矢は的を射る

三冬月マヨ

文字の大きさ
43 / 57
それが、幸せ

14.最後の恋

しおりを挟む
「…ど、どうだ…?」

「…うーん…ウメボシ…?」

 不安そうな、心細そうな先生の声に、俺は首を捻りながら答えた。

「梅干し…?」

 俺が呟いた言葉に、先生は納得いかない様な声を出した。
 俺は今、ベッドの上で仰向けで寝て、膝を立てて脚を開いた先生の間に陣取って、必死に隠していたそこを見ていた。で、その感想がウメボシ。
 
「ウメボシや食べた時に、口を窄めるだろ? そんな感じ?」

「…なる程…梅干し…梅干し、か…っ…!」

 ぷはっと眉を下げて笑う先生は、すっかりいつもの先生で、俺は安心する。
 
「…なあ…触ってみても良いか?」

 安心したら、そう思った。
 見られるのを嫌がったんだから、触られるのも嫌がると思うけど。

「は? えっ!?」

 ほら、やっぱり。
 見て不安が少しでも消えたんなら、次は触って、更に不安を消してやりてーじゃん。

「そんなに驚く事か? 的場だって俺のチンコ触ったじゃん」

 ちょっと拗ねた様に言えば、先生は顔を赤くしてふいって横を向いた。

「あ、れは…っ…! ペ…ニスとアナルとでは違うだろう…」

 …チンコにケツ穴じゃないのか…覚えておこ。

「…触られるの嫌か?」

「…お前は嫌じゃないのか?」

「聞き返すなよ、ずりー。嫌だったら言わねーし」

「…そうだな…」

 肩を竦めて笑う先生のそれをオッケーとして、俺は左手を先生の膝の上に置いて、右手をそろそろと伸ばした。
 そっと触れば、先生の身体がピクリと動く。それが、膝の上に置いた手にダイレクトに伝わって来た。

「…怖いのか…?」

 ぷるぷる小さくまだ震える先生に声を掛ける。
 怖いって言われても、止めねーけど。
 先生の不安が消えるまで、絶対止めねー。

「…まあ…そんな処を他人に触られるのは、病院ぐらいでしかないからな…」

「座薬とか浣腸とか?」

 俺のチョイスに先生は目を丸くした後、噴き出した。

「ぶっ。それもあるが、健康診断もあるだろうが」

 あ。俺の歳だと、まだだけど…何歳からか忘れたけどケツも診るんだっけ?

「あ、そっか。ところでさ、何か濡れてね? 身体ちゃんと拭いてねーのかと思ったけど…何か、ぬるってしてるし…」

「……」

 先刻から疑問に思ってた事を口にしたら、先生の唇がキュッて結ばれた。

「的場?」

 どうしたんだ? って思って名前を呼べば、先生は何度か口を閉じたり開いたりしてから、話しだした。

「…じゅ…準備…終わってると言っただろう…」

「うん?」

 軽く首を傾げる俺に、先生は目を閉じて言った。

「…それ…ローション…」

「ろーすん…」

 って、コンビニの名前だっけ?

「…じょ、せいみたく…自然と濡れたりはしないから…ほ、ぐすのに使って…その…そ、挿入の時も…あった方が…」

 違う、そうじゃない、ろーしょんだって、セルフ突っ込みしてる間に、先生はまた両手で顔を覆っていた。手の隙間から見える顔は、やっぱり赤い。

「…なるほど…」

 ってか、するってそんな言葉が出るんだ。
 何か、もやっとする。
 そりゃ、先生は俺より全然大人だし、経験だってあるんだろうけど。それは、仕方のない事だけど。でも、やっぱり。

「…ムカつく」

「は? いきなり何だ?」

 唇を尖らせた俺に、先生が手を退けて不思議そうな顔で見て来た。

「的場、モテたろ? 恋人居たんだよな? ヤる時はあんなカッコ良いなんて詐欺だろ。ギャップあり過ぎ」

 うん、ずりー。
 あの落差はずりー。

「は!? いや!? モテ…って、俺が!? って、カッコ良かった…?」

 慌てる先生だけど、本当に自覚ねーの?
 あんな先生知ったら、絶対惚れるしかねーじゃん。

「謙遜とかいーし。もう、的場は俺のだし」

 先生の膝にある俺の手が、ビクンって跳ねた。
 違うか。先生の脚が動いたんだ。
 だから、何で驚くんだよ?

「いや、謙遜なんて…って、ほ、穂稀ほまれ、お前、自分で言った事忘れたのか?」

「何をだよ」

「…身なりを整えなければって言ったのは穂稀だろう。前世を思い出す前の俺は、自分で言うのもあれだが…ずっと昔からボサボサのヨレヨレの冴えない男だったんだぞ?」

「あ」

 そう言えば、そうだった。
 初めて見た時、そう思ったんだった。

「そっか…的場が身なりを整え出したのが、俺に会った後で良かった」

 でなきゃ、わらわらと周りに虫が飛んでて近付けなかったよな。

「~~~~~~~…いぃ……」

「…的場…?」

 良かったって笑って、うんうんって頷いていたら、下から声にならない声が聞こえた。
 また、両手で顔を隠してるし。

「…推しが無自覚に殺しに来てるぅ~死ぬぅ~…」

 身体を倒して胸に顔を押し付けて頭の方に意識を向ければ、そんな悶える様な声が聞こえた。てか、小刻みに身体が揺れてるから、本当に悶えてんのか?

