攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略していたのは、僕

【08】

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「…っは…あ、ぅん…」

 真っ白な霞が掛かった様な空間の中で、荒くも、熱く甘い吐息が響いていた。
 これは、夢。
 少し前から見る様になった夢だ。

「…メゴロウ…くん…もう…お願いしても良いか、い…?」

 乱れに乱れた白いシーツの上で、その人は震える両手を後ろに回して、そこを広げて見せて来る。白く長い指が割り開いて見せるそこは、ヒクヒクと誘う様に収縮していた。
 陽に焼けた事なんて無い、汗の滲む白い裸体を惜しげも無く晒して。
 獣の様に、ベッドの上で四つん這いになって、腰を高く上げて。
 汗で濡れた、甘そうな髪を額に貼り付かせながら、僕を振り返って来る青い瞳は熱に潤んでいた。

「…もう、我慢出来ないんですか?」

「…っあ、ぅん…っ…!」

 焦らす様に、抜いた指を再びそこへ挿し込めば、彼はひくりと肩を揺らせた。

「…も、う…では無い…っ…。君が…欲しいんだ…お願いだから…焦らさないでおくれ…」

 甘く甘く切ない声と、涙の浮かぶ瞳で懇願されて、断れる人間なんて居ないと思う。それが、好きな人なら尚更。

「…君が…好きなんだよ…早く…私が君を好きだと…伝えさせて欲しい…」

「…そのままで…居て下さいね…」

 懇願されなくても、僕の僕は、もう爆発寸前だ。
 彼の腰を左手で掴んで、右手は昂った己に添える。とろとろとした涙を流すそれを、ヒクヒクと動くそこにぴとりと宛がえば、彼は…ケタロウ様は歓喜の吐息を零した。

「…あ、あ…。…私で…こんなに…なってしまって…嬉しいよ…。…可愛い君が愛おしくて…堪らない…さあ…早くおいで…」

 甘く熱く耳に流れて来る彼の声に、鼓膜が震える。それは甘い痺れとなって、僕の中を駆け巡って行く。
 この人に褒められたい。
 この人に喜んで欲しい。
 この人に好きだって言われたい。

「んあぁ…っ…!!」

 ぐっと腰に力を入れれば、歓喜の声と共にケタロウ様の白い背中が仰け反り、そこを広げていた両手がぱたりと白いシーツの上へと落ちた。

「…っは…あ、んぅ…っ…」

 熱く甘い声に吐息。滴る汗。
 それら総てが、僕を、僕達を官能へと誘う。
 彼が僕を締め付ける度に、まだ、と堪えて。
 お願い。まだ、このままで居させて。
 まだ、覚めないで。
 まだ、夢の中に居させて。
 このまま、甘く淫らで幸せな夢の中に…――――――――。

 ◇

「…おはよう、僕…」

 掛け布団ごとベッドから落ちていた僕は、何時もより高い位置にある天井を見ながら、そう呟いた。

「…また…見ちゃった…」

 のそのそと身体を起こして、落ちていた布団をベッドの上へと戻して、僕はシャワールームへと移動する。この夢を見た時は、何時も下半身が大変な事になっている。そして、虚しくなる。夢の中でのケタロウ様は、何時も僕を見て笑ってくれているけれど、現実は…。

「…はあ…」

 …絶対…嫌われてる…よね…。
 現実でのケタロウ様の僕を見る目は何時も冷ややかだ。昨日だって、デシコさん、ピンコさん、リヌさんとお昼を食べる僕を、冷ややかに無言で見て居たから。断っても断っても、纏わりついて来るんだ。かと云って、あまり強く言ったら傷付けてしまうだろうし、梅の僕がそこまで強く出ていいのかな? って思ったりもするし。寮の食堂でだって、朝も夜も姿を見た事は無い。学園が休みの日でも。本当に存在するの!? ってぐらいに出会えない。これは、徹底的に避けられているとしか思えない。夢の様に、優しく甘く蕩ける様に笑ってくれる事もない。現実のケタロウ様の笑顔は、あの初日の、挑発的な笑みだけ。あの一瞬だけ。
 あの一瞬で、僕はもうケタロウ様に恋をしていたんだ。
 でなきゃ、あんな夢は見ない。
 初めて見た時は、僕は自分が死んだのかと思った。
 まあ、直ぐに夢だって気付いたけど。
 ベッドの上で裸のケタロウ様が、優しく笑いながら僕を手招きするんだ。蜜蜂の様に、ふらふらと誘われて行っちゃったよね。ベッドに上がれば、ケタロウ様は『良い子だね』って、優しく僕の頭を撫でてくれて、頬にキスをしてくれた。嬉しくて嬉しくて、ケタロウ様が、こうして、ああして、って言うのを素直に聞いて…夢の中で、僕は男になった。男同士なのに、とか、そんな思いは全然無かった。ただ、ケタロウ様が喜んでくれるから、それが僕も嬉しいから。ケタロウ様の笑顔が嬉しくて嬉しくて、もっと見たくて。
 …それなのに。

「…惹かれ合う…って、言っていたのに…」

 …ガディシス様の嘘つき…。

 惹かれているのは、僕だけだ。
 夢の中では、あんな事もこんな事もしているのに。
 あんな事、ケタロウ様としかしたくないのに。

「…噓つき…」

 その小さな呟きは、シャワーの音と一緒に流れて消えて行った。
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