38 / 86
やがて
【四】旦那様と一人の夜
しおりを挟む
「ふわあ…まるで蒸し風呂です…」
お屋敷中の窓と云う窓を開けまして、僕はそう呟きました。
今日も病院に泊まるつもりだったのですが、旦那様に『帰って家の様子を見て来い』と言われましたので、お屋敷へと戻って来ました。
相楽様から、問題は無いと聞かされて居たのですが、中の様子は解らないだろうと言われたのです。
そう言われてしまいましたら、やはり気になる物です。
鍵は掛けては居ますが、万が一と云う事もありますからね。
ですが、無用の心配でしたね。
お屋敷の中は何ともありませんでしたし、あの、青い箱も無事でした。
旦那様は、明日帰ると言っていました。
本来なら、背中の傷もあるし、まだまだ入院していた方が良いんだけどね~と、相楽様が肩を竦めていました。
明日、お昼前に着替えを持って来いと言われましたので、その準備を致しましょうか。今旦那様が身に着けていますのは、病院で用意して下さった浴衣ですものね。そして、朝になりましたら、お布団を干しましょうね。ふかふかのほかほかになる事でしょう。ああ、そうです。お風呂も洗いませんと。帰ったらお風呂に入りたいと言っていましたからね。
「あ」
僕は自分の腕を鼻まで持って来て、臭いを嗅ぎました。
「うぅん…」
少し汗臭い気がしますし、この蒸し風呂のせいで、肌もべたついています。
「…どうしましょう…」
僕一人だけの為に、お風呂を沸かすのは躊躇われます。
では、水浴び…は、駄目ですね。もう陽が暮れますのに、その様な事をして、また熱でも出したら目もあてられませんし、今度こそ旦那様に呆れられてしまいます。
仕方がありません。とても勿体無いですが、お風呂を沸かして入りましょう。
お風呂場へと向かいまして、お水を溜めている間に明日の準備をしてしまいましょう。お着替えと、後は草履も必要ですよね。
準備を終えまして、お水の溜まり具合を見てお風呂を沸かします。
夜は…おにぎりを食べましたから、必要無いですね。お腹も空いてませんし。
そうしてお風呂へと入りまして、その後にお風呂を洗いまして、明日の為にお水を張りました。こうして置けば、明日、旦那様がお帰りになられた時に、直ぐに沸きますからね。
ああ、そうです。手拭いと下着も用意して置きましょうね。
「あ」
下着を手に取り、僕は気付きました。
「…褌…片手では締められませんよね…」
まあ、僕がお手伝いすれば良いですよね。
お風呂のお手伝いは当然致しますしね。
そうして、明日の予定を頭の中で組み立てながら、僕はお布団へと入りました。
「おやすみなさい」
と、目を閉じて呟いたのですが、何故か胸がざわざわしました。
何故でしょう?
おかしいですね?
一人で眠るのは何時もの事ですのに。
閉じていた目を開けて、ぼんやりと天井を見ます。
何時もの見慣れた天井です。何も変わった処はありません。
それですのに、この落ち着かない感じは何なのでしょうか?
むくりと起き上がりまして、台所へと向かいます。
「うぅん…」
コップに汲んだお水を一口飲んで、僕は唸りました。
お水を飲めば落ち着くかと思いましたが、まだ、どうにも落ち着かない感じがします。
このままでは、眠れる気がしません。
「…はふぅ…」
軽く息を吐いて、台所から茶の間へと移動をしまして、ふと気付きました。
「…これ程静かで…広かったでしょうか…?」
僕が眠る時には、まだ旦那様が起きていまして、僕が『お先に失礼致します』と言えば、旦那様が『ああ』と、短くではありますが、そう返して下さいました。
そして、お布団に入りまして『おやすみなさい』と、呟いてから、眠りに付くのです。
それが無いから、落ち着かないのでしょうか?
