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幕間
とあるゲーマーの一生【前編】※
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「…おお…ついに、ついに手に入れたぞ…」
街中にあるビルの地階にあるバナナブックスから出て、コインパーキングに停めてある車に乗り込んで、俺はやっとその感慨を声に出した。
『君色の風』
それは、先週発売されたエロゲーのタイトルだ。有名メーカーなのもあるが、シナリオが、あの、田中征爾なのだ。小説家でもある彼は、ここ数年何をとち狂ったのか、BがLする物ばかりを書いていた。ゲームのシナリオもだ。生憎と俺にはその世界が解らず、手を付けていなかった。その彼が、数年ぶりにエロゲー界に還って来た。それを知った時の俺の喜びが解るだろうか? 発売前からSNSでは、このゲームに関する事で賑わっていた。発売後の今もそれは変わらず、いや、更に白熱している。なるべくネタバレ関連は見ない様にしてはいたが、どうしても目に入って来てしまう物は仕方が無い。
ヒロインは全員で五人。だが、隠し攻略キャラが居るらしいとの事。
そのキャラを攻略出来る様にする為には、全ヒロインの総てのルートを見ている事が条件だと。
エッチ無しのノーマルエンド。
エッチ有りのトゥルーエンド。
さよならバイバイのバッドエンド。
これら総てを見た上で進める事になる、男の欲望全開のハーレムルート。が。これにも、ノーマル、トゥルー、バッドがあるとの事。おい、鬼だな、田中サンよ。その鬼の所業を乗り越えて、漸く隠しキャラを攻略出来る様になるとの事。
先週発売されたばかりなのに、何でここまで解るのかって? それは、やはりSNSの力だ。ツイ民の"しまあつ"彼は、昔から田中征爾が手掛けたシナリオのゲームは一つ残さずプレイしている。硬派なRPGも、乙女ゲームも、BLゲームもだ。その彼の情報だから、間違いは無い。これまでにも間違いは無かったし、これからも無いだろう。しまあつは、田中サンの裏垢だとの噂もあるが真偽は解らない。
「ま、とにかく。…誰から攻略しようかな」
パラパラとゲームに梱包されていた小冊子を見ながら、俺は呟く。その間に、パソコンのモニターではオープニングが流れていた。
『…見つけました…。力を持つ者よ…』
永遠の二十七歳で有名な声優に似た女性の声が、耳に心地良い。
銀色が眩しい、何処まで伸ばせば気が済むんだと問いたいぐらいの長い髪を靡かせた女神様が、一人の少年の前に立っていた。彼が主人公だ。名前を教えろと言われたが、俺はいつもデフォルトの名前をそのまま使用している。トンドラだろうと、ゲリゲリだろうとばちこいだ。
『…メゴロウ…貴方にお願いがあります…』
と、女神様が話し出したんだが、音声は無く、だら~っとしたテロップが縦スクロールで流れ出した。
"この先、国を、世界を覆う闇が………………………"
長いわっ!! 俺はオートにして、小冊子のヒロイン紹介を見るのに専念した。
「おっ。クーデレの眼鏡会長良いな。こっちのピンクの子はギャルギャルしいから、ちょっと…あ、大和撫子っぽい子も居るのか。あ、ロリ巨乳もいる。ショートスポーツ少女! 良いね、良いね! まあ、まずはクーデレかな。あ、オープニング終わってるわ。これ、自室か? 広いな、おい! ま、良いか。さって、眼鏡の下の素顔を見せて貰おうかな」
◇
数時間後、俺はマウスの上に手を置いたまま、泣き崩れていた。
「…鬼…田中の鬼…何でクーデレの会長殺すんだよ…。バッドエンド過ぎるだろう…うっ、うっ…。…何処だ? 何処で間違えたんだ? 最初か? それとも、あそこか?」
更に数時間後、何故か大和撫子ちゃんが死んで、俺はやはり泣いた。
「何処で大和撫子ちゃんのフラグが立ったんだよ!? てか、何で死ぬんだよ!? まさか、バッドエンド皆これなのか!? どんな地獄だよっ!!」
更に数時間後には、ロリ巨乳ちゃんが風呂でリスカしていた。
「たなかーっ!!!!!!!」
そのまた数時間後には、きゃぴきゃぴピンクが噴水に浮かんでいた。
「うおおおおおおいっ!?」
そのまた以下略には、スポーツ少女がアキレス腱を切って、校舎の屋上からトマトしていた。
「ぎゃああああああああっ!!」
酷い、酷過ぎると、俺はこの日のプレイ続行を諦めて、泣きながらベッドへと潜り込んだ。
◇
『お話中失礼する。ウ・ケタロウ様。これから貴方を断罪させて頂く』
「あ、れ?」
ムービー? え、何でいきなり? てか、じゃあ、これってご馳走シーンも、ムービーって事か?