「…殺さねーし、死ぬなよ…てか、そうなるの俺だけだよな? 俺の前だけ、だよな?」

 胸から顔を離して聞けば、先生はコクコクと頷いた。

「なら、いーし。顔隠したり、声を殺したりするなよ」

 ぺったりくっつくのも気持ち良くて、そのままで居たいけど、首が痛いから俺は身体を起こす。
 軽く手を置いた先生の胸がドクドクなってて、それに俺はやっぱり笑ってしまう。
 こんな風になんのも、俺だけなんだよな?

「…穂稀…?」

「フダンシな的場、面白いし可愛いからもっと見せろよ」

 指の隙間から俺を見る先生がやっぱり可愛くて、俺はニッて笑った。

「かは…っ…!! 仰げば尊死とは、この事か…っ…!!」

 仰げば尊し? 仰ぐのは生徒とか弟子だろ?

「いや、解んねーし…てか、まだ死ねねーだろ?」

 先生の胸から手を動かして、顔を隠す先生の手を退ける。

「え?」

 瞬きする先生に、俺はひょいって肩を竦めて笑う。

「…教えてくれよ。ちゃんと。俺、どうすれば良い?」

「…あ…」

「…ここ、俺のチンコ挿れるのに、どうしたら良いんだ?」

 先生の手を離して、今度は先生の腹へと動かして、そこをゆっくりと掌で撫でた。

「…っ…! 推しが雄に雄が推しに推しが雄み推しが…!」

「早口言葉言ってねーで教えてくれよ」

 トンッて軽く先生の下の口を突いたら、ピクンッてその身体が跳ねた。
 
「…っ…、風呂…で…解したから…その…だが…時間が経ったから…不安…かな…。…その…そこのチェストに…一番上の引き出しに…ローション…ボトルがあるから…」

 もごもごと話す言葉を聞き取って、俺は一旦ベッドから下りて、ベッド脇にあるチェストへと周る。
 言われた通りに一番上の引き出しを開けたら、英字で書かれたボトルと長細い箱があった。ボトルの中にあるのは透明な液体だ。軽く振れば、とろんとろんと揺れた。

「ローション…と…」

 ごくりと唾を飲んで、ボトルと長細い箱を持ってベッドへと上がる。

「ああ、ありがとう」

 先生が照れた様に手を伸ばして来たから、俺はペチンとその手を叩いた。

「穂希?」

「俺がやるから」

「え」

「何で固まるんだよ。二人でヤるもんだって言ったろ」

「い、いや…しかし…」

「…じゃあ、これで的場はどうするつもりだったんだよ? 風呂っつってたけど、それをここでするつもりだった? 俺に見られながら?」

「う…」

 俺がそう言えば、先生の顔はもうこれ以上ないってぐらいに赤くなった。火を噴くかも知れない。

 ◇

 先生に教えられた通りに、ボトルからローションを掌に流して温めて指に纏わせる。
 最初はゆるゆると穴の周りをなぞった。
 先に先生がいじっていたからか、そこは柔らかくて、指で押せば、ぬぷぅって喰い付いて来た。
 爪、切る習慣があって良かった。パン屋でのバイトの時に、店長に『爪は短く!』って怒られてて良かった。

「…っ…ふ…っ…」

 気持ち良いのか悪いのか解んねーけど、漏れる先生の声も、吐く息も熱い。そんな先生の声を聞いたり、恥ずかしそうな顔を見る俺の身体も熱い。何だかんだで、しょんぼりしてた俺のチンコも、先生のチンコも、元気が出て来てる。
 
「手、退けてくれよ。声、聞かせて」

 三本に増えた指を動かしながら、俺は先生の顔を見る。先生は恥ずかしいのか、きつく両目を閉じて、両手で口を押さえていた。目尻に浮かぶ涙が明かりに光って、綺麗だなって思った。
 でも、先生は首を横に振る。
 きっと、また『こんな親父の声なんて』って、思ってんだろな。
 親父じゃなくて、先生の声だから聞きたいんだけどな。

「…指…難なく動かせるし…良い、のか?」

 熱い先生の中で、三本の指をうにうに動かしながら聞けば、先生はやっぱり口を押さえたままで首を縦に振った。

「…声、聞かせてくれよ。俺、一人でヤってるみてーじゃん…こんなの寂しいし…」

「…ほ…まれ…」

 ずっと口を押さえていたからか、上手く動かなくて掠れた様な、呂律が回らない様な、そんな声だった。けど、真っ直ぐと俺を見て、名前を呼んでくれた事が嬉しい。

「うん」

 だから、その気持ちのまま笑えば、ふっと先生も笑った。
 ゆっくりと先生の中から指を抜いて行けば、ヒクヒクとその身体が揺れる。
 手を伸ばして、ローションと一緒に持って来た長細い箱から新しいゴムを取り出す。先生が着けてくれたゴムを外すのは、何か勿体ねーけど。けど、もう、俺の汁でグチョグチョで緩い気がするし…交換した方が良いよな?
 慣れない手付きでゴムと格闘する俺を、先生が優しい顔で…でも、熱い目で見て来る。
 期待…してんだ…?
 初めてだし、上手く出来るか自信なんて微塵もねーけど。
 けど。
 この熱い中に入りたい。
 俺の全部で先生が好きだって教えたい。
 最後の恋だって、先生は言った。
 俺以外、絶対に好きにさせないし、俺だって、先生を最後の恋にする。
 だから。
 教えてやるよ。
 俺の全部。
 
「…的場…」

 先生の膝裏に手を掛けて、持ち上げれば。

「…ああ、来い…」

 先生はいつもの様に、へにゃりと笑った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます

松本尚生
BL
「お早うございます!」 「何だ、その斬新な髪型は!」 翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。 慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!? 俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募するお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...