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向日葵―奇跡の時間―
向日葵の想い【十三】
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嫌よ。駄目よ。
消えるだなんて、そんな悲しい事を言わないで。
居てはいけない場所だなんて言わないで。
ゆき君は何時までもここに居て良いのよ?
ゆき君が嫌だと言っても、私は繋いだこの手を離したりしないのだから。
いいえ、それは私だけでは無くて。ここで出逢った皆が同じ想いを抱いているのよ?
どうしたら。
どう言えば、ゆき君に伝わるのかしら?
ここは、ゆき君のお家なの。
ゆき君の帰る場所なのよ?
ゆき君が帰って来る場所なのよ?
ゆき君のお蔭で、情けない自分に気付く事が出来たの。
ゆき君のお蔭で、それまでよりももっと笑える様になったの。
ゆき君のお蔭で、本当に沢山の事を知る事が出来たのよ?
もっと、もっと、私が見落として来た世界をゆき君に教えて欲しいの。
私も、私が知る優しい世界をゆき君に知って欲しいの。
ぱさり、ぱさりと雪の降る音が耳に届きます。
何処までも何時までも降って、降り続いて積み重なって行く物。
けれど、これは辛く苦しい物では無くて。
ゆき君の名前にある物が辛い物である筈が無くて。
そんな物をゆき君のご両親が名前に付ける筈が無くて。
どんなに小さな物でも。
どれだけ些細な物でも。
幸せを降り積もらせたいのだと。
きっと、そんな想いが籠められた物だと思うから。
そんな小さな幸せが逃げて行かない様に。
そんな小さな幸せが解れて逃げてしまわない様に。
…だから…きっと…。
小さな手が凍えてしまわない様に、ゆき君の指先を包む手に力を入れます。
身を屈めて、不安そうな、その丸い目を覗き込んで、そっと目を細めて頬を緩めて。
暖かい笑顔であります様に。
穏やかな微笑みであります様に。
そう願って、私は口を開きます。
「…緒は結ぶものよ…」
…本当は…本当の意味は違うのかも知れないけれど…。
「…奥様…?」
…けれど…。…ここに来るまでのゆき君には、繋ぎ止める物が何も無くて…。
…それなら…良いわよね? 私が…私達が、ここに繋ぎ止めても。
私が、ゆき君にここに居て欲しいのだから。
ゆき君を、溶けて消える雪になんてしないわ。
「ゆき君の名前にある"緒"は、結ぶ物よ。ゆき君と私達の縁を、あの人が引き寄せて、そして結んでくれたの」
「…えにし…ですか…」
そうよ。紫様のその名前にある様に。私と縁を結べたのも、その名前のせいなのよ…。
「ええ、私達にはゆかりがあったのよ。ゆき君の名前にあるのは、雪と緒。それは雪の様に沢山ある緒なのよ。…だって、ね? 雪が降り続ける限り、消える事は無いの。もしも、結んだ緒が切れてしまっても…ほら、こんなに沢山降って来るのよ? 素敵でしょう? たとえ切れても、また何度でも結び直せるわ」
「…雪が止みましたらどうなるのですか…? 積もった雪が溶けましたら…」
私の言葉に、ゆき君は硝子の向こうで舞う雪へと顔を向けます。その瞳は、未だ不安そうに揺れていて。だから、今度はその掌ごと包み込んで、私は笑います。
「あらあら。雪は溶けたらお水になるのよ? この大地に染み込んで、何時か、また空に還って行くのよ? だから、雪が消える事はないのよ」
…だから、ゆき君が、雪の様に消える事はないの…。
「…見えないだけで、そこに在るの。だから、何時でも結び直せるのよ。…あの人は…その名前の通りに…ゆかりの人だから…あの人が見つけたゆき君だもの。あの人は何度でも何処に在っても、必ずこの緒を探して、見つけて結んでくれるわ。何度も、幾度も、ね?」
「…そう…ですか…。…それは…素敵ですね…」
そう言って、目を細めて舞う雪を見るゆき君の瞳には、もう不安の色は無くて。
少しでも、雪に対する思いが変わってくれた様で、ほっと胸を撫で下ろしました。
「ええ。とても素敵な縁よ。…お喋りが過ぎたみたい。喉が渇いてしまったわ。ゆき君もそうよね? 手を休めてお茶にしましょう。お妙さんも一緒に…って、動けるかしら…?」
「あ、僕、様子を見て来ますね」
そっと手を離して、喉に手をあてて肩を竦めて見せたら、ゆき君は丁寧に頭を下げて、速足でお妙さんのお部屋へと向かいました。
「ええ。動くのが辛い様なら、お妙さんのお部屋でお茶にしましょうね」
その背中に私は笑みを深くして、硝子の向こうではらはらと舞う雪を見ます。
これから降る雪が、優しい物になる様に。
この雪の降る音が、優しく耳に響きます様に。
重く冷たく圧し掛かる物では無いと。
積もった雪は、冷たい風から身を守ってくれる物だと云う事も知って欲しい。
晴れた日の朝に、輝く真白の雪がどれだけ綺麗な物なのか、ゆき君に知って欲しい。
それは、ゆき君の心の様に、何の穢れも無い綺麗な物なのだから。
消えるだなんて、そんな悲しい事を言わないで。
居てはいけない場所だなんて言わないで。
ゆき君は何時までもここに居て良いのよ?
