攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略されていたのは、俺

【02】※

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『…は…?』

 あ、れ…?
 俺、今、何を思った…?
 …"俺の"って、何だ?
 そんなの…それって…。

 右手で口元を覆って、俺は呻く。
 そんな俺に気付かずに、メゴロウはベッドに居る俺を…死んだ俺を…顔を歪めて笑いながら…泣きながら…抱いている。

『…メゴロウ…』

 …なあ…お前、何で、そんなに苦しそうなんだよ…?
 何で、そんなに泣いているんだよ…?

 そっとメゴロウの傍まで行って、その肩に手を置こうとするが、俺の手は何も掴めずに空を切って行った。

 …まあ…姿も見えていないみたいだし、声も聞こえていないみたいだし、何となく、そんな気はしたが。

『…ガディシス様…』

 …なあ?
 何で、こんな夢を見せるんだよ?
 何で、メゴロウにこんな辛い想いをさせるんだよ?
 メゴロウに、何の恨みがあるんだよ?
 メゴロウは、この世界を救うヤツだろ?
 メゴロウは、このゲーム世界の主人公だろ?
 メゴロウは、幸せになるヤツだろ?
 てか、メゴロウを幸せにしてやるヒロインは何処に居るんだよ?
 
 …メゴロウ…。

『…お前…何で…泣いているんだよ…』

 …泣くなよ…。
 …俺が、傍に居るだろ?
 …俺が、ここに居るだろ?
 …そんな、死んだ俺より、生きている俺の方が良いだろ?

『…って…』

 何で、俺、死んでるんだ?
 俺が死んだから、メゴロウは泣いているのか?
 それなら、生き返ろよ、俺。
 中身出してないで、生き返ろよ。
 夢なんだからさ。
 気合い入れて生き返ろよ。
 何してんだよ、俺?
 メゴロウを泣かすなよ。
 
「…ケタロウ様…」

『どうしたんだい? 私はここに居るよ?』

 名前を呼ばれたから、咄嗟に返事をするが、メゴロウは俺を見ない。
 死んだ俺に覆い被さったまま、死んだ俺に話し掛けている。変わらず、涙を流したままで。

「…ごめんなさい…ケタロウ様…」

『何故、謝るんだい? 私はここに居るよ? 私を見ておくれ?』

「…次は…良い子でいるから…」

『何を言っているんだい? 君は何時も良い子で居たじゃないか』

「…だから…次は…僕を捨てないで…」

『…捨てる…? 何を言って…』

「…だから…次は…僕を…好きになって…」

『…好き…?』

 その言葉を呟いた途端、俺の頭が弾けた。
 いや、実際にそんな事になったら、モザイクさんのお世話になる。
 だが、本当にそんな感じだ。
 思い切りガツンと殴られて、ピヨピヨとヒヨコとお星様が頭の周りを飛ぶ程の。
 そんな衝撃を受けた。
 そして、

『――――――――…あ…?』

 …そうだ…。
 …俺…何で、忘れていた…?
 …これは…夢じゃない…。
 …俺は…メゴロウに…殺されたんだ…。

 そうだ。
 紫女に襲われて。けど、寸での処でメゴロウが来て、俺のちんこは無事(?)に、穴に挿入はいらずに済んで…。
 メゴロウと話していたら、俺の腹から鋏が生えて…。

 ――――――――…私は…君が…メゴロウが……――――――――。

『…好きなんだよ…』

 そう、言おうとしたのに。
 そう、伝えたかったのに。

『…馬鹿だね…。…人の話は最後まで聞くものだよ…?』

 手を伸ばして、触る事は出来ないが、メゴロウの頭の上に手を置くそぶりをする。そして、それをゆっくりと動かす。

『…もう…届く事は無いけれど…』

 …ぽたりと、俺の目から何かが落ちた。
 ぽたりぽたりと。
 それは段々と勢いを増して行く。
 喉も胸も痛い。
 俺、死んだのに。
 死んでも、涙は出るし、痛みはあるんだな…それとも、そう云った記憶のせいなのか?

『…私は…君の兄になりたい訳ではない…。…そう言ったよね?』

 …何で、あの時に言ってあげられなかったのかな…?
 …何で、ガディシス様は、こんなに意地悪なのかな…?
 …いや…ずるいのは…情けないのは…俺…か…。
 …何で、俺は忘れていたのかな…?
 …やり直しなんて、出来ないが…。

『…メゴロウ…私は…』

 叶うなら、戻りたい。
 ここは、ゲームの世界だが、ゲームでは無い。
 今の俺ケタロウの現実の世界だ。
 リセットボタンなんて存在しない。
 セーブポイントになんて戻れない。

『…君の…恋人になりたかったんだ…』

 ……見た時から、ずっと…。

『…すまないね…私が…臆病だったから…』

 …だから…、ガディシス様に…。

『…君が…幸せになれる様に…祈っているよ…』

 何でメゴロウが俺を殺したのか、理由は解らないが…もう、今となっては仕方が無い。
 首吊りよりは、好きな奴に殺された方がなんぼかマシだ。
 それに。
 その方がロマンティックだからな。

 ――――――――…なんて。

 やせ我慢だけどなっ!!
 ああ、もう!
 そうだよ!!
 死んだけど、死にたくないっ!!
 本当に、何で気付かなかったんだよ、俺っ!!
 あれとか、それとか、考えれば解るだろう?
 シナリオは、田中さんだぞ!?
 ゲーム内でビジュアルがあったのは、それは…――――――――。

 そこまで考えた時、メゴロウが死んだ俺の身体を抱き締めて、ぼそっと呟いた。

「…戻って…」

 ん?
 あれ? 何か、メゴロウの身体、光ってないか?

「…戻って…もう一度…」

 んん?

 目を凝らさなくても、明らかにメゴロウの身体は光っている。

「…もう一度…今のケタロウ様に逢わせて…次は…失敗しないから…」

 んんんっ!?

 白く白く眩しくて、俺の目が細められて行く。

「…時よ…戻って…っ…!!」

 あ~れ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?

 メゴロウのそんな悲痛な叫びと同時に、俺の意識は真っ白な光に包まれて行った。
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