スレイヴイーター

鬼畜姫

文字の大きさ
12 / 24
沈黙の聖女

スレイヴイーターを狙う者

しおりを挟む
 昨日、私はキナーシャと呼ばれる小さな田舎町に辿り着き、そこの宿に一泊した。
 早朝、二階のテラスから外を眺めれば、見渡す限りの田園風景が続いていて、私は大きく息を吸い込む。
 茶畑が多く、紅茶の生産で有名な町らしい。
 大自然の香りというものはエルフという種族にとって生きる原動力なので、都会の日常にはうんざりしていたからな。
 こんな町の領主になりたかったと、つくづく思っていた記憶が鮮やかに甦ってくる。
 そう、エルフの故郷である大森林などと贅沢は言わないから、このくらいの自然がある町が領土であれば、私は自分の領土を広げたいという野心など持たなかったのだ。

 自給自足で、娯楽施設など不要。
 あるのは必要最低限な商業施設。
 そして、わずかな観光名所と特産品。

 そんな町でスローライフを送りたかったのだが――。

 この町にはキナーシャティと呼ばれるローズヒップの紅茶や、それを支える薔薇園がある。
 それから、領主の屋敷にも品種改良を重ねた小さな薔薇庭園があるらしいじゃないか。

 まさにここは私の理想とする町だった。

「こんな領土を与えられて――たった一人の奴隷を買っただけで、スレイヴイーターになった伯爵がいるとか……見過ごせるはずがないよな?」

 遠くに見える丘の上の屋敷に向けて、私は独りごちた。

 貴族として認められれば、親の爵位の下を名乗れるが、彼は私よりも更に下の爵位だ。
 同じ四大名家にも関わらず、赤のカーマイン侯爵家だけは八年前の不祥事とやらで爵位を落とされている。

 だから、彼は私よりも低い爵位の伯爵を名乗っているのだが――。

 私は羨ましかった。

 侯爵は城下町寄りの領土を与えられるが、伯爵は辺境伯などと呼ばれるように、国境近くがメインなのだ。
 まあ、最近までは名前も思い出せなかったので、あの奴隷を買った日からの短い嫉妬ではあるが――。

 しかしそんな好条件に加えて、次の親任式が来れば彼は公爵となる。
 親の爵位を通り越し、四大名家と同じ爵位でありながら、クリアステルの国王――つまり色王の次に権力を持つ存在となってしまう。

 これが本当に納得ができるか?

 それもこれもスレイヴイーターなどという奴隷商人の上客を作るシステムの称号があるせいだ。
 納得はしていなかったが、私だって立場を強くする為にSランクのブラックを三人も買った。
 日頃のストレス発散という名目で奴隷市場に通ったりもするが、それでも本気で頂点たるスレイヴイーターを目指したのだ。

 しかし、今の私は第九位だ。

 Sランク三人と、Aランク五人で九位なのだ。

 それが、たまたま規格外のSランクの一人を買ったくらいで第一位とかふざけていると思わないか?

 今までスレイヴイーターを名乗っていた黄の名家、クレッグ=ゴールド公爵ならば私以上に憤慨しているはずだ。
 彼の黄金卿が、水面下であの日の奴隷を横取りする計画を立てたなんて噂もある。

「ふん、それはそれで爽快なんだろうけどな。私は自分で蹴りを入れなければ気が済まないぞ」

 全身に風の魔力をたぎらせて、私は決意する。

「緑の名家ヴィリジアン公爵が長女、ローリエ=ヴィリジアンが貴様の秘密を暴いてやる。覚悟しろ、フレデリック=カーマイン伯爵」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

真実の愛のおつりたち

毒島醜女
ファンタジー
ある公国。 不幸な身の上の平民女に恋をした公子は彼女を虐げた公爵令嬢を婚約破棄する。 その騒動は大きな波を起こし、大勢の人間を巻き込んでいった。 真実の愛に踊らされるのは当人だけではない。 そんな群像劇。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

処理中です...