旦那様と僕

三冬月マヨ

文字の大きさ
86 / 86
向日葵の零れ話

旦那様はさんたくろうす

しおりを挟む
「…サンタクロース…ですか…」

 柚子ゆず様の言葉に、私は顎に人差し指をあてて首を傾げました。

「そうそう~。異国の物の怪で~毎年十二月の二十四日の深夜から二十五日に~、その一年間良い子にしてた子供達に贈り物をするんだって~」

 そう言われてみれば、その様なお伽話を聞いた覚えがありますわね。

雪緒ゆきお君に贈り物をする絶好の機会だと思うよ~?」

「ゆき君に…」

 私の小さな呟きに、柚子様は満足そうに頷いたのでした。

 ◇

「…サンタクロース…?」

 就寝前、ゆき君がお風呂に入り、そしてお掃除している間に、茶の間にてお茶を飲みながら、柚子様との会話を紫様にしましたら、やはりゆかり様も軽く首を傾げています。私と同じ様に、紫様も馴染みが無いのでしょうね。
 昨夜から咳が出て今朝になっても治まらないので、お薬を用意して貰いましょうと、柚子様の診療所へと電話を入れましたら、柚子様が『僕が持って行くよ~。雪緒君の顔も見たいし~』と、わざわざ足を運んで下さったのです。柚子様が来て直ぐに、ゆき君はお買い物に出て行ってしまったのですけどね。そこでサンタクロースのお話しになったのです。

「ええ、確かにサンタクロースからの贈り物と云う事にすれば、流石のゆき君も何かしら欲しがるのではないかしらと、柚子様も…」

 そうなのです。今年のお誕生日も、ゆき君に新しい草履を贈りました…。
 本当にゆき君には物欲が無くて困ってしまいます。

「…確かにな…。…確か…勝手に品を置いて行くのだったか…? 返品のしようも無いだろうしな…」

 片手で顎を覆う様にして紫様が頷きます。

「…では…」

鞠子まりこ、頼む!」

 ゆき君が何を欲しがるのか、紫様が聞き出して下さいませ。と、私が口を開くより先に、紫様が卓袱台に両手を置いて勢い良く頭を下げて来ました。

 ず、ずるいですわよ!?

「お掃除終わりました。ああ、新しいお茶をお煎れしましょうね」

「ええ、ありがとう。ゆき君も一緒に飲みましょう」

 余りの勢いに口をパクパクとさせていましたら、障子の開く音がして、ゆき君の声が聞こえて来たので、私は慌てて笑みを浮かべて後ろを振り返り、そう口にしたのでした。
 茶の間を横切り台所へと向かうゆき君の背中を見送りながら、ちらりと紫様を見ましたら、紫様は顔の前で両手を合わせて私を拝んでいました。

 ◇

 翌日、茶の間にてお茶を飲みながら、ゆき君にその話をしました。

「さんたくろうす、ですか?」

「ええ、そうよ。異国の良い物の怪で、毎年十二月二十五日にね、子供達に贈り物をするの」

「ふえぇ~。素晴らしい物の怪さんですね」

「枕元にね、靴下…足袋を置いて、欲しい物を書いた紙をその中に入れておくの。一週間前からが望ましいらしいわ」

「ふえぇ~。そんなに前から準備されるのですか、大変ですね」

「だから、ね? ゆき君もお願いしてみたらどうかしら? きっと、ゆき君が欲しい物を用意してくれるわ」

「ふえぇ~」

 と、ゆき君は終始目を丸くして驚いていたけれど…その姿はとても愛くるしかったのだけど…大丈夫よね? ちゃんと伝わったわよね? ゆき君の欲しい物を教えてと、直接聞いてもゆき君は口にしないだろうから、昨夜寝ながら考えたのだけれど…不安だわ…。

『さんたくろうす様。毎年寒い中ご苦労様です。僕に欲しい物はありませんので、その分で暖かいお召し物をご用意して下さい。あ、お飲み物の方が宜しいでしょうか。さんたくろうす様がお倒れになりましたら皆様が悲しみますので、どうぞご自愛下さいませ。里山雪緒』

 そして、その夜。
 ゆき君が眠ったのを見計らってゆき君の部屋へ忍び込んだ紫様から、その手紙を見せられまして、二人で頭を抱えてしまいました。

「…ああ…お妙さんが居てくれたら…」

「言うな。こうなっては仕方が無い」

「…何か策がありますの?」

 額に手をあてて項垂れる私に、むすりとしたままではありますが紫様は力強く頷いたのでした。

 ◇

「ふわああああああっ!?」

 二十五日の早朝、ゆき君の叫び声に私は飛び起きて部屋を出ました。向かうのは、勿論ゆき君の部屋です。ゆき君の部屋の障子は開いていまして、中には既に紫様が居ました。居ましたが…。

「…あの…その風呂敷包みは…?」

 布団の上で正座をして、口を開いたまま固まっているゆき君の代わりに、私が紫様に尋ねます。ゆき君の枕元にあります、ゆき君を包めてしまいそうな大きさの白い風呂敷包みを指差して。

