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向日葵の零れ話
旦那様はさんたくろうす
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「…サンタクロース…ですか…」
柚子様の言葉に、私は顎に人差し指をあてて首を傾げました。
「そうそう~。異国の物の怪で~毎年十二月の二十四日の深夜から二十五日に~、その一年間良い子にしてた子供達に贈り物をするんだって~」
そう言われてみれば、その様なお伽話を聞いた覚えがありますわね。
「雪緒君に贈り物をする絶好の機会だと思うよ~?」
「ゆき君に…」
私の小さな呟きに、柚子様は満足そうに頷いたのでした。
◇
「…サンタクロース…?」
就寝前、ゆき君がお風呂に入り、そしてお掃除している間に、茶の間にてお茶を飲みながら、柚子様との会話を紫様にしましたら、やはり紫様も軽く首を傾げています。私と同じ様に、紫様も馴染みが無いのでしょうね。
昨夜から咳が出て今朝になっても治まらないので、お薬を用意して貰いましょうと、柚子様の診療所へと電話を入れましたら、柚子様が『僕が持って行くよ~。雪緒君の顔も見たいし~』と、わざわざ足を運んで下さったのです。柚子様が来て直ぐに、ゆき君はお買い物に出て行ってしまったのですけどね。そこでサンタクロースのお話しになったのです。
「ええ、確かにサンタクロースからの贈り物と云う事にすれば、流石のゆき君も何かしら欲しがるのではないかしらと、柚子様も…」
そうなのです。今年のお誕生日も、ゆき君に新しい草履を贈りました…。
本当にゆき君には物欲が無くて困ってしまいます。
「…確かにな…。…確か…勝手に品を置いて行くのだったか…? 返品のしようも無いだろうしな…」
片手で顎を覆う様にして紫様が頷きます。
「…では…」
「鞠子、頼む!」
ゆき君が何を欲しがるのか、紫様が聞き出して下さいませ。と、私が口を開くより先に、紫様が卓袱台に両手を置いて勢い良く頭を下げて来ました。
ず、ずるいですわよ!?
「お掃除終わりました。ああ、新しいお茶をお煎れしましょうね」
「ええ、ありがとう。ゆき君も一緒に飲みましょう」
余りの勢いに口をパクパクとさせていましたら、障子の開く音がして、ゆき君の声が聞こえて来たので、私は慌てて笑みを浮かべて後ろを振り返り、そう口にしたのでした。
茶の間を横切り台所へと向かうゆき君の背中を見送りながら、ちらりと紫様を見ましたら、紫様は顔の前で両手を合わせて私を拝んでいました。
◇
翌日、茶の間にてお茶を飲みながら、ゆき君にその話をしました。
「さんたくろうす、ですか?」
「ええ、そうよ。異国の良い物の怪で、毎年十二月二十五日にね、子供達に贈り物をするの」
「ふえぇ~。素晴らしい物の怪さんですね」
「枕元にね、靴下…足袋を置いて、欲しい物を書いた紙をその中に入れておくの。一週間前からが望ましいらしいわ」
「ふえぇ~。そんなに前から準備されるのですか、大変ですね」
「だから、ね? ゆき君もお願いしてみたらどうかしら? きっと、ゆき君が欲しい物を用意してくれるわ」
「ふえぇ~」
と、ゆき君は終始目を丸くして驚いていたけれど…その姿はとても愛くるしかったのだけど…大丈夫よね? ちゃんと伝わったわよね? ゆき君の欲しい物を教えてと、直接聞いてもゆき君は口にしないだろうから、昨夜寝ながら考えたのだけれど…不安だわ…。
『さんたくろうす様。毎年寒い中ご苦労様です。僕に欲しい物はありませんので、その分で暖かいお召し物をご用意して下さい。あ、お飲み物の方が宜しいでしょうか。さんたくろうす様がお倒れになりましたら皆様が悲しみますので、どうぞご自愛下さいませ。里山雪緒』
そして、その夜。
ゆき君が眠ったのを見計らってゆき君の部屋へ忍び込んだ紫様から、その手紙を見せられまして、二人で頭を抱えてしまいました。
「…ああ…お妙さんが居てくれたら…」
「言うな。こうなっては仕方が無い」
「…何か策がありますの?」
額に手をあてて項垂れる私に、むすりとしたままではありますが紫様は力強く頷いたのでした。
◇
「ふわああああああっ!?」
二十五日の早朝、ゆき君の叫び声に私は飛び起きて部屋を出ました。向かうのは、勿論ゆき君の部屋です。ゆき君の部屋の障子は開いていまして、中には既に紫様が居ました。居ましたが…。
「…あの…その風呂敷包みは…?」
布団の上で正座をして、口を開いたまま固まっているゆき君の代わりに、私が紫様に尋ねます。ゆき君の枕元にあります、ゆき君を包めてしまいそうな大きさの白い風呂敷包みを指差して。
…やりすぎですわ…。
との、呟きは何とか飲み込みましたけど。
「…ああ…。サンタクロースからの贈り物だろう。そら、開けてみろ雪緒」
「ふええ~?」
紫様の言葉に、ゆき君が困惑の表情を浮かべたまま、震える手で風呂敷包みを開けて行きます。結び目を一つ解く毎に、それがポロリポロリと零れて行きます。
…ええ…沢山のチョコレートが…。
クラクラとした眩暈を感じて私は額に手をあててしまいます。
確かに、ゆき君はチョコレートが好きですけれど、こんなに沢山…ゆき君の身体程もある分量のチョコレートを食べきれる筈も無いでしょう? 何をここぞとばかりに仕入れているのでしょうか…。
「ちょこれいと…こんなに沢山…」
「良かったな雪緒。サンタクロースにはお前の欲しい物なぞお見通しと云う事らしいな」
…紫様…無理矢理過ぎて、口元が引き攣って棒読みになっていますわよ…。
はああ~…頭が痛いですわ…。まあ、ゆき君が喜んでくれるのなら、それで良いのだけど…?
