攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

文字の大きさ
47 / 141
攻略していたのは、僕

【26】

しおりを挟む
 それを思い出したのは、何回目の巻き戻りの時だったかな…。自分がした事が信じられなくて、認めたくなくて…苦しくて…泣きながら…胃の中の物を全部吐き出したっけ…。
 …忘れていたのなら、そのままで良かったのに…。
 優しかったアニキ。でも、変わってしまったアニキ。
 あの人のせいで。
 あの女のせいで。
 変わってしまった。

 …ケタロウ様…。

 ぐいっと肩に額を押し付けて軽く擦ってみても、ケタロウ様は起きない。
 …眠りが深いんだね…。
 それは、僕が傍に居ても安心してるって事?
 それは、僕が傍に居ても迷惑じゃないって事?
 今のケタロウ様は、僕に惹かれてくれている?
 それとも…今は惹かれていても…アニキみたいに変わってしまう? ケタロウ様が、誰か女の人を好きになったら、僕は要らないって…そうなる? 優しいケタロウ様がそうなるだなんて思いたくないけど…アニキは変わってしまった…。 
 ケタロウ様が言った『運命』は、僕が望む『運命』…『時間』と同じ?

「…ケタロウ様…」

 そっと身体を起こして、張りがあるけど柔らかい頬に、唇を押し付ける。

 …あったかい…。

 そして、薄く開いている唇にも、押し付ける。

 …僕は…ケタロウ様とこうしたいけど…ケタロウ様はどうなんだろう?
 口では、言葉では何とでも言える。
 それが、本心かどうかなんて、本人にしか解らない。
 何度も何度も、それを知らされて来た。
 僕に甘える様に、僕を助ける様に擦り寄って来て…今度こそは…って、期待する僕を何度も何度も絶望へと落として来た。
 何度も何度も。
 それでも、もしかしたらって。
 それでも、今度こそはって。

 今回のこの時間は、今度こそ僕が望む時間なのかも知れない。
 でも、違うかも知れない。
 期待させて。
 期待させて。
 また、突き落とされるのかも知れない。

「…ケタロウ様…」

 …変わらないで…。
 …僕を…捨てないで…。
 …僕を…裏切らないで…。

 …お願い…。
 …もう…本当は…疲れちゃったんだ…。
 …ううん…。
 …もう、ずっと前から…。
 …だから…忘れていた…。…忘れたフリをしていたアニキの事を…。

 ……………たすけて…―――――――――。

 もう一度唇を合わせてから、僕はケタロウ様の腕を掴んで目を閉じた。

 ◇

「やあ、おはよう。良く眠れたかい?」

 何だか、とても優しい声が聞こえた気がして目を開けたら、目が潰れるぐらいの爽やかな笑顔を浮かべたケタロウ様が居て、慌てた僕は飛び跳ねてベッドから落ちた。

 朝から、何て心臓に悪いんだろう。一瞬、心臓が止まった気がする。
 ケタロウ様が起きる前に、部屋に戻ろうと思っていたのに…っ…!
 ごめんなさいって謝る僕に、ケタロウ様は変わらず優しく笑いながら、一人寝が寂しいのなら、何時でもおいでって、手を差し伸べてくれた。

 うう、無理ぃ…っ…!!
 こんなの、期待するなって言われても、期待しまくっちゃうよ!! 

 今のケタロウ様は、違う意味で酷い人だ。こんなに僕をドキドキさせて、期待させて…。
 …ねえ…? …本当に、期待しちゃうよ? 後で違うって言っても…駄目だよ…?


 ――――――本当に、今のこの時間は…僕が待っていた時間なのかも知れない。
 皆の名前を覚えたいって言って、ケタロウ様に頼んでクラス名簿を見せて貰ったけど、デシコさんの名前は無かったし、移動教室の時や合同授業、お昼の時に、他の皆を探したけれど、誰も見つける事は出来なかった。一学年上の生徒会長と、来年入学してくるロリリさんは、まだ、見ていないから、決め付けるのは早いけど。
 でも。
 今の段階で出逢っていた…深い関りのあった人は、誰も居ない。
 あ、紫は居るけど。
 でも、ケタロウ様の断罪には関わっていなかった筈だから、これは除外かな? …僕への嫌がらせが、ケタロウ様のせいにされたけど…今回は恥を掻かせていないし…大丈夫だよね…?
 これは、本当に期待しても良いのかも知れない。
 ケタロウ様が生きる時間なんだって。
 僕と生きる時間なんだって。
 それなら…。
 …本当にそうなら…。
 寂しいのって聞いた僕に『そうなのかもね』って、儚げに笑った、隣で眠るこの人を癒やしてあげたい…。
 慰めてあげたい。
 僕が居るよって、教えてあげたい。
 一人じゃないって。
 孤独じゃないって。
 教えたい…。
 …僕を…知って欲しい…。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

処理中です...