ゆき君が嫌だと言っても、私は繋いだこの手を離したりしないのだから。
いいえ、それは私だけでは無くて。ここで出逢った皆が同じ想いを抱いているのよ?
どうしたら。
どう言えば、ゆき君に伝わるのかしら?
ここは、ゆき君のお家なの。
ゆき君の帰る場所なのよ?
ゆき君が帰って来る場所なのよ?
ゆき君のお蔭で、情けない自分に気付く事が出来たの。
ゆき君のお蔭で、それまでよりももっと笑える様になったの。
ゆき君のお蔭で、本当に沢山の事を知る事が出来たのよ?
もっと、もっと、私が見落として来た世界をゆき君に教えて欲しいの。
私も、私が知る優しい世界をゆき君に知って欲しいの。
ぱさり、ぱさりと雪の降る音が耳に届きます。
何処までも何時までも降って、降り続いて積み重なって行く物。
けれど、これは辛く苦しい物では無くて。
ゆき君の名前にある物が辛い物である筈が無くて。
そんな物をゆき君のご両親が名前に付ける筈が無くて。
どんなに小さな物でも。
どれだけ些細な物でも。
幸せを降り積もらせたいのだと。
きっと、そんな想いが籠められた物だと思うから。
そんな小さな幸せが逃げて行かない様に。
そんな小さな幸せが解れて逃げてしまわない様に。
…だから…きっと…。
小さな手が凍えてしまわない様に、ゆき君の指先を包む手に力を入れます。
身を屈めて、不安そうな、その丸い目を覗き込んで、そっと目を細めて頬を緩めて。
暖かい笑顔であります様に。
穏やかな微笑みであります様に。
そう願って、私は口を開きます。
「…緒は結ぶものよ…」
…本当は…本当の意味は違うのかも知れないけれど…。
「…奥様…?」
…けれど…。…ここに来るまでのゆき君には、繋ぎ止める物が何も無くて…。
…それなら…良いわよね? 私が…私達が、ここに繋ぎ止めても。
私が、ゆき君にここに居て欲しいのだから。
ゆき君を、溶けて消える雪になんてしないわ。
「ゆき君の名前にある"緒"は、結ぶ物よ。ゆき君と私達の縁を、あの人が引き寄せて、そして結んでくれたの」
「…えにし…ですか…」
そうよ。紫様のその名前にある様に。私と縁を結べたのも、その名前のせいなのよ…。
「ええ、私達にはゆかりがあったのよ。ゆき君の名前にあるのは、雪と緒。それは雪の様に沢山ある緒なのよ。…だって、ね? 雪が降り続ける限り、消える事は無いの。もしも、結んだ緒が切れてしまっても…ほら、こんなに沢山降って来るのよ? 素敵でしょう? たとえ切れても、また何度でも結び直せるわ」
「…雪が止みましたらどうなるのですか…? 積もった雪が溶けましたら…」
私の言葉に、ゆき君は硝子の向こうで舞う雪へと顔を向けます。その瞳は、未だ不安そうに揺れていて。だから、今度はその掌ごと包み込んで、私は笑います。
「あらあら。雪は溶けたらお水になるのよ? この大地に染み込んで、何時か、また空に還って行くのよ? だから、雪が消える事はないのよ」
…だから、ゆき君が、雪の様に消える事はないの…。
「…見えないだけで、そこに在るの。だから、何時でも結び直せるのよ。…あの人は…その名前の通りに…ゆかりの人だから…あの人が見つけたゆき君だもの。あの人は何度でも何処に在っても、必ずこの緒を探して、見つけて結んでくれるわ。何度も、幾度も、ね?」
「…そう…ですか…。…それは…素敵ですね…」
そう言って、目を細めて舞う雪を見るゆき君の瞳には、もう不安の色は無くて。
少しでも、雪に対する思いが変わってくれた様で、ほっと胸を撫で下ろしました。
「ええ。とても素敵な縁よ。…お喋りが過ぎたみたい。喉が渇いてしまったわ。ゆき君もそうよね? 手を休めてお茶にしましょう。お妙さんも一緒に…って、動けるかしら…?」
「あ、僕、様子を見て来ますね」
そっと手を離して、喉に手をあてて肩を竦めて見せたら、ゆき君は丁寧に頭を下げて、速足でお妙さんのお部屋へと向かいました。
「ええ。動くのが辛い様なら、お妙さんのお部屋でお茶にしましょうね」
その背中に私は笑みを深くして、硝子の向こうではらはらと舞う雪を見ます。
これから降る雪が、優しい物になる様に。
この雪の降る音が、優しく耳に響きます様に。
重く冷たく圧し掛かる物では無いと。
積もった雪は、冷たい風から身を守ってくれる物だと云う事も知って欲しい。
晴れた日の朝に、輝く真白の雪がどれだけ綺麗な物なのか、ゆき君に知って欲しい。
それは、ゆき君の心の様に、何の穢れも無い綺麗な物なのだから。
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