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番外編
猿に烏帽子
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「えっと…?」
不思議そうに塊羅は目を丸めて、小さく首を傾けた。
ここは塊羅の自室。
夕餉を終え、湯浴みも済ませ、もう後は眠るだけと思っていた頃だった。
寝床を整えた紫が部屋を去ろうとしたのをホウが止め、その腕に希求を預けて下がらせた。
そして、今、塊羅とホウは敷かれた布団の上で向かい合っていた。
「…いや…去年はノゾミが産まれたばかりで…」
「…うん?」
塊羅の前でホウが胡坐を掻き、視線を泳がせながら頭を掻く。
(そんなに乱暴に掻いて髪の毛が抜けないのか不安になるな…)
睡魔が巡る頭で、塊羅はぼんやりとそんな事を思った。
ホウとは違い、塊羅は背筋を伸ばして正座をしている。
火鉢の炭のパチパチと小さく弾ける音が部屋の隅で聞こえる。就寝前に、紫が新たに足して行った物だ。朝、目覚める前に、紫なり、他の蝶がまた炭を足しに来て、常に部屋を暖める様になっていた。
山の中だけあって、ここの冬は寒い。閉じられている障子戸を開ければ、白い月に照らされた、雪に覆われた庭が見える事だろう。
「…今日は藍の月の二日目で…」
藍の月。日本風に言えば、それは一月を指す。
一昨年前に、この世界に喚ばれ、その翌年に塊羅は希求を出産した。
騙し打ちの様に孕まされ出産したが、塊羅に後悔は無い。
己の内から誕生した生命は、やはり愛おしい物なのだと塊羅は思った。
ただ、やはり"そこ"から出るのかと思いはしたが。
(…まあ…入れた処から出るのは当たり前だよな…)
情緒も何も無い事を思う塊羅の前で、ホウはボソボソと言葉を紡ぐ。
「…夫婦は…この日にまぐわえば、その年は円満に暮らせる…」
「うん?」
(…教えて貰っていない言葉が出て来たな? 後で紫と桜色に聞くか…)
「だから…って、ああ、まどろっこしい!!」
「え?」
頭を掻くのを止めたホウの両腕が塊羅の肩へと伸び、その身体を後方へと押し倒した。
どさりと布団の上へと押し倒されて、塊羅はホウを見上げた。
(…やたら畏まっているから、何かと思えば…。したかっただけか…)
部屋の隅に一つだけ灯る行燈でも、この近さでは流石にその顔色が解ると云う物だ。やや上気したホウの顔色に塊羅は内心驚きつつも、その逞しい背中へと腕を回した。
◇
この時の塊羅は、それを知らなかった。
ホウが口にしていたのは『秘め始め』…まるで日本の文化の様なそれは、かつての黒髪の蜘蛛が齎したと言われている。
塊羅の言葉を理解しようと調べていた時に、ホウはそれを知った。
ホウなりに気を遣い、塊羅を喜ばせ様としたのだが、慣れない事はする物じゃないと、己の熱に酔う塊羅を見ながらホウは思った。
不思議そうに塊羅は目を丸めて、小さく首を傾けた。
ここは塊羅の自室。
夕餉を終え、湯浴みも済ませ、もう後は眠るだけと思っていた頃だった。
寝床を整えた紫が部屋を去ろうとしたのをホウが止め、その腕に希求を預けて下がらせた。
そして、今、塊羅とホウは敷かれた布団の上で向かい合っていた。
「…いや…去年はノゾミが産まれたばかりで…」
「…うん?」
塊羅の前でホウが胡坐を掻き、視線を泳がせながら頭を掻く。
(そんなに乱暴に掻いて髪の毛が抜けないのか不安になるな…)
睡魔が巡る頭で、塊羅はぼんやりとそんな事を思った。
ホウとは違い、塊羅は背筋を伸ばして正座をしている。
火鉢の炭のパチパチと小さく弾ける音が部屋の隅で聞こえる。就寝前に、紫が新たに足して行った物だ。朝、目覚める前に、紫なり、他の蝶がまた炭を足しに来て、常に部屋を暖める様になっていた。
山の中だけあって、ここの冬は寒い。閉じられている障子戸を開ければ、白い月に照らされた、雪に覆われた庭が見える事だろう。
「…今日は藍の月の二日目で…」
藍の月。日本風に言えば、それは一月を指す。
一昨年前に、この世界に喚ばれ、その翌年に塊羅は希求を出産した。
騙し打ちの様に孕まされ出産したが、塊羅に後悔は無い。
己の内から誕生した生命は、やはり愛おしい物なのだと塊羅は思った。
ただ、やはり"そこ"から出るのかと思いはしたが。
(…まあ…入れた処から出るのは当たり前だよな…)
情緒も何も無い事を思う塊羅の前で、ホウはボソボソと言葉を紡ぐ。
「…夫婦は…この日にまぐわえば、その年は円満に暮らせる…」
「うん?」
(…教えて貰っていない言葉が出て来たな? 後で紫と桜色に聞くか…)
「だから…って、ああ、まどろっこしい!!」
「え?」
頭を掻くのを止めたホウの両腕が塊羅の肩へと伸び、その身体を後方へと押し倒した。
どさりと布団の上へと押し倒されて、塊羅はホウを見上げた。
(…やたら畏まっているから、何かと思えば…。したかっただけか…)
部屋の隅に一つだけ灯る行燈でも、この近さでは流石にその顔色が解ると云う物だ。やや上気したホウの顔色に塊羅は内心驚きつつも、その逞しい背中へと腕を回した。
◇
この時の塊羅は、それを知らなかった。
ホウが口にしていたのは『秘め始め』…まるで日本の文化の様なそれは、かつての黒髪の蜘蛛が齎したと言われている。
塊羅の言葉を理解しようと調べていた時に、ホウはそれを知った。
ホウなりに気を遣い、塊羅を喜ばせ様としたのだが、慣れない事はする物じゃないと、己の熱に酔う塊羅を見ながらホウは思った。
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