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沈黙の聖女
恥ずかしいお茶会
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果たして――。
自ら働く屋敷の客間で、奴隷がお茶会をもてなされるのは許されることなのでしょうか。
いえ、そもそも奴隷として扱われるような気配はなく、屋敷の管理維持という責任重大な仕事を押し付けられて、私 は少々、困惑しております。
これが異国による文化の違いだと言われても、私には騙されているとしか思えなくて――。
ましてや、このクリアステルは、邪教を広めた大罪の国なのだと祖国に教えられてきたのです。
魔法とは神の御業であり、それを悪用する者は総じて裁かれるべき対象なのだと。
だからでしょうか。
貴族制度のない国で生まれた私にとって、貴族とは魔法をいたずらに行使する存在だと決めつけていたのです。
しかし、目の前にいる貴族の青年は魔法の力を恐れていました。
魔法は嫌いだと嘯いて、その力を隠すように生活しているようです。
そして、それはきっと、困惑した私に自分の眼で判断しなさいと神が与えて下さった好機なのでしょう。
ですから、是非とも尋ねたいのです。
貴族とは何なのですか?
貴族にとっての魔法とは何ですか?
御主人様――フレデリック=カーマイン伯爵とは、どんな青年なのですか?
どうして私を買ったのでしょうか?
そんな疑問をぶつけたいと思っても、御主人様に筆談を避けられてしまいます。
今もまた――。
「紅茶が美味しいか、不味いか。それだけ分かれば十分さ」
彼は瞼を閉じながら、優雅に紅茶を飲み干すと、私の用意したメモ用紙を一瞥して告げました。
不味そうに飲んでいたら、もっと気にかけてくださったのでしょうか?
美味しい紅茶に顔が嘘を付けるはずもなく、きっと私はニコニコしていたのでしょうね。
表情を読んでくださるのは嬉しいのですけれど、それだけというのも寂しいと感じてしまいます。
もちろん、それが贅沢な悩みだとも理解しているのですが、仕事の時でさえまったく筆談がいらないのです。
彼の出す指示は的確で、一方的に説明が終われば再び尋ねる必要がなくなってしまうのですから。
「僕は君を詮索しない。待遇だって悪いようにはしない。だから――あの日のことは忘れて欲しいな」
そう、あの日――。
絶対にあり得ないと思っていたことが起きました。
私の魔力は聖女の中でも群を抜いています。
更に、魔力抵抗がウィンディズで一番でした。
そんな『鉄壁の聖女』と呼ばれた私に――彼は『屈服の魔法』という、命令に従う魔法をかけたのです。
魔法を行使する瞬間、彼の瞳は紅蓮に染まり、乱暴な口調に変わっていました。
それは目の前にいる彼とはまるで別人のようで――。
忘れて欲しいこととは、きっとそれなのでしょう。
しかし、どうせ忘れなくても誰かに漏洩させる手段がないことくらい、彼は知っているはずなのに――。
屈服の魔法とはそういうものなのですから、いちいち念を押さなくても大丈夫なはずなのです。
もしも念を押すことに意味があるのでしたら、それではまるで――。
「ほら、君はそうやって考えてしまうだろう。僕のことを探るのは止めてくれないか?」
言われて気付き、私はすぐに頭を下げました。
「せっかくの紅茶が不味くなる……」
ええ、そうですね。
食事は楽しく、感謝して頂くもの。
シスターだった私がそれを忘れるなんて――。
紅茶を一口飲んで、ため息を一つ。
品のある味わいとはこういうものなのでしょうね。
上質な茶葉と、薔薇庭園で採れたローズヒップ。
それらを丁寧に蒸らした一杯は、私の舌に幸せを届けてくださいます。
ここに至るまでの労力が凝縮された味。
それは、淹れる御主人様に一つの落ち度でもあれば台無しになるほど繊細で――。
御主人様がどれほど真摯であるかが分かるというものです。
そして、余韻に浸っていた私を見て、御主人様は小さく笑って告げました。
「至福の時間には、ただ酔いしれるべきである」
偉人が遺した格言でしょうか?