あれから何度かリトライして、俺はやっとクーデレ元会長と良い雰囲気になった。何で"元"かって? 会長は主人公が学園に来た時には、既に三年生。去年卒業して、同じ敷地内にある大学部に進学していたからだ。
そう。クーデレ会長と、こうなるまでにゲームでは実に一年、いや、約二年が経過していた。何故なら、今日は主人公の卒業式だからだ。
…酷過ぎないか? 約二年だぞ? その間、他の子にちょっとでも気を取られたら、クーデレ会長は集団レイプされて、主人公の目の前で舌を噛むんだぞ? 地獄過ぎないか? 田中サン、あんまり過ぎ。闇深過ぎ。
街中にあるビルの地階にあるバナナブックスから出て、コインパーキングに停めてある車に乗り込んで、俺はやっとその感慨を声に出した。
『君色の風』
それは、先週発売されたエロゲーのタイトルだ。有名メーカーなのもあるが、シナリオが、あの、田中征爾なのだ。小説家でもある彼は、ここ数年何をとち狂ったのか、BがLする物ばかりを書いていた。ゲームのシナリオもだ。生憎と俺にはその世界が解らず、手を付けていなかった。その彼が、数年ぶりにエロゲー界に還って来た。それを知った時の俺の喜びが解るだろうか? 発売前からSNSでは、このゲームに関する事で賑わっていた。発売後の今もそれは変わらず、いや、更に白熱している。なるべくネタバレ関連は見ない様にしてはいたが、どうしても目に入って来てしまう物は仕方が無い。
ヒロインは全員で五人。だが、隠し攻略キャラが居るらしいとの事。
そのキャラを攻略出来る様にする為には、全ヒロインの総てのルートを見ている事が条件だと。
エッチ無しのノーマルエンド。
エッチ有りのトゥルーエンド。
さよならバイバイのバッドエンド。
これら総てを見た上で進める事になる、男の欲望全開のハーレムルート。が。これにも、ノーマル、トゥルー、バッドがあるとの事。おい、鬼だな、田中サンよ。その鬼の所業を乗り越えて、漸く隠しキャラを攻略出来る様になるとの事。
先週発売されたばかりなのに、何でここまで解るのかって? それは、やはりSNSの力だ。ツイ民の"しまあつ"彼は、昔から田中征爾が手掛けたシナリオのゲームは一つ残さずプレイしている。硬派なRPGも、乙女ゲームも、BLゲームもだ。その彼の情報だから、間違いは無い。これまでにも間違いは無かったし、これからも無いだろう。しまあつは、田中サンの裏垢だとの噂もあるが真偽は解らない。
「ま、とにかく。…誰から攻略しようかな」
パラパラとゲームに梱包されていた小冊子を見ながら、俺は呟く。その間に、パソコンのモニターではオープニングが流れていた。
『…見つけました…。力を持つ者よ…』
永遠の二十七歳で有名な声優に似た女性の声が、耳に心地良い。
銀色が眩しい、何処まで伸ばせば気が済むんだと問いたいぐらいの長い髪を靡かせた女神様が、一人の少年の前に立っていた。彼が主人公だ。名前を教えろと言われたが、俺はいつもデフォルトの名前をそのまま使用している。トンドラだろうと、ゲリゲリだろうとばちこいだ。
『…メゴロウ…貴方にお願いがあります…』
と、女神様が話し出したんだが、音声は無く、だら~っとしたテロップが縦スクロールで流れ出した。
"この先、国を、世界を覆う闇が………………………"
長いわっ!! 俺はオートにして、小冊子のヒロイン紹介を見るのに専念した。
「おっ。クーデレの眼鏡会長良いな。こっちのピンクの子はギャルギャルしいから、ちょっと…あ、大和撫子っぽい子も居るのか。あ、ロリ巨乳もいる。ショートスポーツ少女! 良いね、良いね! まあ、まずはクーデレかな。あ、オープニング終わってるわ。これ、自室か? 広いな、おい! ま、良いか。さって、眼鏡の下の素顔を見せて貰おうかな」
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数時間後、俺はマウスの上に手を置いたまま、泣き崩れていた。
「…鬼…田中の鬼…何でクーデレの会長殺すんだよ…。バッドエンド過ぎるだろう…うっ、うっ…。…何処だ? 何処で間違えたんだ? 最初か? それとも、あそこか?」
更に数時間後、何故か大和撫子ちゃんが死んで、俺はやはり泣いた。
「何処で大和撫子ちゃんのフラグが立ったんだよ!? てか、何で死ぬんだよ!? まさか、バッドエンド皆これなのか!? どんな地獄だよっ!!」
更に数時間後には、ロリ巨乳ちゃんが風呂でリスカしていた。
「たなかーっ!!!!!!!」
そのまた数時間後には、きゃぴきゃぴピンクが噴水に浮かんでいた。
「うおおおおおおいっ!?」
そのまた以下略には、スポーツ少女がアキレス腱を切って、校舎の屋上からトマトしていた。
「ぎゃああああああああっ!!」
酷い、酷過ぎると、俺はこの日のプレイ続行を諦めて、泣きながらベッドへと潜り込んだ。
◇
『お話中失礼する。ウ・ケタロウ様。これから貴方を断罪させて頂く』
「あ、れ?」
ムービー? え、何でいきなり? てか、じゃあ、これってご馳走シーンも、ムービーって事か?
あれから何度かリトライして、俺はやっとクーデレ元会長と良い雰囲気になった。何で"元"かって? 会長は主人公が学園に来た時には、既に三年生。去年卒業して、同じ敷地内にある大学部に進学していたからだ。
そう。クーデレ会長と、こうなるまでにゲームでは実に一年、いや、約二年が経過していた。何故なら、今日は主人公の卒業式だからだ。
…酷過ぎないか? 約二年だぞ? その間、他の子にちょっとでも気を取られたら、クーデレ会長は集団レイプされて、主人公の目の前で舌を噛むんだぞ? 地獄過ぎないか? 田中サン、あんまり過ぎ。闇深過ぎ。
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