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攻略していたのは、僕
【09】
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「…あ…」
日に日に気温が高くなって来て、日向に居れば、じんわりと汗が滲む様になって来た頃、僕はそれに気付いた。
「どうしました? メゴロウ君」
移動教室からの帰り、隣を歩いて居たデシコさんが、窓の向こうを見て呟いた僕に足を止めて聞き返して来た。
「うん、あれって…花壇? 随分と荒れているけど…」
そこに見えるのは、この陽気で伸びて来ている元気な草、草、草。茶色く見えるのは、多分、レンガ?
「ええ。今は使われていませんけれど、元は花壇だったと聞いた覚えがあります。お花が好きなのですか?」
「あ、その…菜園が出来るかなって…」
陽当たりも悪くないし、草や木々の状態も悪くないから、土壌は良さそうだ。キュウリやトマトなんかがあれば、小腹の足しになるし、ここの生野菜は美味しくないし、それに、久しぶりに土を弄りたい。ここに来てから、僕は何もしていない。だから、きっとあんな夢を見てしまうんだ。夢に楽しい事を、幸せな事を求めてしまうんだ。あんな事、現実では有り得ないのに…。
「…さいえん…ですか…。ああ、メゴロウ君の実家は…」
「うん。あそこを小さな畑にしたら駄目かな?」
今は使われていないのなら、僕が使っても良いよね?
あんな風に荒れたままにしておくのは勿体無い。
僕が有効活用すれば、ケタロウ様が褒めてくれるかも知れない。
僕が育てた野菜を美味しいって食べてくれるかも知れない。
女の子とばかり居るんじゃないって、僕にも出来る事があるんだよって、アピール出来るかも知れない。
「私達で勝手に決める物ではないので…。あ、そうです。放課後、生徒会長に相談してみましょう。私も付き添います」
「生徒会長…」
そっか。これだけ大きな処だと、適当に先生を捕まえて『ああしたいこうしたい!』、『解った、オッケー!』って行かないのか。面倒なんだなぁ。
◇
「…園芸部、か」
そう呟いたのは、生徒会長だ。
青く長い髪を、一本の三つ編みにして胸の前で垂らしている。
女の子の割に細めの瞳に低い声で、銀色のフレームの眼鏡を掛けていて、いかにもキツそうな感じがする。
「まあ、確かに使われてはいないし、あのままにして置くよりは景観も良くなるし…」
けど。
何か、この青い髪と声には覚えがある様な気がするんだけど、何処かで会ったかな?
何となく、冷たい雰囲気がケタロウ様に似ている気がするから、そのせいなのかな?
「良いだろう。申請を受け付けよう。人目に付かない場所だが、ふとした時に目に入るからな。どんな場所であろうと見苦しいよりは美しい方が良いに決まっている」
「あっ、ありがとうございます!」
「良かったですね」
大きな机を挟んだ向こうに居る生徒会長へと頭を下げれば、隣に立つデシコさんの嬉しそうな声が聴こえて来た。
「キャベツを食べながら走るだなんて、何て野蛮で粗野な野生児かと思っていたが、花を愛でる心もあるのだな。意外だ」
ん?
その声に頭を上げれば、生徒会長は椅子に座ったまま、僕をじっと見ていた。
「キャベツ?」
僕の隣で、デシコさんが首を傾げたけど。
「あっ…! あの時ぶつかった人!?」
そうだ、何処かで見た事があると思ったら…!
「何だ。気付いていなかったのか? まあ、急いでいた様だし、無理もないか。それで、そんな君はどんな花を愛でるのかな?」
「あ、花も咲きますけど、僕が育てるのは野菜です」
◇
「…酷い…」
寮の部屋へと帰って来て、夕飯も済ませて(今日もケタロウ様は居なかった)部屋着に着替えた僕は、ベッドの上でしょげしょげしていた。
僕が野菜って言った瞬間、生徒会長は目を丸くしたかと思えば、思いっきり笑い出した。目に涙を浮かべて謝ってくれたけど、あそこまで笑う事ないと思う。部として承認されるには、最低二人の部員が必要だって事で、その場でデシコさんが入部してくれる事になった。部費で種や苗、必要な道具を買えるらしいので、凄く嬉しい。明日は早くに出て、あの草を出来るだけ毟ろう。部費を貰う前にやれる事はやっておかないと。久しぶりの土。ずっと弄られていなかったのなら、硬いかな? キュウリとトマト、キャベツにレタス、後は何が良いかな? 楽しみだな。ケタロウ様の目に付くかな? そうしたら、興味を持ってくれるかな? 少しは、僕の事を見直してくれるかな? 笑ってくれるかな?
