攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略していたのは、僕

【37】※※※※

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 カチッて、時計の針が動いた。

「…何してるの…?」

 自分でも不思議なくらいに、低くて冷たい声が出た。

 …僕って、こんな声が出せたんだ…。

 こんな状況なのに、変なトコに感心してしまう。
 僕の言葉に二人は、目を見開いて固まったまま、動かない。

「…ねえ…? 何をしていたの?」

 聞かなくても解る事だけど。
 それでも、聞きたかった。
 ケタロウ様の声で。
 違うって。
 間違いだって。

 でも、ケタロウ様は何も言わないで、信じられない物を見る様な目で僕を見ている。

 …ああ…。
 …そうだよね…。
 …今の僕は可愛くないもんね…。
 …可愛くないから…笑ってもくれないんだね…。

「…メ、ゴロウ…?」

 やっと、聞けたケタロウ様の声は酷く掠れて震えていた。

「…僕の…なのに…」

 …僕だけのケタロウ様の筈だったのに…。

「…回こそは…って…あんなに……」

 …今回こそは大丈夫って、あんなに思っていた…思い込もうとしていた…。

「…メゴロウ? 勘違いするのも解るけれど、いや、どう見ても勘違いするしかない状況だけれど、言い訳をさせて欲しい。私と…」

「…っあ、私は、ど、どうしてもって、お金を…」

 ケタロウ様が顔色を悪くして何かを言おうとするのを、紫が訳の解らない言葉で遮る。

 …ああ…これ…邪魔だな…。

「…そんなの…もう…いいや…汚い…退いて…」

 …いつまでもケタロウ様を汚していないで…。
 …ケタロウ様は、あなたみたいなモノが触って良い人じゃないんだから…。
 …だから…消えて…。
 …汚いあなたに相応しい消え方で…。

 頭の中で、紫の心臓を思い浮かべて、それの時を止めた。
 ケタロウ様が動こうとしたせいか、力を失ったそれはぐらりと僕の方へと身体を傾けて来たから、僕は慌てて時間を止めた。こんな汚くて気持ちの悪いモノになんて、触りたくない。…触りたくもないけど。でも、早くケタロウ様から離れて欲しいから、腕を掴んで引っ張って床へと落として、また時間を動かす。
 ベッドの上では、ケタロウ様が軽く口を開けて呆然と目を見開いている。

 いきなり消えた様に見えたんだろうな…。
 けど、今はそれを説明する気は無い。
 今は…。
 …汚い…気持ち悪い…醜いモノ…。
 これを消す方が先。
 じっと床に転がるモノを見て、僕は思う。

 …進め…。
 …進め進め…。
 …その汚いモノに相応しいカタチに…。

 …これは…初めて…それと知らずに使った力とは逆の物…。
 …あの日、アニキに殴られ蹴られながら、僕は思った。
 …戻ってって…。
 元の優しいアニキに戻ってって…。
 …戻り過ぎて…赤ちゃんも通り越して…魂も…消えてしまったけれど…。
 …それを…忘れていた僕は…きっと…何処かおかしいんだろうな…。

 僕が見詰める先で、それは皺を刻み、肉を覆う皮がたるんで行く。
 ケタロウ様が、動けずに息を飲む音が聞こえる。

 ねえ? ケタロウ様?
 こんな事が出来る僕は嫌い?
 可愛くない僕は嫌い?
 
「…っ…!! う…ぐ…ぇっ!!」

 肉が腐り溶け始めたトコで、ケタロウ様が吐き出し始めた。

「…汚いなあ…」

 ごめんなさい、ケタロウ様。
 こんな汚いモノを見せてしまって。
 でも、もう少しだけ我慢して?
 もう少ししたら、綺麗になるから。
 もう少ししたら…綺麗にしてあげるから……。
 …ね…?

「…メ、ゴロウ…」

 ベッドの端に両手を置いて蹲って、顔を何とかベッドの下へ…外へと出していたケタロウ様が、僕の名前を呼んで顔を上げて来た。その顔は、涙と涎でぐちゃぐちゃだったけれど。でも。

 …綺麗…。
 …ケタロウ様は、泣いていても綺麗だ…。

「…ごめんなさい…こんな思いをさせてしまって」

 …苦しかったよね?
 …気持ち悪かったよね?
 …今…綺麗にしてあげるからね?

 一歩足を進めて軽く腰を曲げて、ケタロウ様の顎の下に両手を置いて、そっと持ち上げる。

「…汚い…から…君の手が…」

 僕の目を真っ直ぐと見てから、ケタロウ様の視線は下の方へとずれた。その視線の先にあるのは、僕の手。ケタロウ様の吐き出した物の名残りに触れる僕の手。僕が『汚い』って言った事を気にしているのかな?

「…ああ…アニキの事では無くて…この汚い女ですよ」

 そんなの気にする事ないのにと思いながら、僕は足元にあるそれを踏み潰した。

「…アニキは綺麗ですよ…。…それなのに…ごめんなさい…」

 ケタロウ様が、汚いだなんて勘違いさせてしまってごめんなさい。
 ケタロウ様に、苦しい思いをさせてしまってごめんなさい。

「…メゴロウ…?」

 ケタロウ様が瞬きして、不思議そうに僕を見て来る。
 口の周りを指で拭っていけば、申し訳なさそうに目を伏せる。
 こんなケタロウ様も、やっぱり綺麗で…そして…可愛い…。
 こんなケタロウ様と。
 ずっとずっと、傍に居るって。
 ずっとずっと、笑って居られるって。

「…って…いたのに…綺麗に…してあげます」

 …そう思っていた…。
 …そんな…夢を見せられた…。
 …そう…これは悪い夢なんだ…。

「…っ…!?」

 口の周りを拭っていた指が、ケタロウ様の唇に触れた。
 ああ、ここも綺麗にしなくちゃね。
 僕は気にしていないけれど、ケタロウ様は気にしていたから。
 だから、何の迷いもなくケタロウ様の唇に食い付いた。

「~~~っ、メ、ゴ…ッ!!」

 ケタロウ様の口が開いたから、舌を差し込んで中にある物を絡め捕る。
 ケタロウ様は汚くない。綺麗だよって、教えられたら良いな。

 …だから。
 そんなに、背中を叩かないで?
 そんなに、嫌がらないで?
 お願いだから、夢でも僕を嫌わないで?

 …そう願うのに…。

「いっ…! それは、いけないよ、メゴロウ…っ…!!」

 ケタロウ様のおチンチンに触ったら、手首を掴まれて、思い切り拒絶されてしまった。
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