矢は的を射る

三冬月マヨ

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それが、幸せ

13.全部見せて

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 先生が頷いて、またキスをしてくる。チュッチュッて二、三度繰り返した。
 それが、どうにもくすぐったくて、でも嬉しくて。

「…的場って、キス好きな?」

「そうかもな」

 笑って言えば、頭を撫でられた。

「…このままだと足場が悪いから…ベッドに上がれるか?」

「ん…」

 俺に覆い被さってた先生が離れて、ちょっと寂しいなんて思いながら頷いて、ぶらぶらさせてた足をベッドの上に上げて、んにょんにょと身体をネジネジさせてベッドの中央へと移動した。
 俺が大の字になっても、まだちょっと余裕がありそうなこれは、セミダブルって言うのか、それとも普通にダブルって言うのか? てか、掛け布団の上だけど、捲らなくて良いのか?
 ついに、俺も大人の階段を上るのかと思うと、ドキドキがやべーけど。
 でも。
 先刻からのキスとか、チンコを触られたりとかで、何となく解った事がある。
 言葉だけでも、一緒に飯を食うだけでも、嬉しくて幸せだけど、こんな触れ合いも、また嬉しくて幸せだって。何となく、言葉だけじゃ足りない物を補ってくれるって言うか、ぽっかり空いたトコを埋めてくれるって言うか。
 だから…そっか…って。
 先生はこれが欲しかったんだなって、思った。
 言葉だけじゃ伝わらないモヤモヤ。先生の不安。これで、全部無くなれば良いな。全部は無理でも、幾らか軽くなると良いな。

「…矢田…」

 俺を呼びながら、先生もベッドに上がって来る。
 柔らかな掛け布団がずぶずぶと沈んで、仰向けに寝転がる俺の腰を先生が跨いだ。

「…ん…?」

 あれ?

「…準備は…してあるから…」

 軽く首を傾げた俺に、先生は何を思ったのか、そんな事を口にする。準備って、何? てか、何で先生が上に居んの?
 なんて、思ってる間にも先生の手が俺のチンコを掴んで、腰を…――――――――。

「って、待ったーっ!!」

「えっ、や、矢田!?」

 ガバッと上半身を起こして、俺は先生の手を掴んだ。弾みで、するって、先生の手から俺のチンコが抜けた。

「これ、ちげーだろっ! 俺、マグロじゃんっ!!」

「マ…」

 驚く先生を睨み付けて、俺は叫んだ。

「じゃなくて! 何で先生からなんだよ!? 俺だろ!? 俺から突っ込まなきゃ駄目だろ!?」

 そりゃ、教えろって言ったのは俺だけど、これは違うだろ!

「え…あ…」

 叫ぶ俺の勢いに押されたのか、先生の目が泳ぎ出す。
 それって、やっぱ違うって事だろ?

「これって、セッ、クスって二人でするモンだろ!?」

「あ…ああ…だが…その…」

 更に声を上げれば、先生はしおしおと俯いた。

「何だよ?」

「…こんな親父の…俺の…こ…うもん見たら…萎えるんじゃないか…と…だから…俺から…」

 ドッカンって、今度は頭が噴火した。

「はああああああっ!? ここまで来て何言ってんだよ!? 男同士がケツでヤる事ぐらい知ってるし、何度も羽間はざまと松重先生がヤッてんの見てんだ! 舐めんな!!」

「は!? え!? も!?」

「いーから! 場所交代!!」

 怒鳴りながら、目を白黒させる先生の肩を押せば、先生はあっけなく背中をベッドに沈めた。

「…や、矢田…」

 力無く俺を呼ぶ声がするけど、無視!
 何だよ、それ?
 何だよ、それ!
 俺が、どんだけ先生を好きか、先生解ってねーじゃん!!

「良く見えねー…これ、布団丸めて腰浮かせて良いか? あと、明かりも…」

 先生を倒したのは良いけど、暗くて良く見えない。
 ケツの形は解るけど、先生、きっちり脚を揃えて肝心なトコを隠してるし。

「矢田!!」

穂希ほまれ

 泣き出しそうな先生の声に、俺は自分でも驚くぐらいに、静かで落ち着いた声でそう言ってた。

「え?」

 虚を突かれた様な、そんな先生の声を聞いて俺は唇を尖らせた。

「…嫌だって、言われてるみてーだから…嫌じゃねーなら、穂希って呼んでくれよ…」

 夢ん時みたく。
 耳が痺れる声で。

「…ほ…まれ…」

 その声は震えてたけど、単純な俺はそれだけで噴火が収まって行く。
 だって、やっぱ嬉しいし。

「ん。明かり、点けて良いか?」

 先生が両手で顔を覆って頷いたから、俺はベッドから下りて、部屋の入口近くにある電気のスイッチを押した。

「ん、眩し…」

 暗いのに慣れて来てたせいか、それはやけに眩しく感じた。
 ベッドに目を向ければ、深い緑に白い縦線の入った布団の上で、両膝を立てて両手で顔を覆う先生の姿がある。手の隙間から見える、先生の顔の色は真っ赤だった。

 ほんのちょっと前まで、俺を翻弄してた先生と本当に同じか、これ?

「…的場…」

 そんな先生が何か可愛くて、俺はくすりと笑いながらベッドに上がって、今度は俺が先生の腰を跨ぐ。

「顔、見せてくれよ」

 前屈みになって、先生の両腕を軽く掴めば、それはするっと外れた。

「ほ…まれ…その…」

 真っ赤な顔をした先生の目もやっぱり真っ赤で、涙が滲んでいた。
 その様子は先刻までの俺とおんなじで、自然と笑いが零れた。
 掴んだ手を顔の脇へと押し付けて、俺は先生の濡れた目尻に唇を近付けてぺろりと舐めた。
 うん、しょっぱい。

「…俺、的場が好きだから。どんな的場でも好きだから。先生な的場も、フダンシな的場も、雄な的場も。…だから、怖がらないでさ…見せてくれよ…全部…」

 俺がそう言えば、先生はくしゃって顔を歪めた。
 何でだよ?

「…穂希…俺、は…狡いんだ…」

 ん?
 ずりーって、何が?

「お前の気持ちを信じていない訳じゃない…ないが…実際に…ここを見て…お前がどんな反応をするのか見るのが怖くて…だから…暗い中で…見せない様に俺からく…わえて…お前が…お前だけでも気持ち良くなってくれれば…それで…」

「ぶぁーかっ!」

っ!?」

 ごっちんって、音が聞こえるぐらいに、俺は自分の額を先生の額に押し付けた。

「俺だけって、何だよ、俺だけって! それじゃ意味ねーだろ! せんせ…的場の不安、それで消えんのか!? 消えねーだろ!! そんなん、ただのオナニーだろ! 何回もしてるしっ!!」

「…オナ…って…え…」

 先生が目をパチパチとしてるけど、俺は構わず叫ぶ。

「二人でヤるモンだろが! 何、一人で決めてんだよ!? 的場の肛門見たぐれーで嫌いになんかなるかよ! 男の一念岩をも通すって言うんだろ! ほら、脚開いて見せろ!!」

「わっ! 解った!! すまん! 俺が悪かったっ!!」

 身体を起こして先生の膝に手を掛ければ、先生はまた顔を両手で覆って謝って来た。
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