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沈黙の聖女
スレイヴイーターを狙う者
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昨日、私はキナーシャと呼ばれる小さな田舎町に辿り着き、そこの宿に一泊した。
早朝、二階のテラスから外を眺めれば、見渡す限りの田園風景が続いていて、私は大きく息を吸い込む。
茶畑が多く、紅茶の生産で有名な町らしい。
大自然の香りというものはエルフという種族にとって生きる原動力なので、都会の日常にはうんざりしていたからな。
こんな町の領主になりたかったと、つくづく思っていた記憶が鮮やかに甦ってくる。
そう、エルフの故郷である大森林などと贅沢は言わないから、このくらいの自然がある町が領土であれば、私は自分の領土を広げたいという野心など持たなかったのだ。
自給自足で、娯楽施設など不要。
あるのは必要最低限な商業施設。
そして、わずかな観光名所と特産品。
そんな町でスローライフを送りたかったのだが――。
この町にはキナーシャティと呼ばれるローズヒップの紅茶や、それを支える薔薇園がある。
それから、領主の屋敷にも品種改良を重ねた小さな薔薇庭園があるらしいじゃないか。
まさにここは私の理想とする町だった。
「こんな領土を与えられて――たった一人の奴隷を買っただけで、スレイヴイーターになった伯爵がいるとか……見過ごせるはずがないよな?」
遠くに見える丘の上の屋敷に向けて、私は独りごちた。
貴族として認められれば、親の爵位の下を名乗れるが、彼は私よりも更に下の爵位だ。
同じ四大名家にも関わらず、赤のカーマイン侯爵家だけは八年前の不祥事とやらで爵位を落とされている。
だから、彼は私よりも低い爵位の伯爵を名乗っているのだが――。
私は羨ましかった。
侯爵は城下町寄りの領土を与えられるが、伯爵は辺境伯などと呼ばれるように、国境近くがメインなのだ。
まあ、最近までは名前も思い出せなかったので、あの奴隷を買った日からの短い嫉妬ではあるが――。
しかしそんな好条件に加えて、次の親任式が来れば彼は公爵となる。
親の爵位を通り越し、四大名家と同じ爵位でありながら、クリアステルの国王――つまり色王の次に権力を持つ存在となってしまう。
これが本当に納得ができるか?
それもこれもスレイヴイーターなどという奴隷商人の上客を作るシステムの称号があるせいだ。
納得はしていなかったが、私だって立場を強くする為にSランクのブラックを三人も買った。
日頃のストレス発散という名目で奴隷市場に通ったりもするが、それでも本気で頂点たるスレイヴイーターを目指したのだ。
しかし、今の私は第九位だ。
Sランク三人と、Aランク五人で九位なのだ。
それが、たまたま規格外のSランクの一人を買ったくらいで第一位とかふざけていると思わないか?
今までスレイヴイーターを名乗っていた黄の名家、クレッグ=ゴールド公爵ならば私以上に憤慨しているはずだ。
彼の黄金卿が、水面下であの日の奴隷を横取りする計画を立てたなんて噂もある。
「ふん、それはそれで爽快なんだろうけどな。私は自分で蹴りを入れなければ気が済まないぞ」
全身に風の魔力をたぎらせて、私は決意する。
「緑の名家ヴィリジアン公爵が長女、ローリエ=ヴィリジアンが貴様の秘密を暴いてやる。覚悟しろ、フレデリック=カーマイン伯爵」
早朝、二階のテラスから外を眺めれば、見渡す限りの田園風景が続いていて、私は大きく息を吸い込む。
茶畑が多く、紅茶の生産で有名な町らしい。
大自然の香りというものはエルフという種族にとって生きる原動力なので、都会の日常にはうんざりしていたからな。
こんな町の領主になりたかったと、つくづく思っていた記憶が鮮やかに甦ってくる。
そう、エルフの故郷である大森林などと贅沢は言わないから、このくらいの自然がある町が領土であれば、私は自分の領土を広げたいという野心など持たなかったのだ。
自給自足で、娯楽施設など不要。
あるのは必要最低限な商業施設。
そして、わずかな観光名所と特産品。
そんな町でスローライフを送りたかったのだが――。
この町にはキナーシャティと呼ばれるローズヒップの紅茶や、それを支える薔薇園がある。
それから、領主の屋敷にも品種改良を重ねた小さな薔薇庭園があるらしいじゃないか。
まさにここは私の理想とする町だった。
「こんな領土を与えられて――たった一人の奴隷を買っただけで、スレイヴイーターになった伯爵がいるとか……見過ごせるはずがないよな?」
遠くに見える丘の上の屋敷に向けて、私は独りごちた。
貴族として認められれば、親の爵位の下を名乗れるが、彼は私よりも更に下の爵位だ。
同じ四大名家にも関わらず、赤のカーマイン侯爵家だけは八年前の不祥事とやらで爵位を落とされている。
だから、彼は私よりも低い爵位の伯爵を名乗っているのだが――。
私は羨ましかった。
侯爵は城下町寄りの領土を与えられるが、伯爵は辺境伯などと呼ばれるように、国境近くがメインなのだ。
まあ、最近までは名前も思い出せなかったので、あの奴隷を買った日からの短い嫉妬ではあるが――。
しかしそんな好条件に加えて、次の親任式が来れば彼は公爵となる。
親の爵位を通り越し、四大名家と同じ爵位でありながら、クリアステルの国王――つまり色王の次に権力を持つ存在となってしまう。
これが本当に納得ができるか?
それもこれもスレイヴイーターなどという奴隷商人の上客を作るシステムの称号があるせいだ。
納得はしていなかったが、私だって立場を強くする為にSランクのブラックを三人も買った。
日頃のストレス発散という名目で奴隷市場に通ったりもするが、それでも本気で頂点たるスレイヴイーターを目指したのだ。
しかし、今の私は第九位だ。
Sランク三人と、Aランク五人で九位なのだ。
それが、たまたま規格外のSランクの一人を買ったくらいで第一位とかふざけていると思わないか?
今までスレイヴイーターを名乗っていた黄の名家、クレッグ=ゴールド公爵ならば私以上に憤慨しているはずだ。
彼の黄金卿が、水面下であの日の奴隷を横取りする計画を立てたなんて噂もある。
「ふん、それはそれで爽快なんだろうけどな。私は自分で蹴りを入れなければ気が済まないぞ」
全身に風の魔力をたぎらせて、私は決意する。
「緑の名家ヴィリジアン公爵が長女、ローリエ=ヴィリジアンが貴様の秘密を暴いてやる。覚悟しろ、フレデリック=カーマイン伯爵」
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