攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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幕間

とあるゲーマーの一生【後編】※

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『タブーなんてクソ喰らえ、我が道を往く』

 それが、田中サンの持ち味な訳なんだけど。
 けど、卒業式に断罪とは、随分と王道だな? それを求められたのか?
 でも、クーデレ元会長カッコイイな。次から次へと手にしたファイルの内容を読み上げてるよ。
 まあ、それに動じず聞いてるケタロウも、なかなかの心臓の持ち主だが。
 それに比べて主人公は俯いていて、表情が解らないな。
 今まで虐められて来ただろう? 便乗して何か喋れば良いのにな。あ、ちらっと見えた。唇噛んで、拳を握ってる。言いたい事があるんだろう? 言えよ。プレイヤーの気持ちを代弁してこその主人公だろう? 何で何も言わないんだ?

『…そう。それで総てかい? 私は忙しいので、これで失礼するよ』

『待ちなさい。これを見ても、同じ事が言えるのか?』

 そこでクーデレ元会長が、小脇に抱えていた物を両手で広げてバンッと、ケタロウへと見せた。見せ方はアレだ。テレビでよく見る、裁判の判決での『勝訴』とか書かれたのを見せて走るアレ。ズームアップされたそれには小難しい言葉が並んでいたが、要約すると。

『ウ・ケタロウを絞首刑に処す(王様の署名&判子)』

 ――――――――は…?

「…え、何で…?」

 絞首刑って、首吊り…だよな…? この日本の様な世界で今更首吊り? もっと楽な方法があるだろう? いや、てか、虐めただけで死ぬの!? 何で!?

『メゴロウ様は、女神ガディシス様に選ばれた尊いお方。何時か襲い来る災厄の為に、それを防ぐ為になくてはならないお方だと、陛下からお聞きした。その彼の心身を苛む事があっては、決してならない事…――――――――』

 淡々と、冷静にクーデレ元会長が眼鏡を光らせながら話す言葉を、俺はただ唖然としながら聞いていた。
 確かに、オープニングでそんなのがつらつらとテロップで流れていた様な気がするけど…これまでそんな事は出て来なかったから、すっかり忘れていた。

『…そう…。それなら仕方がないね…』

 その呟きは小さな物だった。けど、何故か胸に突き刺さった。切なく、儚く、それは俺の耳に届いた。

「………え…?」

 ケタロウと目が合った。

 周りを生徒達に囲まれたケタロウの前には、クーデレ元会長が立っている。そのクーデレ元会長の隣に主人公、その後ろにクーデレ元会長が連れて来た、多分SPらしき男がぞろぞろと控えている。
 ケタロウは主人公を見たんだろうが…何だ?
 モニターの画面が揺れる。これは、主人公の動揺を表しているのか?

 ふっ…と、一瞬だけだ。ほんの僅か。刹那のとき

「…な…?」

 ケタロウがとても優しく微笑んだ…様に見えた。

「…え…? な、んで…?」

 何で、そんな表情かおで…?

『…嫌だ! 死にたくない!!』

 その一瞬の微笑の後、いきなりケタロウが背中を向けて叫び、走り出していた。

『待ちなさい!! 追って下さい!!』

 は?

 モニターには、叫びながら走って逃げるケタロウの背中が。
 それを追うSP達の黒い背広の背中が映し出されている。

 え? 何で? ケタロウはこんな奴じゃないだろう…いや…死を目前にすれば…こうなる…のか? いや、でも…先刻の…あの微笑みは…何だ? 気にするな…って…言われた気がした…? え、何で?

 何だ何だと考えている間にもムービーは流れて行って、ケタロウはSPに取り押さえられて、その間にご丁寧にも校庭に用意されていた絞首台へと送られて…『死にたくない! 私は知らなかったんだ!!』と、みっともなく泣き叫ぶケタロウを…。

 …え…? 何で…? え…?

 おかしい、何かがおかしい、何が、何かが、引っ掛かる。何が引っ掛かるんだ?

 そう思っている間にムービーは終わり、気が付いたら何処かの部屋に居た。

『…泣かないでくれ…メゴロウ君…。私は、嬉しいんだ…。私がメゴロウ君の力になれるって、陛下から…だから…』

 熱い息を吐きながら、クーデレ元会長が着ていた淡い空色のカーディガンを脱いで、ブラウスのボタンを外して行く。

 あ、ご褒美はムービーじゃないのか。
 …って、え? じゃあ、何でアレだけムービーだったんだ? ヒロイン全員分のムービー作ってあるんだよな? 凄ぇな!

『あ、ん…っ…! や、乱暴にしな、いで…くっ…ん…!』

 なんて思いながらも、俺はマウスをクリックして、会話をオートにした。
 アレはアレで気にはなるが、今はご褒美を堪能だ。

 ◇

「夏休みで、ペーペーが増えてるから気をつけなよ」

「ありがと!」

 盆休みに入ってからゲーム三昧の俺は、日課となった深夜のコンビニに来ていた。昼間は暑くて外に出たくなくて、クーラーの効いた部屋に籠りっぱだ。まあ、夜も夜で暑いが、陽が射さない分マシだよな。
 で、今、コンビニの店長に車に注意しろって言われたが、こんな住宅街で飛ばす馬鹿は居ないって。店を出て、袋から買ったゴリゴリ君ソーダ味を齧りながら、俺はポテポテと歩く。
 休みに入ったお蔭で、ゲームが捗る。七月頭に買った『君色の風』も、ようやっとハーレムルートに入った処だ。SNSでは、隠しキャラがどうたらとの話題が流れて来る様になったから、今は見ていない。自分の手で掴んでなんぼだ。

「…しっかし、ハーレムルートも油断すると、ヒロイン達でバトルロワイヤルするからな…田中サン、実は女嫌いじゃ? …それにしても…」

 結局、ここに来るまでに流れたムービーは、あの一回だけだった。あれは初回プレイ時限定の、時限ムービーなんだろう。

 …何でアレだけなんだろうな? エンディングはオープニングと同じく、クソ長いテロップが流れたから垂れ流した。二周目からはスキップした。気にはなる物の、ご褒美が美味し過ぎて、気が付けば忘れていて、ふとした瞬間に思い出す。

「…まあ、いっか。ん!」

 溶けるのが早くて、まだ棒に残っていたゴリゴリ君がずり落ちて来て、指に付きそうになる。それを慌てて口へと運んだ瞬間、目に眩しい光が飛び込んで来た。ドンッて音が聞こえた気がした。ブレーキの音も。

 ――――――…何で?

 俺が最期に思ったのは、それだけ。

 SNSを切っていた俺は知らない。
 ネットで『名前がーッ!!』とか『汚いぞ田中金返せっ!!』とか『そう云う事かーッ!!』とか『だから、キャラデザもムービーも、あそこだったのかっ!!』とか、騒がれていた事なんて。
 俺は、何も知らない。
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