攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略されていたのは、俺?

【09】

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「…っ…は…」

 …何だ…?
 身体が…熱い…。

「…ん…っ、あぁ…っ…!?」

 ゴリッ、と身体の奥を熱い何かで抉られて、俺は目を開けた。

「…ああ…流石に起きちゃうか…」

 そこに居たのは、仄かな明かりの中で、額に汗を浮かべて、薄く唇を開いて何処か妖艶に笑うメゴロウだった。

「…メ…ゴロウ君…? 何を…?」

 涙の滲む目で、俺の上に居るメゴロウを見れば、彼はぺろりと唇を舐めて笑う。

「この状況で…それを訊くあなたでは無いでしょう?」

 この状況って…訳が解らないから訊いているんだよ…っ…!
 何でっ、俺のっ、尻にっ、お前のっ、ちんこがインサートされてんだよっ!?
 寝間着は開けられていて、下は当然ながら、何も身には着けていない。インサートされたちんこが身に纏う物に含まれるのかは謎だが。

「ああっ!? や、め…っ…!!」

 やめろって、言いたいのに、実際に口から出る言葉はこんなんで。
 何で、何で、何で!?
 何で、こんなになるまで気付かなかった!?

「…本当に…のあなたは…面白いね…」

 何だ? 何を言っているんだ?
 やめろ…っ…! 動くな!!
 何で、俺相手に…男相手におっ勃ててんだよ!?
 綺麗なお姉さんが居るだろ!?

「…っは…熱い…。…つもは…めた…」

 何だ? 何だ!? これは一体、何なんだ!?
 こいつは、本当に、あのメゴロウなのか!?

 ◇

「やめ…っ…!!」

 その声がやけに大きく聞こえて、俺は目を開けた。

「…え…?」

 ベッドで寝ていた俺の目に映るのは、見慣れた部屋の白い天井だ。染み一つない、綺麗な。
 顔を動かして隣を見れば、メゴロウの姿は無い。
 のそのそと上体を起こして、部屋の様子を見る。何も変わった処は無い。何時もの朝だ。

「…な、んだ…?」

 はっはっ、と吐く息は荒く、心臓もドクドクと脈打っている。が、開けられていた寝間着は今は何とも無いし、下半身に違和感も無い。

「…ゆ、め…?」

 右手の甲で、額に浮かぶ汗を拭って、俺は長い息を吐いた。

「…夢かあ~…」

 もう一度、長い息を吐いて俺は両手で顔を覆った。

 何・だ・あ・の・夢・は。

 …メゴロウと…いやんばかんって、おい…俺、最低過ぎるだろ…。
 大体、何だ、あのメゴロウは。
 あんなに可愛くて素直で純粋で無垢なメゴロウが、あんな事言う訳もする訳も無いだろうが。あんな表情かおだって…。…何か…闇を孕んでいそうな、あんな表情する筈が無い。

「…あ」

 そうか、これが強制力って奴か? 
 本の世界やゲームの世界に転生すると、どんなに足掻いても、そのシナリオ通りに進めさせようとする力が働くって奴だ。
 こんな夢を見せて、メゴロウに対するイメージを変えさせて、ゲーム通りに、俺にメゴロウを虐めさせようとしているのか? どうしても、俺を殺したいって言うのか?
 こっわっ…! 勘弁してくれよ、女神ガディシス様。
 俺は、死にたくないぞ。首吊りなんて、ノーセンキューだ。

「おはようございます、ケタロウ様。コーヒーを淹れましたけど飲みますか?」

 顔を押さえながら天を仰いだ時、軽いノックの音と共に、メゴロウが寝室のドアを開けて顔を覗かせて来た。

「ああ、ありがとう。何時もすまないね」

 初日はベッドから転げ落ちたメゴロウだったが、俺が何時でもバチこいって言ったせいか、その夜から普通に俺とメゴロウは一緒に寝てる。夜はまだ冷えるから、湯たんぽならぬメゴたんぽだ。メゴロウは、毎朝俺よりも早くに起きて、コーヒーを淹れてくれる。俺が淹れるのより、ずっと旨い。まあ、誰かが淹れてくれたってだけで、旨く感じるし、また、嬉しいんだが。

「いいえ。実家に居た頃は、もっと早くに起きていましたから」

 俺が礼を言えば、何時も照れ臭そうに笑う。本当に可愛い弟の様なものだ。ピヨピヨと、俺の後を付いて来る可愛い雛鳥だ。
 それなのに。
 何て夢を見せてくれるんだ、女神様は。
 あんな夢を俺に見せるより、ウーゴ教諭をメゴロウの夢に出させてやれよ。綺麗なお姉さんと、キャッキャウフフさせてやれ。ついでに俺にも、何時かは出逢うかも知れない、可愛い子ちゃんの夢を見させてくれ。他人から見て美人だったり、可愛かったりとかより、俺から見て、そう云う子が良いなあ。メゴロウみたいに、懐っこい子が良いなあ。純粋な笑顔を見せてくれる子が良いなあ。
 そんな事を思いながら、寝室から出てリビングへと出れば、コーヒーの芳ばしい匂いが漂って来た。その匂いに誘われる様に、ソファーへと腰を下ろし、ローテーブルに用意されていたコーヒーカップを手に取った。メゴロウも同じ様に、俺の対面のソファーへと腰を下ろした。
 少しだけ伏し目がちにして、コーヒーを啜るメゴロウに俺は目を細めた。
 何時ものメゴロウだ。
 あんな夢に出て来たメゴロウとは、似ても似つかない。
 そう云えばと、俺は目の前で、クッキーを摘まみながらコーヒーを飲むメゴロウを見る。あ、このクッキーは俺の家から送られて来た奴だ。週イチぐらいで届くんだが、メゴロウが居るから、頻度を上げて貰うか量を増やして貰うかしないとだな。
 と、それは置いといて。
 …こいつ…勃起するのか…?
 いや、するだろう。健全な青少年だ。勃起しない方がおかしい。毎晩俺と寝てるけど、こいつはちゃんと処理してるのか? 俺? 俺は元々淡白だからな。

「…ケタロウ様? 僕の顔に何かついていますか?」

 じっと見ていたせいだろう。メゴロウが飲んでいたカップを更に置いて、ぺたぺたと両手で顔を触り出した。
 あ、口の端にクッキーのカスが付いてるな。
 俺は腰を浮かせて、目の前のメゴロウの顔に手を伸ばして、口の端にくっついてるカスを指で摘まんで言った。

「ああ、いや。…君は性欲処理をどうしているのかと思ってね」
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