応えてくれる人が…ここに居ないから…。…一人だから…。
…旦那様が…居ないから…。
「…ふぇ…」
情けない声が出ました。
明日になれば、旦那様は帰って来ますのに。
このお屋敷に。
旦那様のお屋敷に。
たったの一晩です。
それだけです。
それだけ、ですのに。
「…ふえぇ…」
ふらふらと、僕は仏間へと移動しました。
『ちぃん…』と、静かにおりんを鳴らします。
「…奥様、申し訳ございません」
僕は顔の前で両手を合わせて、頭を下げました。
「…今夜だけ…今夜だけです…。ですから、お許しを…。後、旦那様にはご内密にお願い致します」
そのまま、更に頭を下げて額を畳に擦り付けてから、僕は立ち上がって、旦那様のお部屋へと向かいました。
押し入れを開けまして、中からお布団を取り出します。
畳の上に敷きまして、仕上げに枕を押し入れから取り出して、ぎゅっと抱き締めました。
不思議とざわついていた胸が落ち着いた気がします。
枕を抱き締めたまま、お布団へと潜り込みます。
そうしましたら、やはり、また、落ち着いた気がします。
「…おやすみなさい…」
ぎゅっと、また枕を抱き締めて、僕は目を閉じて呟きました。
思った通りに、眠れそうです。
旦那様のお部屋で。
旦那様の使用してますお布団の中で。
ぽかぽかとした気持ちで、僕は眠りに付きました。
そして、翌朝。
「ふえぇええええ…」
僕はお風呂場で、情けない声を出しながら、粗相をしてしまった下着を洗っていました。
お屋敷中の窓と云う窓を開けまして、僕はそう呟きました。
今日も病院に泊まるつもりだったのですが、旦那様に『帰って家の様子を見て来い』と言われましたので、お屋敷へと戻って来ました。
相楽様から、問題は無いと聞かされて居たのですが、中の様子は解らないだろうと言われたのです。
そう言われてしまいましたら、やはり気になる物です。
鍵は掛けては居ますが、万が一と云う事もありますからね。
ですが、無用の心配でしたね。
お屋敷の中は何ともありませんでしたし、あの、青い箱も無事でした。
旦那様は、明日帰ると言っていました。
本来なら、背中の傷もあるし、まだまだ入院していた方が良いんだけどね~と、相楽様が肩を竦めていました。
明日、お昼前に着替えを持って来いと言われましたので、その準備を致しましょうか。今旦那様が身に着けていますのは、病院で用意して下さった浴衣ですものね。そして、朝になりましたら、お布団を干しましょうね。ふかふかのほかほかになる事でしょう。ああ、そうです。お風呂も洗いませんと。帰ったらお風呂に入りたいと言っていましたからね。
「あ」
僕は自分の腕を鼻まで持って来て、臭いを嗅ぎました。
「うぅん…」
少し汗臭い気がしますし、この蒸し風呂のせいで、肌もべたついています。
「…どうしましょう…」
僕一人だけの為に、お風呂を沸かすのは躊躇われます。
では、水浴び…は、駄目ですね。もう陽が暮れますのに、その様な事をして、また熱でも出したら目もあてられませんし、今度こそ旦那様に呆れられてしまいます。
仕方がありません。とても勿体無いですが、お風呂を沸かして入りましょう。
お風呂場へと向かいまして、お水を溜めている間に明日の準備をしてしまいましょう。お着替えと、後は草履も必要ですよね。
準備を終えまして、お水の溜まり具合を見てお風呂を沸かします。
夜は…おにぎりを食べましたから、必要無いですね。お腹も空いてませんし。
そうしてお風呂へと入りまして、その後にお風呂を洗いまして、明日の為にお水を張りました。こうして置けば、明日、旦那様がお帰りになられた時に、直ぐに沸きますからね。
ああ、そうです。手拭いと下着も用意して置きましょうね。
「あ」
下着を手に取り、僕は気付きました。
「…褌…片手では締められませんよね…」
まあ、僕がお手伝いすれば良いですよね。
お風呂のお手伝いは当然致しますしね。
そうして、明日の予定を頭の中で組み立てながら、僕はお布団へと入りました。
「おやすみなさい」
と、目を閉じて呟いたのですが、何故か胸がざわざわしました。
何故でしょう?
