攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略していたのは、僕

【07】

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 無理矢理、体育館へ連れて行かれて、クラスの子も何人か付いて来て、とてもじゃないけど逃げられなくて、気が付けば十九時を回っていた。
 部活動やってる生徒達の為に、学園の食堂が十八時から開いてるから、皆で食べようってなったけど、それは何とか断った。
 そして、ふらふらとしながら食堂に来たのに、ケタロウ様のケの字も無かった。酷い。もしかしたら、まだ来ていないのかも? って、思ったけど、やっぱり来なかった。

 …いいもん。
 …明日があるもん。
 …うう…。

 ◇

「うわああああっ!!」

 寝坊した! また、寝坊した!!
 昨日、本当に、色んな事があったから…っ…!!
 食べる時間なんて無いから、僕は食堂でキャベツ一玉貰って、それを齧りながら走っていた。校舎内に入って、廊下を曲がった時、柔らかい何かに弾かれた。

「なっ!?」

「ふぐっ!?」

 齧ったキャベツが、その勢いで喉に詰まって、僕は廊下に片手をついて蹲る。もう片方の手ではキャベツをしっかりとキャッチ。大切な朝ご飯だ。これを逃したら、お昼までご飯抜きなんだ。

「…何なんだ、君は。廊下は走る物では無い。しかも、何だ、そのキャベツは? 何処のクラスの者だ? ネクタイの色は青。二年生か。名は?」

「ぅぐっ! ぅぐっ!!」

 何か矢継ぎ早に訊かれているけど、キャベツが喉に詰まっていて答えられる筈がない。涙が滲む目に、青い髪が映りこむ。

「…喉に詰まったのか? 仕方が無い奴だ」

「かはっ!?」

 その言葉と同時に、首の後ろに手刀が入り、喉に詰まっていたキャベツが飛び出した。

 勿体無いっ!!

「これで話せるだろう? さあ、君の名とクラスを教えて貰おうか。ん? 見ない顔だな?」

「あ、と、ありがとうございます…僕は…」

 と、言い掛けた処で予鈴が鳴った。

「名乗る程の者じゃありませんっ!!」

「あっ、おいっ!」

 遅刻なんて論外だ!
 ケタロウ様にだらしがない奴って、思われてしまう!! そんなのは嫌だ!! もう既に、下着で鼻血を出す奴って、思われているのにっ!!
 そう思いながら、僕はまたキャベツを齧りながら廊下を駆けた。

「おはよう。君が通っていた学園は始業時間が遅いのかな? こちらは、もう間もなく始まるよ?」

 先生が来る前に、何とかキャベツを食べ終えて教室へと滑り込んだら、麗しい美声が僕の耳に届いた。

「はっ、あ、おっ、おは…っ…!」

 扉を開けたら、何故か目の前にケタロウ様が居て、僕は挙動不審になってしまう。

「一日でも早く慣れて欲しいな。何時までも、のんびり気分で居たら駄目だよ? 朝食も満足に摂れないだなんて、情けないね? 口の端にキャベツを付けて。どんな育ちをしたら、そうなるのだろう? 私には、到底真似出来ないよ」

 切れ長の青い目を細めてそう言いながら、ケタロウ様は、僕の口の端に付いていたキャベツを、その細く長いしなやかな指で取ってくれた。

「あっ、あり…っ!!」

 けど、僕が挨拶とお礼をするより早くに、ケタロウ様は自分の席へと歩いて行ってしまった。

 …ああ、つれない…っ…!! 
 けど、あそこに居たって事は、僕を心配して探しに行こうとしてくれてたって事だよね?
 ああ、優しいなあ。嬉しいなあ。

「酷い事を言われていたけれど、大丈夫ですか?」

 へにょへにょと緩む口元を片手で隠しながら自分の席へと行き、椅子を引いたらデシコさんが、何故か心配そうな顔で僕を見て来た。

「酷い事?」

 首を傾げながら椅子へと腰を下ろせば、デシコさんは眉を顰めながら、ケタロウ様の方をちらりと見た。

「あんな言い方無いと思います。昨日は初日で色々と大変でしたのに…」

 あんな言い方? 何が酷いんだろう?
 ケタロウ様は僕の心配をしてくれたんだよ?
 どうして、そんな事を言うんだろうって、理由を聞こうとしたけれど、直ぐに先生が来てしまって聞く事は出来なかった。休み時間の時に訊こうと思ったけど、お腹が空いて空き過ぎて、気が付いたらお昼の事ばかり考えていて、それは忘れた。

 ◇

 ――――――――…どうして、こうなったんだろう?
 今日こそは、ケタロウ様とお昼を一緒して、親交を深めるぞって思ったのに。
 お昼休みの食堂で、僕は遠い目をしながら、ナポリタンを食べていた。僕が座ったテーブルには、デシコさんとピンコさんと、昨日の放課後に僕を拉致した緑の髪のショートヘアの子、ミド・リヌさんが居た。お昼を知らせる鐘が鳴るのと同時に、リヌさんが突撃して来た。え、授業どうしたの? って思ったけど、リヌさんにはそんなの関係ないらしい。断ろうとしたけれど、グイグイ腕を引っ張られて、何故かデシコさんも付いて来て、食堂に入ったらピンコさんもやって来て、こうなった。ほんの少し前に、トレイを持ったケタロウ様が、冷ややかな視線を向けて来ながら通り過ぎて行って、めちゃくちゃ落ち込んでる。
 違うのに。
 僕が仲良くしたいのはケタロウ様なのに。
 何で、この子達は僕の邪魔をするんだろう?
 この子達に、心を動かされるとかないのに。
 ご飯とケタロウ様…ケタロウ様にしか、心は動かないのに。
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