私が首を傾げていると、御主人様は自慢気に語るのです。
「僕の怠惰な人生論だよ」
まあ、御主人様ったら……。
私は思わず笑ってしまいました。
息の音しか出せませんでしたが、この喜びが伝わったようで、彼の表情が一段と和らいだのが見て取れます。
ああ、こんなに楽しい日々が続いたら幸せでしょうね。
――あっ。
たった今、そんな後ろ向きな楽しみ方を注意されたのに私ったら――。
「ま、理想論とも言うけどね」
御主人様は自分のお代わりを注ぎながら告げました。
失敗したと思っている私を慰めてくれているのです。
ああ、私の表情が彼に筒抜けなことが恥ずかしい。
きっと私の顔は、この紅茶のように赤く染まっているはずです。
てっきり『二度も怒らせる気か?』と、叱咤が飛んでくるものと思っていましたのに。
「言っただろう。不味くしたくないんだって。それに……、君のような美人に怒るなんて無粋なマネはしたくない」
ほら、やっぱり……。
私の顔って、そんなに分かりやすいですか?
「『怒らないの?』って、子供みたいな顔をしていたからね……」
私がそんな顔を!?
それに、美人だなんて――。
とっさに両手で顔を覆い、首を振りながら恥ずかしがる私は自覚します。
ええ、これは確かに子供っぽいですね……。
今度は重りが落ちてきたかのように落胆する私を見て、御主人様は大爆笑です。
これではもう、どっちが子供か分かりません。
「ははっ、やっぱりその紙束はいらないよね」
御主人様は私の持つメモ用紙を指して告げました。
酷いです……。
表情以外にも口に出したい言葉は沢山あるのですよ……。
無邪気な御主人様も可愛らしいですね。
そう言えたら、私のように恥ずかしがってくださるのでしょうか?
「ほら、用意したのは紅茶だけじゃないんだからさ。こっちも食べてみて欲しいかな……」
顔を覗かせようとしていた私を察したのか、気まずい顔をして御主人様は視線を逸らしました。
これ以上ふざけると怒られそうなので、私も料理を食べることに集中します。
三段のトレイが積み重なったティースタンドには、アフタヌーンティーに欠かせない料理が添えられていました。
マヨネーズとキュウリのサンドイッチ。
蜂蜜たっぷりのスコーン。
それから、カップケーキですね。
ええと、初日にマナーは教わりました。
サンドイッチ、スコーン、ケーキの順番で頂くのですよね。
なので、まずは質素な具のサンドイッチから頂きます。
サンドイッチの具がキュウリなのは、農民に感謝している証なのだとか。
貴族が肉や魚をあえて抜くという習慣に、初めて見た私は驚かされたものです。
それでもマヨネーズがあるだけで美味しく頂けちゃいますけれど――。
次に、スコーンを頂きました。
サクサクでフワフワの食感が楽しめる、菓子を起源とするパンで、祖国にはなかった食べ物です。
私も挑戦してみたいと思っているのですが、彼の料理している姿が見られないので何を使っているのかよく分からないのですよね。
イースト菌で作るパンとは違った食感なので、きっと何か別の物を入れているとは思うのですが――。
とにかく、ジャム、蜂蜜が相性抜群なのは間違いありません。
きっといつか自分でも作ってみせます。
そして、最後にカップケーキです。
ふんわりした小さいスポンジの中には、ベリーのドライフルーツが入っておりました。
しかも、これはキルシュでしょうか。
甘さ控えめのスポンジの中に果実酒という大人の味がたまりません。
それから、紅茶の方も牛乳を注げば、ミルクティーとして味を変えて楽しめます。
ああ、こんなに贅沢してよろしいのでしょうか?
食事に集中することが終わると、またしてもわいてくるのは質問ばかり。
しかし、お茶会の終わりは突然に訪れます。
「おっと、そういえば届いた手紙を確認していなかったな。僕は二階にあがるけど、洗い物だけお願いしてもいいかな?」
返事をするわけでもなく、ただニコっとだけ笑顔を向ける。
そんな顔を肯定と受け取り、踵を返す御主人様の袖を掴むことはできませんでした。
だって、用事があるのでは仕方ありませんよね。
たとえ、それが筆談から逃げる口実だったとしても。
なのに、諦めきれないのはどうしてでしょう。
言いたいことが山ほどあるのです。
虚しく残された客間に、音のない声が心に大きく反響して、私だけがそれを聞いている。
それがとても寂しいのです。
私との筆談を避けられておられますが、ご迷惑ですか?