と、軽く息を吐きましたら、布団の上でゆき君が零れ落ちたチョコレートを拾い集めて、風呂敷へと詰めています。
「よいしょ」
一つ残らず風呂敷の中へと戻しまして、丁寧に結んだと思いましたら、ゆき君はそれを背中に担いで立ち上がったのです。
「…雪緒?」
「…ゆき君?」
私と紫様の疑問の声が重なりました。
そんな私達に、ゆき君は真面目な顔と声で言います。
「僕の様な者が、こんなに沢山のちょこれいとを戴ける筈もございません。これは、この寒さで体調を崩されたさんたくろうす様が、自分の代わりを僕に、と、置いて行った物なのです。ですから、これから僕はこのちょこれいとを皆様にお配りしなければな」
「何故そうなるっ!!」
「いたっ! 痛いです旦那様ーっ!!」
…ああ…。…来年は…何とかしてゆき君が勘違いしない物を…。
と、紫様に鼻を摘ままれるゆき君を見ながら思ったのでした。
柚子様の言葉に、私は顎に人差し指をあてて首を傾げました。
「そうそう~。異国の物の怪で~毎年十二月の二十四日の深夜から二十五日に~、その一年間良い子にしてた子供達に贈り物をするんだって~」
そう言われてみれば、その様なお伽話を聞いた覚えがありますわね。
「雪緒君に贈り物をする絶好の機会だと思うよ~?」
「ゆき君に…」
私の小さな呟きに、柚子様は満足そうに頷いたのでした。
◇
「…サンタクロース…?」
就寝前、ゆき君がお風呂に入り、そしてお掃除している間に、茶の間にてお茶を飲みながら、柚子様との会話を紫様にしましたら、やはり紫様も軽く首を傾げています。私と同じ様に、紫様も馴染みが無いのでしょうね。
昨夜から咳が出て今朝になっても治まらないので、お薬を用意して貰いましょうと、柚子様の診療所へと電話を入れましたら、柚子様が『僕が持って行くよ~。雪緒君の顔も見たいし~』と、わざわざ足を運んで下さったのです。柚子様が来て直ぐに、ゆき君はお買い物に出て行ってしまったのですけどね。そこでサンタクロースのお話しになったのです。
「ええ、確かにサンタクロースからの贈り物と云う事にすれば、流石のゆき君も何かしら欲しがるのではないかしらと、柚子様も…」
そうなのです。今年のお誕生日も、ゆき君に新しい草履を贈りました…。
本当にゆき君には物欲が無くて困ってしまいます。
「…確かにな…。…確か…勝手に品を置いて行くのだったか…? 返品のしようも無いだろうしな…」
片手で顎を覆う様にして紫様が頷きます。
「…では…」
「鞠子、頼む!」
ゆき君が何を欲しがるのか、紫様が聞き出して下さいませ。と、私が口を開くより先に、紫様が卓袱台に両手を置いて勢い良く頭を下げて来ました。
ず、ずるいですわよ!?