おかしいですね?
一人で眠るのは何時もの事ですのに。
閉じていた目を開けて、ぼんやりと天井を見ます。
何時もの見慣れた天井です。何も変わった処はありません。
それですのに、この落ち着かない感じは何なのでしょうか?
むくりと起き上がりまして、台所へと向かいます。
「うぅん…」
コップに汲んだお水を一口飲んで、僕は唸りました。
お水を飲めば落ち着くかと思いましたが、まだ、どうにも落ち着かない感じがします。
このままでは、眠れる気がしません。
「…はふぅ…」
軽く息を吐いて、台所から茶の間へと移動をしまして、ふと気付きました。
「…これ程静かで…広かったでしょうか…?」
僕が眠る時には、まだ旦那様が起きていまして、僕が『お先に失礼致します』と言えば、旦那様が『ああ』と、短くではありますが、そう返して下さいました。
そして、お布団に入りまして『おやすみなさい』と、呟いてから、眠りに付くのです。
それが無いから、落ち着かないのでしょうか?
応えてくれる人が…ここに居ないから…。…一人だから…。
…旦那様が…居ないから…。
「…ふぇ…」
情けない声が出ました。
明日になれば、旦那様は帰って来ますのに。
このお屋敷に。
旦那様のお屋敷に。
たったの一晩です。
それだけです。
それだけ、ですのに。
「…ふえぇ…」
ふらふらと、僕は仏間へと移動しました。
『ちぃん…』と、静かにおりんを鳴らします。
「…奥様、申し訳ございません」
僕は顔の前で両手を合わせて、頭を下げました。
「…今夜だけ…今夜だけです…。ですから、お許しを…。後、旦那様にはご内密にお願い致します」
そのまま、更に頭を下げて額を畳に擦り付けてから、僕は立ち上がって、旦那様のお部屋へと向かいました。
押し入れを開けまして、中からお布団を取り出します。
畳の上に敷きまして、仕上げに枕を押し入れから取り出して、ぎゅっと抱き締めました。
不思議とざわついていた胸が落ち着いた気がします。
枕を抱き締めたまま、お布団へと潜り込みます。
そうしましたら、やはり、また、落ち着いた気がします。
「…おやすみなさい…」
ぎゅっと、また枕を抱き締めて、僕は目を閉じて呟きました。
思った通りに、眠れそうです。
旦那様のお部屋で。
旦那様の使用してますお布団の中で。
ぽかぽかとした気持ちで、僕は眠りに付きました。
そして、翌朝。
「ふえぇええええ…」
僕はお風呂場で、情けない声を出しながら、粗相をしてしまった下着を洗っていました。
57
あなたにおすすめの小説
星降る夜に ~これは大人の純愛なのか。臆病者の足踏みか。~
大波小波
BL
鳴滝 和正(なるたき かずまさ)は、イベント会社に勤めるサラリーマンだ。
彼はある日、打ち合わせ先の空き時間を過ごしたプラネタリウムで、寝入ってしまう。
和正を優しく起こしてくれたのは、そこのナレーターを務める青年・清水 祐也(しみず ゆうや)だった。
祐也を気に入った和正は、頻繁にプラネタリウムに通うようになる。
夕食も共にするほど、親しくなった二人。
しかし祐也は夜のバイトが忙しく、なかなかデートの時間が取れなかった。
それでも彼と過ごした後は、心が晴れる和正だ。
浮かれ気分のまま、彼はボーイズ・バーに立ち寄った。
そしてスタッフメニューの中に、祐也の姿を見つけてしまう。
彼の夜の顔は、風俗店で働く男娼だったのだ……。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
【完結】君の穿ったインソムニア
古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。
純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。
「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」
陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる