矢は的を射る

三冬月マヨ

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番外編

オセロじゃない・完(※リバ)

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「んぁ…っ…! あ、あ…っ…!」

 羽間はざま松重まつしげ先生から見たろーたは"絶食系男子"らしい。全然、そう云う匂いがしないとか何とか言ってた。いや、外でも保健室でも、どこでも年中ヤってるお前らと一緒にすんな。ぽやっとしてて、騙されやすそうで、流されやすそうで、ヨレヨレで、性欲なんか欠片も無くて、本さえ与えとけばオッケー…って、ひでー言い草だな、あいつら。取ってつけた様に『ストイック』とか言ってたけど、そんだけ言った後で言われても、なあ?
 で、何を今更そんな事を言ってんのかってーと。

「あぅ…っ…まっ…待っ、て…っ…!」

「…っ…す、まない…っ…!」

 絶賛、ガツガツ戴かれているからだよっ!
 ストイックって、何だっけ?
 俺を見るろーたの目は、全然ヨレヨレなんかじゃねーし。
 眉を寄せて俺を見るろーたの目は、痛いぐらいだ。脳天を貫かれそうな、そんな感じがする。
 汗で濡れて額に張り付いた前髪が、これまた雄みを増しに増してブーストが掛かってるって言うか。
 いや、最初はゆっくりと、ゆるゆると動いてた。
 恐る恐る腰を引いて、で、また進んでを繰り返してた。
 俺の事を気遣ってんだろうなって、思った。
 けど、こんなんじゃ、イくにイけねーじゃん?
 我慢なんてして欲しくねーし?
 もっと気持ち良く、もっともっと幸せになって欲しーし?
 遠慮なんかして欲しくもねーし。
 だから。
 遠慮すんなよって、首に回してた腕に力を入れて更に抱き付いて、両脚をろーたの腰に回して絡めた。
 あれだ。
 ナマケモノの親子が移動するみたいな恰好? 腹に子供を乗せて、木にぶら下がって移動するじゃん? そんな恰好になったんだよ。
 したら、ろーたがビシッて固まった。
 てか、固まったと思ったら、中のチンコが更に大きく硬くなった。
 まだ上があんのかよって思いながらろーたを見たら、大きく目を開いて、ふーふーって、すげー息を荒くしててさ。『あれ?』って、思ったら『…穂希ほまれが悪い…』って言われて、そっからは今までのは何だったんだってぐらいに、動きが変わった。グラインダーだかバインダーだか忘れたけど、そんな動きとか。いきなり豹変したろーたに驚いて、絡めてた脚の力を抜いたら、その脚を取られて広げられて、更に奥を突かれたりとか。
 どこかの忍者みたく、どういう事だってばよ!? って、頭の中で叫んでた。

「…ほ、まれ…一緒に…っ…!」

 で、今。
 ろーたに腹ん中だけじゃなく、手でチンコも扱かれてる俺は瀕死寸前だ。
 腹ん中乱されて、何か気持ち良いかも? って思う。
 実際、チンコはフル勃起だし。まあ、ろーたの腹に擦られてるってのもあるかも知んねーけど。
 けど、それだけじゃ足りなくて、恥ずかしい汁はだらだら出てるけど、射精すまでには至っていない。
 だから、直接刺激をくれんのは有難いんだけど、ずっと寸止め状態だった俺は、もう、ろーたの状態とか考えられなくて。

「ぅんっ…! も…っ、と…っ…!!」

 ろーたの気持ち良い顔を見てーのに。
 そんな余裕無くて。
 ただ、ただ、自分の欲を発散させたくて、腰を動かしてろーたの手にチンコを擦り付けてた。

「ろ、た…っ…!!」

 燻ってた熱が発散されて、頭ん中が真っ白になって、一瞬意識が飛んだんだと思う。
 一瞬だったと思いたい。
 けど、気が付いたら、ろーたのチンコが俺の中から消えてた。
 はあはあと荒い息を吐きながら、チンコからゴムを外すろーたを見る。
 たっぷんとしたそれを結ぶのを見るに、出したのは間違いないんだけど、いつの間にっ!? って感じだ。

「…ゴホッ…!」

 信じらんねー。
 叫べるなら『嘘やんっ!?』って、叫びたかった。けど、実際に出たのは、渇いた咳だけだった。

「ああ、今、水持って来るな」

 ケホケホと咳き込む俺の頭を軽く撫でてから、ろーたはベッドを下りて部屋から出て行った。
 
「あ゙~…」

 まだ、心臓がバクバク言ってる気がする。
 フルマラソン走った時より、キツい。
 腕、いや、指一本動かすのもだりー。
 ろーたも、いつもこんな感じなのか?
 いや、俺、ここまで激しくない…多分…。
 …自信ねーけど…。

「穂希、起き上がれるか?」

「ん…」

 戻って来たろーたの声に、肘をついて起き上がろうとした。

「今、風呂溜めてるから、少し待って…って、穂希?」

「…起き上がれねー…」

 したけど、ずべっ、ずべっ、って肘が滑って駄目だった。

「ああ、すまん…」

 ベッド脇にあるチェストに、カチャと音を立ててろーたが持っていたトレイを置く。そして、俺の身体を抱き起こしてくれた。ちらりと横目で見たトレイには、空のコップと、お馴染みのスポーツドリンクの入ったピッチャーとタオルが乗っていた。

「ぷっはーっ! 生き返るーっ!!」

 ゴッゴッゴッって、ろーたがくれた冷えたスポーツドリンクを飲み干した俺は、風呂上がりにビールをキめた親父そのものな言葉を吐いた。いや、だって、全身に水分が行き渡ってさ、汗がすーって引いてく感じがして気持ち良いんだよ。

「そうか、良かった」

 ほっと息を吐いて、へにゃりと笑いながら、ベッド脇に立つろーたが俺の身体を濡らしたタオルで拭いてくれてる。これが、また気持ち良い。特にベタベタだった腹がさっぱりして最高だ。
 身体を起こしてくれた上に、甲斐甲斐しく全身を拭いてくれるとか、神か。いや、違う。この場合、BLなら…。

「スパダリだ」

「は?」

 ぽつりと呟いた俺の言葉に、脚を拭いてくれてたろーたの手が止まる。

「スパダリってんだろ? こーやって、なんやかんや世話を焼いてくれんの」

 今のろーたは、正しく、それだ。
 うんうんと頷いていたら、ろーたが俺の頭をわしゃわしゃと撫でて来た。

「ん?」

「…スパダリは、穂希だよ」

 何と思って顔を上げたら、思ってもみなかった事を言われて、俺は目を丸くした。

「へ? はあ!? な、何言ってんだ!? お、俺、終わった後、こんな風に身体拭いてやってねーし! てか、いつもろーたが先にやってくれるし! 飲み物だって、ろーたがいつも先に…っ…! き、今日だって、ろーたがイくトコ見てーって言ってたのに、見れなかったし…っ…!!」

 ああああああああ!!
 自分で言ってて情けねーっ!!
 こんな、だる重い身体で、俺、ろーたに何やらせてんだよ!?
 だって、ろーた、全然そんなそぶり見せねーし!
 俺、ろーたに世話焼かせてばっかじゃんっ!
 
「いつもいつも、俺の事ばかり考えて、優先してくれて…今日だって、俺を再び男にしてくれた。そんな穂希の何処がスパダリじゃないんだ?」

 なのに、ろーたは優しく頭を撫でながら、やっぱり優しい声で言った。

「へあ…っ…」

 頭を撫でてた手が頬に下りて来て、顔を動かされて至近距離でろーたと目が合う。
 へろへろと目を動かす俺とは逆に、ろーたの目はとっても落ち着いていた。
 黒いその目に映る俺の顔は、とんでもなく情けない。

「…そろそろ溜まった頃だから、風呂へ行こう。な?」

 それなのに、そんな俺が好きなんだって言う様に、ろーたは軽く目を細めて微笑む。

「あ、い…」

 するりと頬を撫でられ、その手で軽く右手を持ち上げられた俺は、ただ大人しく頷いた。

 ◇

「うぐぅ~…」

 ぴるぴる震える脚じゃまともに歩く事も出来なくて、ろーたに引き摺られる様にして風呂場に連れて来られて、身体も頭もろーたに洗って貰った俺は、湯舟に浸かりながら…ろーたに後ろ抱っこされながら…泣いてた。