「お掃除終わりました。ああ、新しいお茶をお煎れしましょうね」
「ええ、ありがとう。ゆき君も一緒に飲みましょう」
余りの勢いに口をパクパクとさせていましたら、障子の開く音がして、ゆき君の声が聞こえて来たので、私は慌てて笑みを浮かべて後ろを振り返り、そう口にしたのでした。
茶の間を横切り台所へと向かうゆき君の背中を見送りながら、ちらりと紫様を見ましたら、紫様は顔の前で両手を合わせて私を拝んでいました。
◇
翌日、茶の間にてお茶を飲みながら、ゆき君にその話をしました。
「さんたくろうす、ですか?」
「ええ、そうよ。異国の良い物の怪で、毎年十二月二十五日にね、子供達に贈り物をするの」
「ふえぇ~。素晴らしい物の怪さんですね」
「枕元にね、靴下…足袋を置いて、欲しい物を書いた紙をその中に入れておくの。一週間前からが望ましいらしいわ」
「ふえぇ~。そんなに前から準備されるのですか、大変ですね」
「だから、ね? ゆき君もお願いしてみたらどうかしら? きっと、ゆき君が欲しい物を用意してくれるわ」
「ふえぇ~」
と、ゆき君は終始目を丸くして驚いていたけれど…その姿はとても愛くるしかったのだけど…大丈夫よね? ちゃんと伝わったわよね? ゆき君の欲しい物を教えてと、直接聞いてもゆき君は口にしないだろうから、昨夜寝ながら考えたのだけれど…不安だわ…。
『さんたくろうす様。毎年寒い中ご苦労様です。僕に欲しい物はありませんので、その分で暖かいお召し物をご用意して下さい。あ、お飲み物の方が宜しいでしょうか。さんたくろうす様がお倒れになりましたら皆様が悲しみますので、どうぞご自愛下さいませ。里山雪緒』
そして、その夜。
ゆき君が眠ったのを見計らってゆき君の部屋へ忍び込んだ紫様から、その手紙を見せられまして、二人で頭を抱えてしまいました。
「…ああ…お妙さんが居てくれたら…」
「言うな。こうなっては仕方が無い」
「…何か策がありますの?」
額に手をあてて項垂れる私に、むすりとしたままではありますが紫様は力強く頷いたのでした。
◇
「ふわああああああっ!?」
二十五日の早朝、ゆき君の叫び声に私は飛び起きて部屋を出ました。向かうのは、勿論ゆき君の部屋です。ゆき君の部屋の障子は開いていまして、中には既に紫様が居ました。居ましたが…。
「…あの…その風呂敷包みは…?」
布団の上で正座をして、口を開いたまま固まっているゆき君の代わりに、私が紫様に尋ねます。ゆき君の枕元にあります、ゆき君を包めてしまいそうな大きさの白い風呂敷包みを指差して。
…やりすぎですわ…。
との、呟きは何とか飲み込みましたけど。
「…ああ…。サンタクロースからの贈り物だろう。そら、開けてみろ雪緒」
「ふええ~?」
紫様の言葉に、ゆき君が困惑の表情を浮かべたまま、震える手で風呂敷包みを開けて行きます。結び目を一つ解く毎に、それがポロリポロリと零れて行きます。
…ええ…沢山のチョコレートが…。
クラクラとした眩暈を感じて私は額に手をあててしまいます。
確かに、ゆき君はチョコレートが好きですけれど、こんなに沢山…ゆき君の身体程もある分量のチョコレートを食べきれる筈も無いでしょう? 何をここぞとばかりに仕入れているのでしょうか…。
「ちょこれいと…こんなに沢山…」
「良かったな雪緒。サンタクロースにはお前の欲しい物なぞお見通しと云う事らしいな」
…紫様…無理矢理過ぎて、口元が引き攣って棒読みになっていますわよ…。
はああ~…頭が痛いですわ…。まあ、ゆき君が喜んでくれるのなら、それで良いのだけど…?
と、軽く息を吐きましたら、布団の上でゆき君が零れ落ちたチョコレートを拾い集めて、風呂敷へと詰めています。
「よいしょ」
一つ残らず風呂敷の中へと戻しまして、丁寧に結んだと思いましたら、ゆき君はそれを背中に担いで立ち上がったのです。
「…雪緒?」
「…ゆき君?」
私と紫様の疑問の声が重なりました。
そんな私達に、ゆき君は真面目な顔と声で言います。
「僕の様な者が、こんなに沢山のちょこれいとを戴ける筈もございません。これは、この寒さで体調を崩されたさんたくろうす様が、自分の代わりを僕に、と、置いて行った物なのです。ですから、これから僕はこのちょこれいとを皆様にお配りしなければな」
「何故そうなるっ!!」
「いたっ! 痛いです旦那様ーっ!!」
…ああ…。…来年は…何とかしてゆき君が勘違いしない物を…。
と、紫様に鼻を摘ままれるゆき君を見ながら思ったのでした。
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まーちゃん様。
ハマって戴きありがとうございます(*ノωノ)
私も、こちらでは新参者なので同じですね(笑)
『旦那様』は基本的にほのぼのなので安心(?)して読めるかと思います(笑)
ちょっとした時の息抜きにどうぞ~( ´艸`)
とても面白くて一気に読んでしまいました…
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もう一瞬でファンになりました笑
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退会済ユーザのコメントです
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ありがとうございますm(__)m