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攻略していたのは、僕
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白い月の夜だった。
夜中にトイレに起きて、部屋へ戻る途中で、玄関のドアが開く音が聞こえた。
こんな時間にどうしたんだろう? と、玄関へと行けば、パタリと閉じられる前に見えた、大きな黒いバッグ。
え?
と、思ったけど、スリッパを脱いで、靴を履いてすぐに後を追う。寝間着のままだけど。
遠ざかって行く大きな背中を追う。
『…☓☓キ…っ…!』
声を掛ければ、☓☓キは舌打ちして、走り出した。
白い白い月明かりの下で。
周りには、まだ実を付けないブルーベリーの木。
そこを走る二つの影。
『…何処へ行くの!? その荷物は何!? あの女の人のトコ!?』
大きなカバンを持つ☓☓キより、何も持っていない僕の方が身軽だ。
『うるせえ! 離せ!!』
追い付いた☓☓キの腰に両手を回して、後ろからしがみつけば、☓☓キは立ち止まって、身を捩って手にしたカバンで僕の背中を殴り付けて来た。
『こんなトコ、俺は出て行くんだ!』
出て行く?
☓☓キは家の農場を継ぐのに?
『ナ・オンが土仕事嫌いだからな。俺も、こんな貧乏生活嫌だし。都会には、もっと楽に稼げる仕事があるって言うからな』
…それが、コソコソと、会っていたあの女の人の名前? いつも、いつも、会う度にお金を渡していた女の人の? あの人のせいで、☓☓キは変わったのに?
『…☓☓キは騙されているんだよ! 梅の僕達に、そんな楽な仕事なんてある筈がないよ!』
都会は怖いトコだって聞く。僕達みたいな梅なんて、誰も相手にしないって。わざわざ、そんな怖いトコに行ってどうするの? この町で、気の合う皆とわいわいしてれば良いじゃない。
『うるせぇ! この金が倍になるって、オンが言った。そうしたら、幾らか分け前やるからよ!』
お金…?
『…え…?』
顔を上げたら、☓☓キは『しまった!』って、顔をして動きを止めた。
その隙に、僕は☓☓キの手からカバンを奪って、チャックを開けて中身を地面へとぶちまけた。幾つかの着替えがボタボタと落ちて、その中に☓☓キには似合わない可愛い、小さな巾着袋があった。
屈んで☓☓キが拾うより先に、それを掴んだ。
『…これ…』
それは、先日、大きな商会がやって来て、置いて行ったお金だ。母さんと父さんが、これでアレを買ってそれを買って、新しい品種に挑戦出来るって、嬉しそうに話していた。
『よこせ!!』
『あっ!!』
巾着を手にして呆然としていたら、☓☓キの手が伸びて来て、取り上げられて、拳骨で頭を殴られた僕は、地面へと倒れてしまった。
倒れ込んだ僕を☓☓キは、抱き起こしてくれたりはしないで、何度も何度も蹴り付けて来た。背中を頭をお腹をお尻を脚を。何度も、何度も。
痛い、痛い。
…どうして?
どうして、こんな事をするの?
☓☓キは、あの人に出会ってから変わった。家の手伝いをしなくなり、あの人とばかり遊んでいた。父さんや母さんに『あの女はやめろ』って言われても聞かないで、隠れてコソコソと会っていた。学校が早くに終わって帰って来た時、☓☓キの部屋で、二人裸で居るのを見た。父さんと母さんが農園で働いているのに。何をしているのって怒鳴ったら☓☓キに殴られた。あの人は笑っていた。気持ちの悪い顔で。
…優しかったのに…。
僕が食べているのを見るのは気持ちが良いな、なんて言って笑っていたのに。☓☓キの分のおかずを分けてくれたりしたのに。
『…戻って…』
あの頃の☓☓キに…。
あの女の人に出会う前に…。
優しかった頃のア☓キに…。
「…戻ってよ…っ…!!」
自分の声で、目が覚めた。
「…あ…」
ドクドクと心臓の音が五月蝿い。汗も掻いていて、気持ちが悪い。
身体を起こして、今、自分が何処に居るのか確認する。
広い部屋に、柔らかなベッド。
肌触りの良い、寝間着。
これは、ケタロウ様が僕にくれた物。
ヨレヨレの僕の寝間着を見たケタロウ様が『それじゃあ、良い睡眠は取れないよ?』って、自分には合わなくなった物が幾つかあるから、って、僕にくれた。
「…ケタロウ様…」
ぎゅっと、胸元を握ってから、僕はベッドを下りた。そろそろとドアを開けて、暗闇の中、ケタロウ様の眠る部屋へと歩いて行く。
…ケタロウ様…。
そっとドアを開けて、隙間から忍びこんで、またドアを閉める。
ベッドを見れば膨らみが一つ。
そこへと僕は歩いて行く。
そろそろと、起こさないように。
「…ケタロウ様…」
小さく呟いて、ケタロウ様の睫毛が揺れない事を確認して、僕は布団をそっと捲って、そこへ潜り込んだ。仰向けで眠るケタロウ様の腕に、ぺとりと顔を寄せる。スンスンと鼻を鳴らせば、仄かに甘い匂いがする。ケタロウ様の匂い。…安心する匂い…。
…ケタロウ様は…僕が…悪い子だって知ったら…僕を…嫌いになる…?