料理がお好きなのですか?
どうして、こんなに早く料理が作れるのでしょうか?
書斎から声をかけられて、そんなに経っていなかったというのに、スコーンとカップケーキは焼きたてでした。
そもそも台所が綺麗すぎて、いつもどこで料理をしているのでしょうか?
きっと私が入れない御主人様の部屋か、書斎ですよね。
私がもっと信用してもらえるようになって、部屋に入れてもらえるようになったら、スコーンの作り方を教えてくださいますか?
それから――。
もしも御主人様が望むのであれば、夜伽も致します。
そして、御主人様の声をもっと耳許で聞いて――。
身を寄せあって――。
私の身体が買って頂いた御主人様の物であると、心の底から覚え込ませて頂きたいのです。
ああ、私は一体何を考えているのでしょう。
御主人様の熱い滾りを受け入れたいだなんて――。
そんな資格は私には無いと分かっておりますのに――。
滾りの捌け口にさえ使われないこの身体は、きっと御主人様にとって理想にほど遠いのでしょう。
それでも――。
信じていれば、いつか捌け口になる程には叶うのでしょうか?
ええ、きっと私はそれでも喜ぶのでしょうね。
愛の無い種蒔きだったとしても、私は聖域を解放し続けて、御主人様の畑となるでしょう。
何度でも、何度でも強引に種を蒔かれたとしても……。
聖域への侵入を何度でも許すのです。
――ああ、何て卑しい女なのでしょう。
想像しただけで心の蜜が溶けそうになるほど、私の身体は火照ってしまいました。
だから――。
『買って頂けたことに心から感謝しております』
そんな、メモ用紙の最後に書いた言葉は見せられません。
誠実な言葉なんて、私に声が出せても言えないのですから。
だから寂しい反面、筆談できなくて良かったのかもしれないと思ってしまうのです。
『どうか、愛が無くてもかまいません。私を抱いてください』
そんな、はしたない言葉しか出せそうにない私を嫌いにならずに側に置いてください。
――ああ、今日もまた筆談はダメでした。
自ら働く屋敷の客間で、奴隷がお茶会をもてなされるのは許されることなのでしょうか。
いえ、そもそも奴隷として扱われるような気配はなく、屋敷の管理維持という責任重大な仕事を押し付けられて、私 は少々、困惑しております。
これが異国による文化の違いだと言われても、私には騙されているとしか思えなくて――。
ましてや、このクリアステルは、邪教を広めた大罪の国なのだと祖国に教えられてきたのです。
魔法とは神の御業であり、それを悪用する者は総じて裁かれるべき対象なのだと。
だからでしょうか。
貴族制度のない国で生まれた私にとって、貴族とは魔法をいたずらに行使する存在だと決めつけていたのです。
しかし、目の前にいる貴族の青年は魔法の力を恐れていました。
魔法は嫌いだと嘯いて、その力を隠すように生活しているようです。
そして、それはきっと、困惑した私に自分の眼で判断しなさいと神が与えて下さった好機なのでしょう。
ですから、是非とも尋ねたいのです。
貴族とは何なのですか?
貴族にとっての魔法とは何ですか?
御主人様――フレデリック=カーマイン伯爵とは、どんな青年なのですか?
どうして私を買ったのでしょうか?
そんな疑問をぶつけたいと思っても、御主人様に筆談を避けられてしまいます。
今もまた――。
「紅茶が美味しいか、不味いか。それだけ分かれば十分さ」
彼は瞼を閉じながら、優雅に紅茶を飲み干すと、私の用意したメモ用紙を一瞥して告げました。
不味そうに飲んでいたら、もっと気にかけてくださったのでしょうか?