 …やりすぎですわ…。

 との、呟きは何とか飲み込みましたけど。

「…ああ…。サンタクロースからの贈り物だろう。そら、開けてみろ雪緒」

「ふええ~?」

 紫様の言葉に、ゆき君が困惑の表情を浮かべたまま、震える手で風呂敷包みを開けて行きます。結び目を一つ解く毎に、それがポロリポロリと零れて行きます。
 …ええ…沢山のチョコレートが…。
 クラクラとした眩暈を感じて私は額に手をあててしまいます。
 確かに、ゆき君はチョコレートが好きですけれど、こんなに沢山…ゆき君の身体程もある分量のチョコレートを食べきれる筈も無いでしょう? 何をここぞとばかりに仕入れているのでしょうか…。

「ちょこれいと…こんなに沢山…」

「良かったな雪緒。サンタクロースにはお前の欲しい物なぞお見通しと云う事らしいな」

 …紫様…無理矢理過ぎて、口元が引き攣って棒読みになっていますわよ…。
 はああ~…頭が痛いですわ…。まあ、ゆき君が喜んでくれるのなら、それで良いのだけど…?
 と、軽く息を吐きましたら、布団の上でゆき君が零れ落ちたチョコレートを拾い集めて、風呂敷へと詰めています。

「よいしょ」

 一つ残らず風呂敷の中へと戻しまして、丁寧に結んだと思いましたら、ゆき君はそれを背中に担いで立ち上がったのです。

「…雪緒?」

「…ゆき君?」

 私と紫様の疑問の声が重なりました。
 そんな私達に、ゆき君は真面目な顔と声で言います。

「僕の様な者が、こんなに沢山のちょこれいとを戴ける筈もございません。これは、この寒さで体調を崩されたさんたくろうす様が、自分の代わりを僕に、と、置いて行った物なのです。ですから、これから僕はこのちょこれいとを皆様にお配りしなければな」

「何故そうなるっ!!」

「いたっ! 痛いです旦那様ーっ!!」

 …ああ…。…来年は…何とかしてゆき君が勘違いしない物を…。

 と、紫様に鼻を摘ままれるゆき君を見ながら思ったのでした。
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

まーちゃん
2021.10.03 まーちゃん

少し前にこのサイトに着手してから、、この作品にハマっています。なかなか使い慣れなくて、、そしたら、番外編とか観れる事にやっと気づきました。色々他の作品も読みたいと思っています❣️よろしくお願いします❣️

2021.10.03 三冬月マヨ

まーちゃん様。

ハマって戴きありがとうございます(*ノωノ)
私も、こちらでは新参者なので同じですね(笑)
『旦那様』は基本的にほのぼのなので安心(?)して読めるかと思います(笑)
ちょっとした時の息抜きにどうぞ~( ´艸`)

解除
そばよりうどん

とても面白くて一気に読んでしまいました…
雪緒君の天然っぷりに癒されました
無料で読んでいいものなのか?というくらい
引き込まれるようなお話でした。
もう一瞬でファンになりました笑
素敵な物語をありがとうございました。

2021.09.23 三冬月マヨ

そばよりうどん様。

こちらこそ、嬉しいお言葉をありがとうございます(*´ω`*)
癒しになれて良かったです♪

解除
2021.09.20 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2021.09.21 三冬月マヨ

Hitachi様

書籍化だなんて恐れ多いです(;'∀')
ありがとうございますm(__)m

解除

あなたにおすすめの小説

星降る夜に ~これは大人の純愛なのか。臆病者の足踏みか。~

大波小波
BL
 鳴滝 和正(なるたき かずまさ)は、イベント会社に勤めるサラリーマンだ。  彼はある日、打ち合わせ先の空き時間を過ごしたプラネタリウムで、寝入ってしまう。  和正を優しく起こしてくれたのは、そこのナレーターを務める青年・清水 祐也(しみず ゆうや)だった。  祐也を気に入った和正は、頻繁にプラネタリウムに通うようになる。  夕食も共にするほど、親しくなった二人。  しかし祐也は夜のバイトが忙しく、なかなかデートの時間が取れなかった。  それでも彼と過ごした後は、心が晴れる和正だ。  浮かれ気分のまま、彼はボーイズ・バーに立ち寄った。  そしてスタッフメニューの中に、祐也の姿を見つけてしまう。  彼の夜の顔は、風俗店で働く男娼だったのだ……。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

うるさい恋人

さるやま
BL
攻めがキモイです。あとうるさい 攻め→→→←受け

小森 陽芳(受け)
野茂のことが好きだけど、野茂を煩わしくも思ってる。ツンデレ小説家。言ってることとやってることがちぐはぐ。

野茂 遥斗(攻め)
陽芳のことを陽ちゃんと呼び、溺愛する。人気の若手俳優。陽ちゃんのことが大好きで、言動がキモイ。

橋本
野茂のマネージャー。自分の苦労を理解してくれる陽芳に少し惹かれる。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。