移動先は三食昼寝デザート付き

三冬月マヨ

文字の大きさ
38 / 38
番外編

猿に烏帽子

しおりを挟む
「えっと…?」

 不思議そうに塊羅かいらは目を丸めて、小さく首を傾けた。
 ここは塊羅の自室。
 夕餉を終え、湯浴みも済ませ、もう後は眠るだけと思っていた頃だった。
 寝床を整えた紫が部屋を去ろうとしたのをホウが止め、その腕に希求のぞみを預けて下がらせた。
 そして、今、塊羅とホウは敷かれた布団の上で向かい合っていた。

「…いや…去年はノゾミが産まれたばかりで…」

「…うん?」

 塊羅の前でホウが胡坐を掻き、視線を泳がせながら頭を掻く。

(そんなに乱暴に掻いて髪の毛が抜けないのか不安になるな…)

 睡魔が巡る頭で、塊羅はぼんやりとそんな事を思った。
 ホウとは違い、塊羅は背筋を伸ばして正座をしている。
 火鉢の炭のパチパチと小さく弾ける音が部屋の隅で聞こえる。就寝前に、紫が新たに足して行った物だ。朝、目覚める前に、紫なり、他の蝶がまた炭を足しに来て、常に部屋を暖める様になっていた。
 山の中だけあって、ここの冬は寒い。閉じられている障子戸を開ければ、白い月に照らされた、雪に覆われた庭が見える事だろう。

「…今日は藍の月の二日目で…」

 藍の月。日本風に言えば、それは一月を指す。
 一昨年前に、この世界に喚ばれ、その翌年に塊羅は希求を出産した。
 騙し打ちの様に孕まされ出産したが、塊羅に後悔は無い。
 己の内から誕生した生命は、やはり愛おしい物なのだと塊羅は思った。
 ただ、やはり"そこ"から出るのかと思いはしたが。

(…まあ…入れた処から出るのは当たり前だよな…)

 情緒も何も無い事を思う塊羅の前で、ホウはボソボソと言葉を紡ぐ。

「…夫婦は…この日にまぐわえば、その年は円満に暮らせる…」

「うん?」

(…教えて貰っていない言葉が出て来たな? 後で紫と桜色に聞くか…)

「だから…って、ああ、まどろっこしい!!」

「え?」

 頭を掻くのを止めたホウの両腕が塊羅の肩へと伸び、その身体を後方へと押し倒した。
 どさりと布団の上へと押し倒されて、塊羅はホウを見上げた。

(…やたら畏まっているから、何かと思えば…。したかっただけか…)

 部屋の隅に一つだけ灯る行燈でも、この近さでは流石にその顔色が解ると云う物だ。やや上気したホウの顔色に塊羅は内心驚きつつも、その逞しい背中へと腕を回した。

 ◇

 この時の塊羅は、それを知らなかった。
 ホウが口にしていたのは『秘め始め』…まるで日本の文化の様なそれは、かつての黒髪の蜘蛛が齎したと言われている。
 塊羅の言葉を理解しようと調べていた時に、ホウはそれを知った。
 ホウなりに気を遣い、塊羅を喜ばせ様としたのだが、慣れない事はする物じゃないと、己の熱に酔う塊羅を見ながらホウは思った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

処理中です...