美味しい紅茶に顔が嘘を付けるはずもなく、きっと私はニコニコしていたのでしょうね。
表情を読んでくださるのは嬉しいのですけれど、それだけというのも寂しいと感じてしまいます。
もちろん、それが贅沢な悩みだとも理解しているのですが、仕事の時でさえまったく筆談がいらないのです。
彼の出す指示は的確で、一方的に説明が終われば再び尋ねる必要がなくなってしまうのですから。
「僕は君を詮索しない。待遇だって悪いようにはしない。だから――あの日のことは忘れて欲しいな」
そう、あの日――。
絶対にあり得ないと思っていたことが起きました。
私の魔力は聖女の中でも群を抜いています。
更に、魔力抵抗がウィンディズで一番でした。
そんな『鉄壁の聖女』と呼ばれた私に――彼は『屈服の魔法』という、命令に従う魔法をかけたのです。
魔法を行使する瞬間、彼の瞳は紅蓮に染まり、乱暴な口調に変わっていました。
それは目の前にいる彼とはまるで別人のようで――。
忘れて欲しいこととは、きっとそれなのでしょう。
しかし、どうせ忘れなくても誰かに漏洩させる手段がないことくらい、彼は知っているはずなのに――。
屈服の魔法とはそういうものなのですから、いちいち念を押さなくても大丈夫なはずなのです。
もしも念を押すことに意味があるのでしたら、それではまるで――。
「ほら、君はそうやって考えてしまうだろう。僕のことを探るのは止めてくれないか?」
言われて気付き、私はすぐに頭を下げました。
「せっかくの紅茶が不味くなる……」
ええ、そうですね。
食事は楽しく、感謝して頂くもの。
シスターだった私がそれを忘れるなんて――。
紅茶を一口飲んで、ため息を一つ。
品のある味わいとはこういうものなのでしょうね。
上質な茶葉と、薔薇庭園で採れたローズヒップ。
それらを丁寧に蒸らした一杯は、私の舌に幸せを届けてくださいます。
ここに至るまでの労力が凝縮された味。
それは、淹れる御主人様に一つの落ち度でもあれば台無しになるほど繊細で――。
御主人様がどれほど真摯であるかが分かるというものです。
そして、余韻に浸っていた私を見て、御主人様は小さく笑って告げました。
「至福の時間には、ただ酔いしれるべきである」
偉人が遺した格言でしょうか?
私が首を傾げていると、御主人様は自慢気に語るのです。
「僕の怠惰な人生論だよ」
まあ、御主人様ったら……。
私は思わず笑ってしまいました。
息の音しか出せませんでしたが、この喜びが伝わったようで、彼の表情が一段と和らいだのが見て取れます。
ああ、こんなに楽しい日々が続いたら幸せでしょうね。
――あっ。
たった今、そんな後ろ向きな楽しみ方を注意されたのに私ったら――。
「ま、理想論とも言うけどね」
御主人様は自分のお代わりを注ぎながら告げました。
失敗したと思っている私を慰めてくれているのです。
ああ、私の表情が彼に筒抜けなことが恥ずかしい。
きっと私の顔は、この紅茶のように赤く染まっているはずです。
てっきり『二度も怒らせる気か?』と、叱咤が飛んでくるものと思っていましたのに。
「言っただろう。不味くしたくないんだって。それに……、君のような美人に怒るなんて無粋なマネはしたくない」
ほら、やっぱり……。
私の顔って、そんなに分かりやすいですか?
「『怒らないの?』って、子供みたいな顔をしていたからね……」
私がそんな顔を!?
それに、美人だなんて――。
とっさに両手で顔を覆い、首を振りながら恥ずかしがる私は自覚します。
ええ、これは確かに子供っぽいですね……。
今度は重りが落ちてきたかのように落胆する私を見て、御主人様は大爆笑です。
これではもう、どっちが子供か分かりません。
「ははっ、やっぱりその紙束はいらないよね」
御主人様は私の持つメモ用紙を指して告げました。
酷いです……。
表情以外にも口に出したい言葉は沢山あるのですよ……。
無邪気な御主人様も可愛らしいですね。
そう言えたら、私のように恥ずかしがってくださるのでしょうか?