「…嫌だ…」
…知られたくない…。
…この、綺麗な人に…知られたくない…。
僕が…☓ニ☓を…。
……………アニ☓を…アニキを…殺したなんて…知られたくない…。
夜中にトイレに起きて、部屋へ戻る途中で、玄関のドアが開く音が聞こえた。
こんな時間にどうしたんだろう? と、玄関へと行けば、パタリと閉じられる前に見えた、大きな黒いバッグ。
え?
と、思ったけど、スリッパを脱いで、靴を履いてすぐに後を追う。寝間着のままだけど。
遠ざかって行く大きな背中を追う。
『…☓☓キ…っ…!』
声を掛ければ、☓☓キは舌打ちして、走り出した。
白い白い月明かりの下で。
周りには、まだ実を付けないブルーベリーの木。
そこを走る二つの影。
『…何処へ行くの!? その荷物は何!? あの女の人のトコ!?』
大きなカバンを持つ☓☓キより、何も持っていない僕の方が身軽だ。
『うるせえ! 離せ!!』
追い付いた☓☓キの腰に両手を回して、後ろからしがみつけば、☓☓キは立ち止まって、身を捩って手にしたカバンで僕の背中を殴り付けて来た。
『こんなトコ、俺は出て行くんだ!』
出て行く?
☓☓キは家の農場を継ぐのに?
『ナ・オンが土仕事嫌いだからな。俺も、こんな貧乏生活嫌だし。都会には、もっと楽に稼げる仕事があるって言うからな』
…それが、コソコソと、会っていたあの女の人の名前? いつも、いつも、会う度にお金を渡していた女の人の? あの人のせいで、☓☓キは変わったのに?
『…☓☓キは騙されているんだよ! 梅の僕達に、そんな楽な仕事なんてある筈がないよ!』
都会は怖いトコだって聞く。僕達みたいな梅なんて、誰も相手にしないって。わざわざ、そんな怖いトコに行ってどうするの? この町で、気の合う皆とわいわいしてれば良いじゃない。
『うるせぇ! この金が倍になるって、オンが言った。そうしたら、幾らか分け前やるからよ!』
お金…?
『…え…?』
顔を上げたら、☓☓キは『しまった!』って、顔をして動きを止めた。
その隙に、僕は☓☓キの手からカバンを奪って、チャックを開けて中身を地面へとぶちまけた。幾つかの着替えがボタボタと落ちて、その中に☓☓キには似合わない可愛い、小さな巾着袋があった。
屈んで☓☓キが拾うより先に、それを掴んだ。
『…これ…』
それは、先日、大きな商会がやって来て、置いて行ったお金だ。母さんと父さんが、これでアレを買ってそれを買って、新しい品種に挑戦出来るって、嬉しそうに話していた。
『よこせ!!』
『あっ!!』
巾着を手にして呆然としていたら、☓☓キの手が伸びて来て、取り上げられて、拳骨で頭を殴られた僕は、地面へと倒れてしまった。
倒れ込んだ僕を☓☓キは、抱き起こしてくれたりはしないで、何度も何度も蹴り付けて来た。背中を頭をお腹をお尻を脚を。何度も、何度も。
痛い、痛い。
…どうして?
どうして、こんな事をするの?
☓☓キは、あの人に出会ってから変わった。家の手伝いをしなくなり、あの人とばかり遊んでいた。父さんや母さんに『あの女はやめろ』って言われても聞かないで、隠れてコソコソと会っていた。学校が早くに終わって帰って来た時、☓☓キの部屋で、二人裸で居るのを見た。父さんと母さんが農園で働いているのに。何をしているのって怒鳴ったら☓☓キに殴られた。あの人は笑っていた。気持ちの悪い顔で。
…優しかったのに…。
僕が食べているのを見るのは気持ちが良いな、なんて言って笑っていたのに。☓☓キの分のおかずを分けてくれたりしたのに。
『…戻って…』
あの頃の☓☓キに…。
あの女の人に出会う前に…。
優しかった頃のア☓キに…。
「…戻ってよ…っ…!!」
自分の声で、目が覚めた。
「…あ…」
ドクドクと心臓の音が五月蝿い。汗も掻いていて、気持ちが悪い。
身体を起こして、今、自分が何処に居るのか確認する。
広い部屋に、柔らかなベッド。
肌触りの良い、寝間着。
これは、ケタロウ様が僕にくれた物。
ヨレヨレの僕の寝間着を見たケタロウ様が『それじゃあ、良い睡眠は取れないよ?』って、自分には合わなくなった物が幾つかあるから、って、僕にくれた。
「…ケタロウ様…」
ぎゅっと、胸元を握ってから、僕はベッドを下りた。そろそろとドアを開けて、暗闇の中、ケタロウ様の眠る部屋へと歩いて行く。
…ケタロウ様…。
そっとドアを開けて、隙間から忍びこんで、またドアを閉める。
ベッドを見れば膨らみが一つ。
そこへと僕は歩いて行く。
そろそろと、起こさないように。
「…ケタロウ様…」
小さく呟いて、ケタロウ様の睫毛が揺れない事を確認して、僕は布団をそっと捲って、そこへ潜り込んだ。仰向けで眠るケタロウ様の腕に、ぺとりと顔を寄せる。スンスンと鼻を鳴らせば、仄かに甘い匂いがする。ケタロウ様の匂い。…安心する匂い…。
…ケタロウ様は…僕が…悪い子だって知ったら…僕を…嫌いになる…?
「…嫌だ…」
…知られたくない…。
…この、綺麗な人に…知られたくない…。
僕が…☓ニ☓を…。
……………アニ☓を…アニキを…殺したなんて…知られたくない…。
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