攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略していたのは、僕

【38】※※※※※※※※※※

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「…どうして…? あの女には触らせたのに? あの女の中に入ろうとしていたのに…?」

 そうだよ。ケタロウ様のおチンチン、あんなに元気だったじゃない。
 …あれを知るのは僕だけだったのに。
 ……僕だけの物だったのに。

「…違う…」

 何が違うの? そんなに泣きそうな顔で何を言っているの?
 どうして、そんな表情かおで僕を見るの?
 どうして、笑ってくれないの?
 …運命だって、言ってくれたのに?
 …幸せな夢が終わったから…?
 …そうだよね…。
 …これは…悪夢だから…。
 …早く…終わらせなくちゃ…。

「…私は…君が…メゴロウが……」

 カチッて、時計の音が止まって、何かを言いかけたケタロウ様も止まったけど、それは、僕を拒絶する言葉だ。焼却炉の前で言われた、あの言葉だ。あんな言葉、聞きたくない。

 …嫌いだなんて言葉、聞きたくない…。

 そのままケタロウ様を置いて、ふらふらと僕は救護室から廊下へと出る。
 いつの間にか落としていた、アレを拾いに。
 こんな悪夢は早く終わらせなくちゃ。
 夢から醒めたらきっと、ベッドの上で。
 隣ではケタロウ様が寝ていて。
 そんなケタロウ様の唇に軽くキスしてから、僕はベッドから出て。
 コーヒーを淹れている間に、カーテンを開けて窓を開けて。
 日に日に濃くなって行く緑に、目を細めて。
 コーヒーを淹れたら、僕が起こしに来るのを待っているケタロウ様に『おはよう』って、笑って。
 そうしたら、ケタロウ様も目が潰れる程の笑顔で『おはよう』って、笑ってくれるから。
 だから。
 早く。
 この悪夢から抜け出さなくちゃ。

「…あった…」

 廊下に落ちていた冷たいハサミを僕は手に取る。
 走っている内に、手からすっぽ抜けたんだね。
 廊下の先を見れば、生徒会長の小さな背中が見えた。

「…力になってくれると思ったのに…」

 呟いて、僕はまた救護室へと向かう。

 …結局…頼れるのは、自分だけ…。信じられるのも…自分だけ…なんだ…。
 …この時間は…この悪夢は…それを僕に教える為の物…。
 …ただ…それだけの物…。

「…ケタロウ様…」

 …それなら…あんなケタロウ様を見せないで…。
 …これまで通りのケタロウ様で居てよ…。
 …そうしたら…きっと…こんな事にはならなかった…。
 …これまで通りのケタロウ様なら、僕は見ているだけで居られた…あの、最期の日まで…。

「…ごめんなさい…」

 …僕が、もっとしっかりしていたなら…。
 …僕が、もっと強かったのなら…。
 …そうしたら…ケタロウ様は…あんなのに穢される事なんて無かったのに…。

 ◇

「あ"あ"あ"っ"!!」

 静かだった救護室の中で、ケタロウ様の叫び声が響く。生徒会長はもう外へ出ただろうし、この時間まで残っているのなんて、運動部ぐらいだ。部員達は、皆、体育館や校庭に居る。怪我でもしない限り、ここには来ない。
 …まあ…誰かが来たトコで…どうでも良いけど…。

 そんな事を思いながら、僕は手にしたハサミを動かす。その度に、ケタロウ様は声を張り上げて涙を流す。でも、その声も段々と弱くなって来た。

 ごめんなさい。
 辛いよね?
 苦しいよね?
 でも…汚れた…穢れたトコは綺麗にしなくちゃ…。
 …穢れたままなんて…嫌だよね…?
 …あの紫が触ったトコ…全部…切り取って綺麗にしてあげる…。

 チョキチョキなんて、可愛い音じゃない音を何度か繰り返していた時、弱々しいケタロウ様の声が聞こえた。

「…メ…ゴ…き、みが…持つ…ち、からは…」

 …力…?
 …そう…か…。

「…ああ…それも…あなたは…」

 …やっぱり…ケタロウ様は…何かを知っていたんだ…。
 …そうだよね…ケタロウ様は…王族の次に偉い地位の人だもん…。
 …きっと…陛下から…僕の事を聞かされていたんだ…。
 …そうだよ…あの強い視線は…僕を…監視…してたんだ…。
 …僕が…どの子と仲良くなるのか…それを…きっと伝えていたんだ…。
 …そうだよね…。
 …そう云う事なんだ…。

「ぐっ"、あ"っ"!?」

 気が付いたら僕は、裂いたケタロウ様のお腹に手を入れて、そこにある長い物を引き摺り出していた。

「ああ…本当に綺麗だ…」

 外はアレに穢されたけれど、中は綺麗なまま。
 ドクドクと熱く脈を打つそれは、この時間でいつも僕を迎え入れてくれていた物。
 それに頬を寄せて、軽く唇をあてる。

 …熱い…あったかい…。
 …でも…この熱も…もうお終い…。
 …これまでの時間のように…冷えて硬くなって…流れている血も固まって行く…。

「………ぎは…失敗しな…」

 喉が痛くて、上手く声が出ない。
 ぽたりと目から、何かが落ちた。

 …次は…失敗しないから…。
 …だから…また…このケタロウ様に逢わせて…。
 …次は…良い子で居るから…。

「…ケタ…ロウ様…」

 顔を近付けて、ただのガラス玉のようになった、ケタロウ様の青い瞳を見る。
 ぽたぽたと僕の目から落ちる物が、ケタロウ様の顔を汚して行く。

「…次は…」

 …次は…良い子で居るから…僕を嫌いにならないで…?

 ぽたりぽたりと、とめどなく目から何かが零れてケタロウ様の顔に落ちる。
 落ちて落ちて、流れて行く。

「…だから…」

 …戻る為の力を…情を…僕に頂戴…?

 そう呟いて、僕はケタロウ様にキスをした。
 
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