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番外編
いつか、また【八】
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「天野! お前はまたそんなデカい声でっ!!」
「だーいじょうぶだって! もう、皆帰ったし。それに、みくちゃんが見えなくしてくれてるんだろ?」
「ん!」
天野の問いに元気に返事をしたのは、星だ。何故か、胸を張っている。
「…は? え…?」
死んだ筈の天野の登場に、瑞樹は目を白黒とさせる。
「…何…?」
瑞樹と同じ様に驚きはした物の、優士は周囲に目を配らせていた。
怒る高梨に、飄々と答える天野。そんな二人を何時もと同じと云う感じで見ている、自分達以外の者達。みくや星に雪緒等、派手に驚いても良い様なものなのに、それが無い。
それは、つまり。
ドンッと優士は拳にした右手で畳を叩いた。
「ゆ、ゆうじ…?」
隣に座る瑞樹がビクリと肩を震わせたが、優士は鋭い視線で室内に居る者達を見る。
「…どう云う事か説明して下さい。その為に、俺達を呼んだんですよね?」
甘さの欠片も無い優士の声に、辺りは静まり返った。
◇
「これが、今年の。こっちが五年前のだよ」
瑞樹と優士が並んで座る正面には、みくと天野が並んで座っていた。
みくが瑞樹と優士に、毎年朱雀の設立記念日に撮っている写真を見せて来た。全体で撮った物もあるが、みくが見せて来たのは、隊毎に撮った物だ。今年の物には、瑞樹や優士も写っているが、五年前の物に二人の姿は無い。
「…これが何か?」
「…見比べてみて、何も感じないかい? 特にウチの人と星をさ」
首を傾げる瑞樹と優士に、みくは軽く苦笑して、二人が見る写真を指差す。
「天野副隊長と星先輩?」
「あ、もう副隊長じゃないから、天野で良いぞ~」
「水を差すな、水を。大人しくしてろ」
再び写真に目を戻した二人に、天野が軽く手を振りながら言うのを、高梨が軽く嗜めた。
「う~ん…?」
「…特に…何も…?」
「…周りの者も見てみろ」
高梨の言葉に、二人は今度はそこに写っている隊員達を見た。
「わ、横山さん、髪の毛ふさふさだ」
「…何処を見ているんだ…。…長渕さん、白髪が目立つ様になったな…」
「ウチの人はどうだい?」
「おいらは?」
それぞれ、思った事を口にする二人に、みくと星が問い掛ける。
「え?」
「…天野副隊ちょ…さんも、星先輩も…」
そこまで口にして、優士は口を噤んだ。
(…変わりが…無い…?)
五年前の写真と今年の写真。そこに写る天野と星の姿は、何処も変わりが無い様に優士には見えた。
「…え…? あ、れ…? でも…」
(何時までも…若々しい人は…居るし…。星先輩なんか、特に…俺達が初めて逢った時と…え…?)
と、優士の隣に座る瑞樹がぼそぼそと呟くのが聞こえた。
「これ。十年前のだよ」
戸惑う二人に、みくはもう一枚の写真を二人の前に置いた。
「あ…っ…!?」
「…っ…!?」
流石に二人は絶句した。
十年前だと出された写真…そこに写る天野は、今とほぼほぼ変わらない姿で写っていたからだ。
いや、微妙に皺が深くなった気がする。するが、本当に微々たる物だった。星の姿は無い。まだ、入隊前だからだろう。
その写真と今、目の前に居る天野を見比べ、写真と高梨も二人は見比べた。
「…違う…」
「…高梨隊長は…皺が増え…」
驚きに目を瞠る二人に、天野は静かに語り出す。
「………それが、今回の茶番劇の理由だ。…俺も、最近まで気付かなかった。いや、まあ、爪や髪の伸びが遅いな? とは、思っていたがな」
多分、それを指摘したのは、相楽が初だろう。年末の特別任務に雪緒も行かせたくて、久しぶりに、この街に帰って来て、そして、久しぶりに天野を見て『猛君は、何時も変わらないね~』と、何気無く口にしたのが発端だった。
「ま、それで写真を引っ張り出して見比べて…で、杜川さんに話をして、五十嵐司令に話をして…」
首の後ろを掻きながら話す天野に、高梨が不機嫌そうな声を投げた。
「俺と雪緒は一番最後だったがな」
「紫様…っ…」
むすりとする高梨を雪緒が宥める。
こう見えて、天野は色々と悩んだのだ。
悩んで悩んで、高梨と雪緒へ掛ける気苦労は、最小限にしたいと思った結果、一番最後になってしまっただけなのだ。
「まあね~。みくちゃんは何時も綺麗だから、気にした事は無かったんだけどね~。女性…うん、女性だって云うのもあるし~星君は、ちょっとお馬鹿さんだから~まあ~こんなものなのかなあ~って、思ったりもするけど~。けど~流石にね~こんな写真があったらね~」
「や、あ、の、ちょ、待って下さい…っ…!」
まだ、上手く把握出来ていないだろう二人に、相楽が腕を組んでうんうんと頷く。
「…歳を…取らない…? いや、緩やかに…? って、みくさんや…星先輩、も…? どう云う事だ…?」
瑞樹が右手を挙げて待ったを掛ける隣で、優士は顎に拳にした手をあてて呟く。
「あのね。今まで黙っていてアレなんだけど…」
「おいらと、みく。あと、つきと。元は妖だからな!」
言いにくそうなみくの後ろで、星が笑顔で頭の後ろで腕を組んで、元気な声でそれを言った。
