攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略されていたのは、俺?

【08】

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『君色の風』

 それは、俺が前世でプレイしていた、大人の男の子向けゲームのタイトルだ。
 女神のガディシス様が唯一の神とされていて、王族やら、貴族階級みたいな松竹梅があるが、基本、生活習慣は現代日本と変わらない。
 水道があって、蛇口を捻れば水が出るし、トイレも水洗だし、トイレットペーパーもある。ぼっとん式で、荒縄で尻を拭くとかじゃなくて良かったよ。流石、日本人が作った日本人に優しいゲームだ。
 そんな世界に、それぞれの魅力を持った、ヒロイン達が五人。
 それぞれのヒロイン達に設定されてるエンディングは三種類。ノーマル、トゥルー、バッド。五人分だから、全部で十五だな。それらのエンディングを全て見ると、ハーレムルートが選べる様になる。そこにも、ノーマル、トゥルー、バッドの三種類が用意されている。で、それらも全部見れば、隠しキャラが出て来る。生憎と、俺にはハーレムルートをクリアした記憶が無い。から、隠しキャラがどんな子なのかは全然解らない。攻略本なり、攻略サイトを見ろって? 馬鹿野郎、そんな事したら楽しみが半減するだろ? この選択肢なら、ここがこうなって…って、考察して行くのが楽しいんじゃないか。そうだろ?
 で、今、何でそんな話をしてるのか? って?
 …出て来ないんだよ、ヒロインが。一人も。ヒロインのヒの字も無いんだよ。
 俺とメゴロウが出逢ってから、一週間経ったのに、ヒロインが出て来ないんだよ。どうなっているんだ?
 ありえないだろ。ヒロイン不在のエロゲなんて、誰がやるんだよ。何の苦行なんだよ。
 そこで、俺は考えた。これは、隠しキャラルートなのでは? と。
 それなら、表のヒロインが出て来ないのにも納得出来る…気がする。いや、したい。
 だが、俺はその隠しキャラを知らない。
 が、もしかしたらウーゴ教諭なのでは? と、思っている。
 ゲーム内でビジュアルあったし、口元のほくろはエロいし、白衣の下は白いシャツのボタンを三つ開けて、その日によって違う色のブラとふくよかな胸の谷間をチラ見せ、スカートも膝よりちょい上のタイトスカートってのか? ピッタリとしていて、それがまたセクシー。ふわりとウェーブの掛かった濃い紫色の髪は背中まであって、現実ではお目に掛かれない、けしからん教諭だ。教育委員会から、殴り込まれても文句は言えない。けど、ここはゲームの世界だから、無問題もうまんたい。奇抜な髪の色も無問題。だって、ヒロインの一人は、目に痛いショッキングピンクだった。それに比べたら、紫なんて、紫の薔薇の人でお馴染みの色だ。それに何より、大人の女性だ。五人のヒロイン達は、一学年上だったり、同級生だったり、下だったりしたが、その遥か高みに居る大人の女性なのだ。綺麗なお姉さんは好きですか? の、綺麗なお姉さんなのだ。

 …そうか…メゴロウは、綺麗なお姉さんの手解きで筆おろしをするのか…。

「…ケタロウ様…? 眠れないんですか?」

 じっと、隣で眠るメゴロウの顔を見ていたら、ぱちりと閉じられていた目が開いた。

「…ああ、起こしてしまったかい? いや、君の寝顔が余りにも可愛らしくてね」

 ふっ…と、自称王子様スマイルを浮かべれば、メゴロウはサッと布団の中に潜ってしまった。
 
 く…っ…! まだ、俺の笑顔は凶悪なのか!? だいぶ、さり気なく笑える様になったと思ったんだが!?

「そ…、そう云う事は軽々しく口にしてはいけません…っ…!」

 モゴモゴと布団の中からメゴロウの声が聞こえる。

 ん~?

「君が可愛いのは事実だし、私は、君にしかこう云う事は言わないよ?」

 うん。
 一人で眠れないとか、本当に、幾つの子供だよって言いたいが、家族と遠く離れてここに居るんだ。寂しくて当然だろう。その寂しさを紛らわせる事が出来るなら、添い寝の一つや二つバチこいだし、飯を食わせるのだって、鳥の雛に餌をやってる感じで、これまた可愛らしい物だ。メゴロウは親友候補であり、歳の離れた弟の様なものだ。って、俺、幾つで死んだんだ? 何か、そこら辺はぼんやりなんだよな。まあ、別に良いけど。俺は、今、ケタロウとして生きているんだし。
 …ああ…そしたら、俺、家を継がないとならないのか? 長男だもんなあ…。嫌だなあ、商売人なんて柄じゃあないんだよな、俺。サービス残業なんて真っ平ゴメンだし、おべんちゃらトークも出来ないぞ。
 ケタロウの生家は代々続く商家だ。王家との取引もある。勘弁してくれと思う。ケタロウ自身だって、そんなのの跡は継ぎたくないんだよな。どっかの田舎に引っ込んで、のんびりと暮らしたいんだ。卒業したら、そのまま商会の手伝いをして、ゆくゆくは…かあ…。定められたレールなんて、クソ喰らえと思うものの、表面は良い子ちゃんだから、口に出せなくて…。そんな鬱憤も、メゴロウへの虐めに含まれていたのかもなあ。ゲーム内では描かれて無かったけど。…不器用で不憫な奴だな…。

「…寂しいのですか…?」

 ふっ…と、自嘲気味に笑った時、布団の中から気遣う様なメゴロウの声が聞こえた。

「…そうかもね…ほら、もう眠ろう」

「…わ!?」

 手を動かして、メゴロウの頭の後ろに回してその顔を胸に引き寄せれば、彼は大袈裟な声を上げたけれど、それでも俺の胸に収まってくれた。

「おやすみ…」

 このことに、心の何処かで安堵してる俺が居る。
 …こんな温もりを求めていたのは、ケタロウの方なのかもな…。
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