夢と同じ様にだなんて言わない。
ほんの少しで良いから、僕を見て笑って。
僕が育てた野菜を美味しいって、笑いながら食べて。
国の、世界の危機なんて知らない。
僕は、ただ、ケタロウ様の笑顔が見たいんだ。
日に日に気温が高くなって来て、日向に居れば、じんわりと汗が滲む様になって来た頃、僕はそれに気付いた。
「どうしました? メゴロウ君」
移動教室からの帰り、隣を歩いて居たデシコさんが、窓の向こうを見て呟いた僕に足を止めて聞き返して来た。
「うん、あれって…花壇? 随分と荒れているけど…」
そこに見えるのは、この陽気で伸びて来ている元気な草、草、草。茶色く見えるのは、多分、レンガ?
「ええ。今は使われていませんけれど、元は花壇だったと聞いた覚えがあります。お花が好きなのですか?」
「あ、その…菜園が出来るかなって…」
陽当たりも悪くないし、草や木々の状態も悪くないから、土壌は良さそうだ。キュウリやトマトなんかがあれば、小腹の足しになるし、ここの生野菜は美味しくないし、それに、久しぶりに土を弄りたい。ここに来てから、僕は何もしていない。だから、きっとあんな夢を見てしまうんだ。夢に楽しい事を、幸せな事を求めてしまうんだ。あんな事、現実では有り得ないのに…。
「…さいえん…ですか…。ああ、メゴロウ君の実家は…」
「うん。あそこを小さな畑にしたら駄目かな?」
今は使われていないのなら、僕が使っても良いよね?
あんな風に荒れたままにしておくのは勿体無い。
僕が有効活用すれば、ケタロウ様が褒めてくれるかも知れない。
僕が育てた野菜を美味しいって食べてくれるかも知れない。
女の子とばかり居るんじゃないって、僕にも出来る事があるんだよって、アピール出来るかも知れない。
「私達で勝手に決める物ではないので…。あ、そうです。放課後、生徒会長に相談してみましょう。私も付き添います」
「生徒会長…」
そっか。これだけ大きな処だと、適当に先生を捕まえて『ああしたいこうしたい!』、『解った、オッケー!』って行かないのか。面倒なんだなぁ。
◇
「…園芸部、か」
そう呟いたのは、生徒会長だ。
青く長い髪を、一本の三つ編みにして胸の前で垂らしている。
女の子の割に細めの瞳に低い声で、銀色のフレームの眼鏡を掛けていて、いかにもキツそうな感じがする。
「まあ、確かに使われてはいないし、あのままにして置くよりは景観も良くなるし…」
けど。
何か、この青い髪と声には覚えがある様な気がするんだけど、何処かで会ったかな?
何となく、冷たい雰囲気がケタロウ様に似ている気がするから、そのせいなのかな?
「良いだろう。申請を受け付けよう。人目に付かない場所だが、ふとした時に目に入るからな。どんな場所であろうと見苦しいよりは美しい方が良いに決まっている」
「あっ、ありがとうございます!」
「良かったですね」
大きな机を挟んだ向こうに居る生徒会長へと頭を下げれば、隣に立つデシコさんの嬉しそうな声が聴こえて来た。
「キャベツを食べながら走るだなんて、何て野蛮で粗野な野生児かと思っていたが、花を愛でる心もあるのだな。意外だ」
ん?
その声に頭を上げれば、生徒会長は椅子に座ったまま、僕をじっと見ていた。
「キャベツ?」
僕の隣で、デシコさんが首を傾げたけど。
「あっ…! あの時ぶつかった人!?」
そうだ、何処かで見た事があると思ったら…!
「何だ。気付いていなかったのか? まあ、急いでいた様だし、無理もないか。それで、そんな君はどんな花を愛でるのかな?」
「あ、花も咲きますけど、僕が育てるのは野菜です」
◇
「…酷い…」
寮の部屋へと帰って来て、夕飯も済ませて(今日もケタロウ様は居なかった)部屋着に着替えた僕は、ベッドの上でしょげしょげしていた。
僕が野菜って言った瞬間、生徒会長は目を丸くしたかと思えば、思いっきり笑い出した。目に涙を浮かべて謝ってくれたけど、あそこまで笑う事ないと思う。部として承認されるには、最低二人の部員が必要だって事で、その場でデシコさんが入部してくれる事になった。部費で種や苗、必要な道具を買えるらしいので、凄く嬉しい。明日は早くに出て、あの草を出来るだけ毟ろう。部費を貰う前にやれる事はやっておかないと。久しぶりの土。ずっと弄られていなかったのなら、硬いかな? キュウリとトマト、キャベツにレタス、後は何が良いかな? 楽しみだな。ケタロウ様の目に付くかな? そうしたら、興味を持ってくれるかな? 少しは、僕の事を見直してくれるかな? 笑ってくれるかな?
夢と同じ様にだなんて言わない。
ほんの少しで良いから、僕を見て笑って。
僕が育てた野菜を美味しいって、笑いながら食べて。
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僕は、ただ、ケタロウ様の笑顔が見たいんだ。
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