「ほら、用意したのは紅茶だけじゃないんだからさ。こっちも食べてみて欲しいかな……」
顔を覗かせようとしていた私を察したのか、気まずい顔をして御主人様は視線を逸らしました。
これ以上ふざけると怒られそうなので、私も料理を食べることに集中します。
三段のトレイが積み重なったティースタンドには、アフタヌーンティーに欠かせない料理が添えられていました。
マヨネーズとキュウリのサンドイッチ。
蜂蜜たっぷりのスコーン。
それから、カップケーキですね。
ええと、初日にマナーは教わりました。
サンドイッチ、スコーン、ケーキの順番で頂くのですよね。
なので、まずは質素な具のサンドイッチから頂きます。
サンドイッチの具がキュウリなのは、農民に感謝している証なのだとか。
貴族が肉や魚をあえて抜くという習慣に、初めて見た私は驚かされたものです。
それでもマヨネーズがあるだけで美味しく頂けちゃいますけれど――。
次に、スコーンを頂きました。
サクサクでフワフワの食感が楽しめる、菓子を起源とするパンで、祖国にはなかった食べ物です。
私も挑戦してみたいと思っているのですが、彼の料理している姿が見られないので何を使っているのかよく分からないのですよね。
イースト菌で作るパンとは違った食感なので、きっと何か別の物を入れているとは思うのですが――。
とにかく、ジャム、蜂蜜が相性抜群なのは間違いありません。
きっといつか自分でも作ってみせます。
そして、最後にカップケーキです。
ふんわりした小さいスポンジの中には、ベリーのドライフルーツが入っておりました。
しかも、これはキルシュでしょうか。
甘さ控えめのスポンジの中に果実酒という大人の味がたまりません。
それから、紅茶の方も牛乳を注げば、ミルクティーとして味を変えて楽しめます。
ああ、こんなに贅沢してよろしいのでしょうか?
食事に集中することが終わると、またしてもわいてくるのは質問ばかり。
しかし、お茶会の終わりは突然に訪れます。
「おっと、そういえば届いた手紙を確認していなかったな。僕は二階にあがるけど、洗い物だけお願いしてもいいかな?」
返事をするわけでもなく、ただニコっとだけ笑顔を向ける。
そんな顔を肯定と受け取り、踵を返す御主人様の袖を掴むことはできませんでした。
だって、用事があるのでは仕方ありませんよね。
たとえ、それが筆談から逃げる口実だったとしても。
なのに、諦めきれないのはどうしてでしょう。
言いたいことが山ほどあるのです。
虚しく残された客間に、音のない声が心に大きく反響して、私だけがそれを聞いている。
それがとても寂しいのです。
私との筆談を避けられておられますが、ご迷惑ですか?
料理がお好きなのですか?
どうして、こんなに早く料理が作れるのでしょうか?
書斎から声をかけられて、そんなに経っていなかったというのに、スコーンとカップケーキは焼きたてでした。
そもそも台所が綺麗すぎて、いつもどこで料理をしているのでしょうか?
きっと私が入れない御主人様の部屋か、書斎ですよね。
私がもっと信用してもらえるようになって、部屋に入れてもらえるようになったら、スコーンの作り方を教えてくださいますか?
それから――。
もしも御主人様が望むのであれば、夜伽も致します。
そして、御主人様の声をもっと耳許で聞いて――。
身を寄せあって――。
私の身体が買って頂いた御主人様の物であると、心の底から覚え込ませて頂きたいのです。
ああ、私は一体何を考えているのでしょう。
御主人様の熱い滾りを受け入れたいだなんて――。
そんな資格は私には無いと分かっておりますのに――。
滾りの捌け口にさえ使われないこの身体は、きっと御主人様にとって理想にほど遠いのでしょう。
それでも――。
信じていれば、いつか捌け口になる程には叶うのでしょうか?
ええ、きっと私はそれでも喜ぶのでしょうね。
愛の無い種蒔きだったとしても、私は聖域を解放し続けて、御主人様の畑となるでしょう。
何度でも、何度でも強引に種を蒔かれたとしても……。
聖域への侵入を何度でも許すのです。
――ああ、何て卑しい女なのでしょう。
想像しただけで心の蜜が溶けそうになるほど、私の身体は火照ってしまいました。
だから――。
『買って頂けたことに心から感謝しております』
そんな、メモ用紙の最後に書いた言葉は見せられません。
誠実な言葉なんて、私に声が出せても言えないのですから。
だから寂しい反面、筆談できなくて良かったのかもしれないと思ってしまうのです。
『どうか、愛が無くてもかまいません。私を抱いてください』
そんな、はしたない言葉しか出せそうにない私を嫌いにならずに側に置いてください。
――ああ、今日もまた筆談はダメでした。
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