね」
へ?
「松重先生っ!!」
は?
え?
何?
俺が、もしも今日…ここに来なかったら…先生が会いに来た…って事か…?
俺、に?
先生が…?
こんなに顔を赤くして…?
「…やべーんだけど…」
ぽつりと呟けば、先生が俺の頭から手を離して、それで顔を覆って叫ぶ。
「ああああああああっ!! ドン引くよな!? 俺もどうかと思う! こんないい歳した親父が会いに行っても迷惑だよな!? 周りの目もあるもんな!? だが、お前が卒業して時間が経って、お前が居た時の事、お前と昼を食べてた時の事、たわいもない会話とか、馬鹿だと言われた時の事とか思い出すと懐かしくて…いや、懐かしい思い出にしたくないって…。また、お前に告白されるのを楽しみにしているとか…本当に、すまん! こんな親父に好かれても迷惑だよな!?」
いや、隠しても遅いし、指の間から真っ赤な顔見えてるからな?
「…いや…的場が…可愛過ぎて俺がヤバい…」
けど、きっと俺の顔も真っ赤なんだろな。
「へ? い、いや、可愛くはないぞ? お前と恋人同士になって、何時か別れる日が来たら、俺はきっとみっともなく泣くし、それが怖いから、こうして予防線を張って逃げようとしているし、歳だから…これが最後の恋だと思うと…捨てられるのが怖いし…それなら俺から…と思ったが…それも…出来そうにないし…会いに行って、ヤ…ヤり逃げとか…考えたりもしたし…」
真っ赤だろうけど、泣いて赤くなるよりはマシだよな?
いや、嬉し過ぎて泣きそうだけどさ。
「…本当にヤバいって…それって、俺と同じ様に…この三年、的場の中に俺が居たって事だろ? 俺が、ずっと的場の事を考えてた様に…的場も…俺の事を考えてくれてたんだろ? すげー…嬉しい…」
嬉し過ぎて、鼻血出そーだ。
俺だけじゃないって。
先生も、俺の事を想ってくれてたって。
先生の中に、俺がずっと居たって思ったら、本当に嬉しくて叫んで踊り出したい。
けど、我慢だ。大人は、きっとそんな事しない。
「…矢田…」
俺の言葉にちょっとは落ち着いたっぽい先生から腕を離して、身体一つ分間を開けて、俺は右手を前へと差し出す。
「…俺、やっぱバカだし、ガキだけど…的場が好きなんだ。いつか、俺が食堂開く時には、そこに的場が居て欲しい。誰か、悩むヤツが居たら…そいつと飯を食って、話を聞いてやって欲しいんだ…別に、アドバイスとか無くていいし…。ただ、側で聞いてやって欲しい…ただ…それだけで…俺…嬉しかったから…。…だから…的場…俺のこの手をとってくれよ…」
俺の伸ばした手を見て、先生は顔をぐちゃぐちゃに歪めた。
泣きたい様な、笑いたい様な、どんな顔をすれば良いのか解らない…そんな顔だ。
「…本当に、俺で良いのか? 先刻も言ったが…歳だから、これが最後の恋になるだろう。この手を取ったら死ぬまで離さないぞ? お前が俺に飽きても、絶対に離さないぞ? いい歳した親父が泣いて縋るぞ?」
そんな先生の脅し…なのか? に、俺も泣きそうになりながら、でも歯を見せて笑う。
「そんな事させねーし。的場が死んでも、俺が離さねーし。…俺が作った飯食ってさ、長生きしてくれよ…ずっと、俺と一緒に飯を食ってくれよ…」
「…矢田…」
ずずっと鼻を鳴らした後、先生は俺が出した右手を両手で包んでくれた。
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