旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ

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夏の風物詩

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 ちりんちりんと、風に吹かれて涼やかな風鈴の音が耳に届く。
 外を歩く人々が、日傘を差し、団扇や扇子を手放せなくなって来た、この時期。
 俺は腕を組んで食卓を見ていた。
 湯気を立てている、白いご飯。豆腐と若芽の味噌汁。焼いた鯵の傍らにはすだちと大根おろし。里芋の煮っ転がし。そして、胡瓜と蕪の浅漬け。
 それらは、俺の目の前に置かれた物だ。

「旦那様? お食べにならないのですか?」

 俺の対面に座す雪緒ゆきおが軽く首を傾げて聞いて来た。

「…雪緒。お前、昨夜は何を食ったのか覚えているか?」

「昨夜、ですか? 昨夜は、茄子の煮浸しに、ひじき…」

 軽く溜め息を吐いてから雪緒に問えば、こいつは顎に指をあてて、俺が食った物の名を上げて来た。

「俺では、無い! お前だ、お前! 昨日は素麺だったな? 今日のそれは何だ?」

心太ところてんです。さっぱりしていて美味しいですよね」

 そう。雪緒の目の前には涼し気な硝子の器の中に、鼠色の心太があるだけだ。他には何も無い。昨夜だって、素麺だけだった。更に、その前は冷奴だけだった。
 雪緒は、夏の暑さに弱い。夏場はどうしても食欲が落ちてしまう様だ。しかし、本人にはその自覚が無い様だから、質が悪い。

「心太なんざ、おやつだろうがっ! ちゃんと飯を食え!!」

「あ、はい。ですから、旦那様の分はきちんと御用意していますが、何かが足りなかったでしょうか?」

「お前だ、お前!! 去年、素麺と冷奴を交互に食うのを止めろと言ったら、今年は心太追加とか、何、小技を追加してくれてるんだ、お前はっ!」

 きょとんと目を丸くして、再び首を傾げた雪緒の鼻を摘まんで俺は声を荒げた。

「いたっ、痛いです、旦那様ーっ!!」

「せめて、おかずを食えっ!!」

 その翌日。
 雪緒の前には、鰹節の乗った冷奴と、おろした生姜の乗った冷奴が用意されていて、俺が頭を抱えたのは言うまでもない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

☆その後。

雪緒 「旦那様、これは?」

旦那様「大根おろしに、しらすをまぶした物だ。炊きたてのご飯の匂いが気持ち悪いのなら、これで幾らか誤魔化せるだろう。ほら、ご飯に乗せて食べて見ろ」
 
雪緒 「旦那様…!」

『ピロリ~ン♪』

旦那様のパパみが上がった!
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