攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略していたのは、僕

【10】

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「…え…?」

 その日の朝、僕とデシコさんは呆然として、そこに立っていた。
 園芸部を起ち上げて、活動を始めて早くも一か月が経っていた。部員も二人から四人に増えて、皆で楽しく活動をしていた。
 …いたのに…。

「おはようございます! メゴロウ先輩、デシコ先ぱ…え…?」

「わ、何!?」

 呆然としていたら、部員が来て、その惨状に驚いていた。
 昨日の帰りは何ともなかったのに、今、目の前にある小さな畑は荒れに荒れていた。キュウリやトマトを支える支柱は二つに折れているし、青い実が付いていたトマトも踏み潰されているし、ラディッシュやニンジンも土から抜かれて踏み潰されていた。もう少ししたら、ラディッシュとニンジンのピクルスを作ろうねって話していたのに…。…これは、鳥や犬の仕業なんかじゃない…。

「…メゴロウ君…」

 歯を食いしばって拳を握って俯く僕の耳に、デシコさんの気遣う様な声が聞こえて来た。

「あ、大丈夫。皆、ごめんね。せっかく、ここまで育てたのに…種はまだあるし、苗はまた買って…」

 生徒会長に相談すれば、多分、きっと何とかしてくれると思う。

「あ、そう言えば…」

 と、僕が話してる途中で、部員の一人の一年生のモ・ブコさんが、何かを言おうとして、片手を口にあてて言い淀んだ。

「どうしたの? ブコさん」

 そんなブコさんに、デシコさんがそっと微笑んで続きをと、促す。

「あの…昨日の帰りに…その…」

「気になる事があったのなら、教えて下さい」

 それでも、言い淀むブコさんの肩に、デシコさんは両手を置いて、俯く顔を覗き込む様に、腰を低くした。先輩にそうされてしまっては、話すしか無いと思ったのか、ブコさんは小さな声で言った。

「…ウ・ケタロウ様を…見たんです…」

「え?」

 ケタロウ様が、様子を見に来てくれていたの? 嘘! うわ、嬉しい!

「え、じゃあ、これはケタロウ様が?」

 は?

 内心で、そう喜んでいたら、ブコさんの双子の弟のブオ君が、そんな事を言い出した。

「何を…」

 何を言い出すの?
 どうして、そうなるの?
 って、僕が言うより早く、デシコさんがピシャリと二人に言う。

「こちらで姿を見掛けたからと云って、そんな事を言ってはいけません。ケタロウ様は、本来であれば、私達が会話など出来ない方です。誰が聞いているか解りません。良いですか? 二度と口にしてはいけませんよ?」

「あ、はい…」

「…ごめんなさい…」

 デシコさんの言葉に、双子がシュンと項垂れた。けど…どうして、そう言うの? ケタロウ様は、こんな事しない。どうして、そう言ってくれないの? どうして、否定しないの? 何だろ…嫌な感じがする…。

 ◇

「メゴロウ君、業者が種と苗を持って来てくれた。どれを買う?」

 その数日後、生徒会長が業者の人を連れて、畑に来てくれた。生徒会長は、たまに様子を見に来てくれる。畑を弄ったりはしないけど、怪我は無いかとか、必要な物はあるのかと、色々心配してくれてる。思い切り笑われた時は、何だこの人って思ったけれど、良い人なのかも知れない。今日は、あの惨状があった日の放課後に生徒会長が来て、新たな種と苗を手配するって、言ってくれていたからだ。何か、生徒会長の方が部長みたいだ。

「それから、朝と夜の見廻りを用意した。夕方から来てくれるそうだ」

「え!?」

 そこまでする事!?

「これは、学園内の物。つまりは学園の財産だ。それは守られなければならない。二度と同じ事をされてたまる物か。君達が、これらをどれだけ大切に育てて来たのか…」

「…会長…」

「えっと、どれをお求めですか?」

 会長の言葉に皆で感動していたら、業者の人が声を掛けて来たから、慌てて種と苗を選ぶ。

「あ…っ…!!」

 その時、頭の上から声が聞こえた様な気がして、業者の人が地面に置いたカゴを見ていた顔を上げたら、ヒュッて音が聞こえた気がした。でも、それは一瞬で、直ぐ傍でガシャッて音がした。それは、僕の直ぐ横。高価そうな壺が、グチャグチャに割れていた。
  
「…え…?」

 声が聞こえた様な気がした僕は、顔を上げていた。校舎の二階の窓が開け放たれて居るのが見える。その縁に手を置いて、こちらを見下ろしている人。金色の髪が、夕暮れと云うには、まだ紅くない陽に照らされたその髪色は、変わらずに蜂蜜を連想させた。

「…ケタロウ…さ、ま…?」

 どうして、そこに居るの?
 どうして、壺が落ちて来たかも知れない処に居るの?

 僕の呟きが聞こえたのかは、解らない。ケタロウ様は、僅かに眉を寄せた後に窓を閉めた。
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