スレイヴイーター

鬼畜姫

文字の大きさ
13 / 24
沈黙の聖女

親友

しおりを挟む
 ほら、やっぱりな。

 俺は宿の二階廊下から苦手な女の決意表明を聞いて、顔を盛大にしかめた。
 こんなことだろうと思って、真意を確かめようとしたらこれだ。

 あいつなら、俺が手紙なんて出さないで直接訪ねる無礼者だと分かっているし、この女の先手を取って欲しいという意思表明だと気が付いたはずだ。

 だけど、これはそれ以前の問題だわな。
 親友に仇なす存在をわざわざ近付ける理由がない。

「まっ、田舎の観光でもしてもらって、帰ってもらいますか」

 俺が小さく呟いた時だった。

 部屋の扉が開いて、俺を睨み付ける存在が一つ。
 もちろん、ローリエ=ヴィリジアン女侯爵た。
 エルフという種族は金髪で耳がとがっていて、美人しかいない。

 しかし、性格も目付きもきっついから、俺は好きになれそうもない女だ。

「お、おぅ、昨日はぐっすり眠れたか?」

「盗み聞きとは感心しないな」

 こいつ――。

 窓際にいたはずなのに、一瞬で扉の前まで移動しやがったな。

「親友に悪さしようとしてる奴も感心しねぇな」

「ふん、そっちは秘密を知りたくないのか? オルソン=インディゴ侯爵。青の名家たる貴様だってスレイヴイーターを目指す一人だろうに」

「俺はあいつが白状するのを待つ」

「それは最近、功績を収めた余裕の自慢か?」

「はっ、そういう訳じゃねーさ。俺は功績を焦ってたとしても、親友の弱みに付け込むクズにはならないね」

「それは強者の言い訳だ。敗者にならなければ見えないこともある」

 ローリエは俺を睨みながら言った。
 
 そう言えば、大森林を獣人の国ビースティリアに奪われて移民したエルフは、貴族制度に否定的な勢力と、肯定的な勢力に分けられていた。
 そんな肯定的な勢力が、クリアステルの先住民と仲良くなれるのは明白だし、先住民の魔法技術と、エルフの高い魔力が合わされば、そりゃ色王にエルフが選ばれ続けるわな。

 彼らは何色にも染まらない透明を冠し、一族全体が風の魔法にこだわることなく、四大名家を取りまとめる裏の存在として今も君臨している。

 そして、それで面白くないのが緑を冠する貴族に押し込められた、ローリエたち貴族制度に否定的なエルフだった。

 ローリエは色王を目指しているのだろう。

 最初は魔法学校で首席だった俺をライバル視していたが、あの日からフリックに標的を変えてしまった。
 俺個人としては安堵したいところだが、親友のピンチではそうもいかない。

「じゃ、俺はお前を連れていかない。自分の力で何とかするんだな」

 俺は踵を返して階段を目指した。

「いいのか?」

「何がだ?」

 下らない挑発に乗る気はないが、俺は立ち止まる。

「貴様があの奴隷を買えば全ては丸く収まったはずだぞ?」

「無茶言え、黄金卿の魔力に届かない俺が?」

「あくまでも白を切るのか? 知っているぞ、お前がを捕まえたらしいな。屈服の魔法で」

「…………」

「いや、どうやって成功させたのかが不思議なんだ」

 ローリエは白々しく笑う。

「もしかして、貴様も何か隠してるんじゃないのか? フレデリック=カーマイン伯爵と親友になったのも――」

「黙れよ……」

 確かに興味を持って接触したのは事実だ。
 そこは否定しない。

 しかし――。

「今後、俺と親友の近辺を少しでも嗅ぎ回ってみろ。その時は真っ先にヴィリジアン家の血筋が絶える時だろうがな」

 同じ歳のくせして、出来の悪い弟みたいなあいつを俺は見捨てない。

 絶対にだ。

 俺の魔力は静かに膨れ、空中で重量に逆らった水を周囲に作り出す。

 その決意を見て、ローリエは静かに笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

真実の愛のおつりたち

毒島醜女
ファンタジー
ある公国。 不幸な身の上の平民女に恋をした公子は彼女を虐げた公爵令嬢を婚約破棄する。 その騒動は大きな波を起こし、大勢の人間を巻き込んでいった。 真実の愛に踊らされるのは当人だけではない。 そんな群像劇。

処理中です...