「………………………………は?」
あっけらかんと笑う星に、瑞樹と優士は、辛うじてそれだけを口にした。
「だーいじょうぶだって! もう、皆帰ったし。それに、みくちゃんが見えなくしてくれてるんだろ?」
「ん!」
天野の問いに元気に返事をしたのは、星だ。何故か、胸を張っている。
「…は? え…?」
死んだ筈の天野の登場に、瑞樹は目を白黒とさせる。
「…何…?」
瑞樹と同じ様に驚きはした物の、優士は周囲に目を配らせていた。
怒る高梨に、飄々と答える天野。そんな二人を何時もと同じと云う感じで見ている、自分達以外の者達。みくや星に雪緒等、派手に驚いても良い様なものなのに、それが無い。
それは、つまり。
ドンッと優士は拳にした右手で畳を叩いた。
「ゆ、ゆうじ…?」
隣に座る瑞樹がビクリと肩を震わせたが、優士は鋭い視線で室内に居る者達を見る。
「…どう云う事か説明して下さい。その為に、俺達を呼んだんですよね?」
甘さの欠片も無い優士の声に、辺りは静まり返った。
◇
「これが、今年の。こっちが五年前のだよ」
瑞樹と優士が並んで座る正面には、みくと天野が並んで座っていた。
みくが瑞樹と優士に、毎年朱雀の設立記念日に撮っている写真を見せて来た。全体で撮った物もあるが、みくが見せて来たのは、隊毎に撮った物だ。今年の物には、瑞樹や優士も写っているが、五年前の物に二人の姿は無い。
「…これが何か?」
「…見比べてみて、何も感じないかい? 特にウチの人と星をさ」
首を傾げる瑞樹と優士に、みくは軽く苦笑して、二人が見る写真を指差す。
「天野副隊長と星先輩?」
「あ、もう副隊長じゃないから、天野で良いぞ~」
「水を差すな、水を。大人しくしてろ」
再び写真に目を戻した二人に、天野が軽く手を振りながら言うのを、高梨が軽く嗜めた。
「う~ん…?」
「…特に…何も…?」
「…周りの者も見てみろ」
高梨の言葉に、二人は今度はそこに写っている隊員達を見た。
「わ、横山さん、髪の毛ふさふさだ」
「…何処を見ているんだ…。…長渕さん、白髪が目立つ様になったな…」
「ウチの人はどうだい?」
「おいらは?」
それぞれ、思った事を口にする二人に、みくと星が問い掛ける。
「え?」
「…天野副隊ちょ…さんも、星先輩も…」
そこまで口にして、優士は口を噤んだ。
(…変わりが…無い…?)
五年前の写真と今年の写真。そこに写る天野と星の姿は、何処も変わりが無い様に優士には見えた。
「…え…? あ、れ…? でも…」
(何時までも…若々しい人は…居るし…。星先輩なんか、特に…俺達が初めて逢った時と…え…?)
と、優士の隣に座る瑞樹がぼそぼそと呟くのが聞こえた。
「これ。十年前のだよ」
戸惑う二人に、みくはもう一枚の写真を二人の前に置いた。
「あ…っ…!?」
「…っ…!?」
流石に二人は絶句した。
十年前だと出された写真…そこに写る天野は、今とほぼほぼ変わらない姿で写っていたからだ。
いや、微妙に皺が深くなった気がする。するが、本当に微々たる物だった。星の姿は無い。まだ、入隊前だからだろう。
その写真と今、目の前に居る天野を見比べ、写真と高梨も二人は見比べた。
「…違う…」
「…高梨隊長は…皺が増え…」
驚きに目を瞠る二人に、天野は静かに語り出す。
「………それが、今回の茶番劇の理由だ。…俺も、最近まで気付かなかった。いや、まあ、爪や髪の伸びが遅いな? とは、思っていたがな」
多分、それを指摘したのは、相楽が初だろう。年末の特別任務に雪緒も行かせたくて、久しぶりに、この街に帰って来て、そして、久しぶりに天野を見て『猛君は、何時も変わらないね~』と、何気無く口にしたのが発端だった。
「ま、それで写真を引っ張り出して見比べて…で、杜川さんに話をして、五十嵐司令に話をして…」
首の後ろを掻きながら話す天野に、高梨が不機嫌そうな声を投げた。
「俺と雪緒は一番最後だったがな」
「紫様…っ…」
むすりとする高梨を雪緒が宥める。
こう見えて、天野は色々と悩んだのだ。
悩んで悩んで、高梨と雪緒へ掛ける気苦労は、最小限にしたいと思った結果、一番最後になってしまっただけなのだ。
「まあね~。みくちゃんは何時も綺麗だから、気にした事は無かったんだけどね~。女性…うん、女性だって云うのもあるし~星君は、ちょっとお馬鹿さんだから~まあ~こんなものなのかなあ~って、思ったりもするけど~。けど~流石にね~こんな写真があったらね~」
「や、あ、の、ちょ、待って下さい…っ…!」
まだ、上手く把握出来ていないだろう二人に、相楽が腕を組んでうんうんと頷く。
「…歳を…取らない…? いや、緩やかに…? って、みくさんや…星先輩、も…? どう云う事だ…?」
瑞樹が右手を挙げて待ったを掛ける隣で、優士は顎に拳にした手をあてて呟く。
「あのね。今まで黙っていてアレなんだけど…」
「おいらと、みく。あと、つきと。元は妖だからな!」
言いにくそうなみくの後ろで、星が笑顔で頭の後ろで腕を組んで、元気な声でそれを言った。
「………………………………は?」
あっけらかんと笑う星に、瑞樹と優士は、辛うじてそれだけを口にした。
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