スレイヴイーター

鬼畜姫

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沈黙の聖女

奴隷の仕事

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 客間の片付けを済ませたわたくしは、仕事を探しに屋敷の中を歩きます。

 立ち入り禁止にされた二部屋以外、掃除は全て終わってしまいました。
 庭の手入れも先ほど終わってしまいました。

 この二つに関しては、場所を決めて数日に分けるか、一週間に一回程度の大がかりな手入れをしておけば構わないと言われております。
 しかし、普段から使わない部屋がほとんどですし、薔薇庭園も御主人様が普段からお世話をしているので、細かい雑草を抜くぐらいしか作業がありません。

 他のメイドらしい仕事はさせてもらえず、やれることと言えば部屋にこもって内職をすることくらいしか思い付きません。
 今日のノルマは達成してしまいましたし、作業をするのであれば、余分に作るしかないのですけれど――。

 やはりそうなってしまうのですねと、ため息をつきながら、私は豪華過ぎる自分の部屋へと戻りました。

 内職とは、奴隷の私に課せられた仕事の一つです。
 それにはまず、クリアステルの奴隷制度が特殊であることを知らなければなりません。

 まず、特殊な例を挙げるとすれば、ホワイトとブラックの二種類に奴隷が分けられるということでしょうか。
 ホワイトとは、破産した人や罪のない他国の捕虜のことを指します。
 ブラックとは反対に罪を犯した人を指します。

 ホワイトは誰にでも買える安心した奴隷なので高額で取引されます。
 主に魔法が使えない中流階級に買われることが多いようです。

 ブラックは罪人なのでお金は必要ありません。
 しかし、忠誠を誓わせる屈服の魔法が必要なので、貴族にしか買えないわけです。
 そうして、クリアステルでは罪人を働かせることで、無駄なく人材を増やしているのです。

 しかし、屈服の魔法さえ成功してしまえば無料で買えるブラックですが、ノブリス・オブリージュのような無償の精神からくるものではありません。
 しっかり奴隷商人側と貴族側の利益が存在しているから成り立っているのです。

 商人は貴族ではありませんからね。
 メリットを提示しなければいけませんでした。

 商人はブラックを売れば、国から褒賞金が得られます。
 安いホワイトは買い叩かれることもありますが、ブラックはランク別に固定の額なので、利益が安定しています。

 一方、貴族も国から褒賞金が出ますが、毎月ごとに支払われるので安価です。
 しかし、ブラックが働くことによって得られた利益の八割も貴族の収入と決まっています。

 そして、それが重要なのです。

 当たり前ですが、ブラックにメイドのような奉仕をさせても買い主には一切の収入はありません。
 なので、貴族はブラックに仕事を与えます。

 例えば、腕に覚えがあり、人を殺してきたような罪人は、傭兵として稼ぐことに向いているでしょう。
 詐欺などで捕まった罪人であれば、スパイなどの裏の仕事に向いているでしょう。

 私の場合は、それがポーションを作るという内職なのです。

 なにやら御主人様の親友が根回ししてくださった仕事らしいのですが――。

『こんなに簡単でよろしいのでしょうか?』と言いたいくらいにお手軽なのです。

 手順その一。
 部屋に置かれた大きな水瓶。
 その中の水をレードルですくって、フラスコに注ぎます。

 手順その二。
 フラスコの中に一定量の魔力を垂らします。

 水が魔力と反応して、色が変わったら完成です。

 と、これだけなのです。

 魔力を体から切り離すというウィンディズでは馴染みのない鍛練が必要でしたが、今では指先から少量だけなら解放できるようになりました。

 と言っても、魔力に念を込めるだけで魔法が発動できる念動法までは習得できないようですね。
 どうやら魔法の発動方法は、一度習得してしまうと二度と変更がきかないようなのです。

 ウィンディズでは声に出した言葉の詠唱法――つまり、言霊に魔力を乗せて魔法を発動させますから、念動法のクリアステルの魔法とは種別が異なります。

 なので最初、私は発動できない魔力を保存したポーションに意味はないと思ったのですが――。

 どういう理屈なのか、その水は魔力を保存するだけにとどまらず、魔法の発動が可能という性質まで持ち合わせているのです。

 ちなみに、私の魔力は聖なる力を秘めております。
 水はそれに反応し、白く輝いておりました。
 本家の魔法と比べるまでもなく、効果は少量。
 ですが、軽い傷や病気を癒す程度の効果でも重宝されているようです。

 ポーション一つで五百カラーズはするのですから。

(大衆食堂の料理は平均五カラーズ)

 それでも初日の出荷分は飛ぶように売れたそうです。

 簡単で楽な仕事ですが、これも御主人様の為です。

 私は自然体で、手に持ったフラスコに魔力こ込めました。
 次々とポーションの数は増え、テーブルの上はフラスコで埋め尽くされてしまいます。

 作り過ぎたと思う反面、喜んでもらえるかもしれないという期待。
 子供のように頭を撫でてもらいたいなんて考えて、少し身体が火照ったその時です。

 これは……?

 手に力が入らなくなり、ゆっくりと床に吸い込まれるようにフラスコは落ちて割れました。

 ゆっくりと――。

 そう、ゆっくりと視界が回って――。

 ポーションで濡れた床――。

 そこに散らばるフラスコの破片に私も吸い込まれるように――。

 ドアが乱暴に開けられる音がして――。

「マリアっ!」

 叫び声が部屋に響いて――。

 ――ごめんなさい。

 叱られた気がして、とっさに謝罪をしたのだけは覚えています。

 そうして、私は意識の途切れた闇へと落ちてしまったのです。
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