「ろーたがイイ男過ぎて辛い…」

 俺には、無理。
 幾ら年輪じゃなくて、歳を重ねても、ろーたみたいにはなれない。

「いや、穂希の欲目だから…目が腫れるぞ」

 腹にあるろーたの手が、さすさすと宥める様に動く。
 猫とか犬とかの気分だ。
 腹を晒すのは降参の合図だとか言うけど、俺も同じ。
 ろーたに全面降伏だ。
 だって、こーやって腹を撫でられると安心する。
 もっと撫でて欲しいし、この手を失くしたくないし、離したくない。
 ぎっちぎちの風呂の中じゃ、自由に身体を動かす事も出来ない。
 けど、ぴったりとくっつく事は出来る訳で。
 とくんとくんって、背中に響くろーたの心音が心地良い。
 それに耳を澄ませていたら、だんだんと涙も落ち着いて来た。

「…欲目…って、ぜってぇ、ろーたの方が強い…」

「そうかな?」

「おっ、俺の事、す、スパダリとか、ろーたしか言わねーし…」

 今、ここに羽間が居たら、腹抱えて笑ってる。間違いない。

「それは良かった」

「へ!?」

 何が!?

「穂希の良さは、俺だけが知っていれば良い。俺の良さを、穂希だけが知っているみたいに…そうだろう?」

「ろぉたぁ…」

 も、ずるい。
 本当に、ずりー。
 耳元で、深く、そんな優しい声で言われたら、たまんない。
 止まりそうだった涙が、また出て来る。
 大人、ずるい。
 ろーた、ずるい。
 けど、こんなろーたも好きだ。
 どんなろーたでも、俺の事を好きなろーただし。

「つ、次は俺がヘロヘロにしてやる…っ…! み、見動き出来ねーよーにして、俺が世話を焼く…っ…!」

 ぐいって腕を動かして、浮かんでた涙を拭って叫べば、背中にあたるろーたの胸がピクッて震えた。

「おぉ…お手柔らかに頼む」

「って、笑いながら言ってんじゃねーっ!」

「笑っていない」

「胸がピクピク動いてんだよっ!!」

「あ」

「ったく…」

 唇を尖らせたけど、それはすぐに緩んだ。
 だって、こんな遣り取りもやっぱ楽しいし。
 ずっと、こんな風にしていけたらいいなって思う。
 いや、そうする。
 ろーたが最後の恋って言った様に、俺もこれを最後の恋にするから。
 なんて思ってたら、肩にトンってろーたの顎が乗せられた。

「ろーた?」

「…今日は…ありがとう…。穂希は本当に…良い男だよ」

 イイ男って言われて、俺の心臓がバックンって鳴った。
 耳元で不意打ち、ずりー!!

「お、ん…ろーたもな…」

 顔だけじゃなく、耳も首も真っ赤だ。のぼせた訳じゃない。いや、ろーたの声でのぼせたかも知んない。

「これからも、宜しくな」

「当たり前だ!」

 返事をして、二人で笑い合う。
 何だかんだで、これからもこんな遣り取りをしてくんだろうな。
 ぎっちぎちの風呂から出て、パジャマを着て、冷えたスポーツドリンクで水分補給してから、二人で並んでベッドで横になる。
 後ろから腹に回されたろーたの手に、軽く手を置いて俺は目を閉じる。
 とくんとくんって、背中から伝わって来るろーたの心音が心地良い。
 ろーたもそう思ってくれてたら嬉しい。
 ふっ、って軽く息を吐いて笑って、ろーたの手の上に置いた手に力を入れる。そうすれば、ぎゅって腹に回された腕に力が入った。
 それが嬉しくて、軽く指先でぺしぺし叩いた後、俺は『おやすみ』って言った。

 ――――――――後で知った事だけど、俺のナマケモノスタイル。
 あれは"だいしゅきホールド"と呼ばれる物で、かなりの確率でフダンシの理性を吹き飛ばす物らしい。
 また、俺が抱かれる時は気を付けようと思った。
 …自信ねーけど…。
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