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沈黙の聖女
親友
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ほら、やっぱりな。
俺は宿の二階廊下から苦手な女の決意表明を聞いて、顔を盛大にしかめた。
こんなことだろうと思って、真意を確かめようとしたらこれだ。
あいつなら、俺が手紙なんて出さないで直接訪ねる無礼者だと分かっているし、この女の先手を取って欲しいという意思表明だと気が付いたはずだ。
だけど、これはそれ以前の問題だわな。
親友に仇なす存在をわざわざ近付ける理由がない。
「まっ、田舎の観光でもしてもらって、帰ってもらいますか」
俺が小さく呟いた時だった。
部屋の扉が開いて、俺を睨み付ける存在が一つ。
もちろん、ローリエ=ヴィリジアン女侯爵た。
エルフという種族は金髪で耳がとがっていて、美人しかいない。
しかし、性格も目付きもきっついから、俺は好きになれそうもない女だ。
「お、おぅ、昨日はぐっすり眠れたか?」
「盗み聞きとは感心しないな」
こいつ――。
窓際にいたはずなのに、一瞬で扉の前まで移動しやがったな。
「親友に悪さしようとしてる奴も感心しねぇな」
「ふん、そっちは秘密を知りたくないのか? オルソン=インディゴ侯爵。青の名家たる貴様だってスレイヴイーターを目指す一人だろうに」
「俺はあいつが白状するのを待つ」
「それは最近、功績を収めた余裕の自慢か?」
「はっ、そういう訳じゃねーさ。俺は功績を焦ってたとしても、親友の弱みに付け込むクズにはならないね」
「それは強者の言い訳だ。敗者にならなければ見えないこともある」
ローリエは俺を睨みながら言った。
そう言えば、大森林を獣人の国ビースティリアに奪われて移民したエルフは、貴族制度に否定的な勢力と、肯定的な勢力に分けられていた。
そんな肯定的な勢力が、クリアステルの先住民と仲良くなれるのは明白だし、先住民の魔法技術と、エルフの高い魔力が合わされば、そりゃ色王にエルフが選ばれ続けるわな。
彼らは何色にも染まらない透明を冠し、一族全体が風の魔法にこだわることなく、四大名家を取りまとめる裏の存在として今も君臨している。
そして、それで面白くないのが緑を冠する貴族に押し込められた、ローリエたち貴族制度に否定的なエルフだった。
ローリエは色王を目指しているのだろう。
最初は魔法学校で首席だった俺をライバル視していたが、あの日からフリックに標的を変えてしまった。
俺個人としては安堵したいところだが、親友のピンチではそうもいかない。
「じゃ、俺はお前を連れていかない。自分の力で何とかするんだな」
俺は踵を返して階段を目指した。
「いいのか?」
「何がだ?」
下らない挑発に乗る気はないが、俺は立ち止まる。
「貴様があの奴隷を買えば全ては丸く収まったはずだぞ?」
「無茶言え、黄金卿の魔力に届かない俺が?」
「あくまでも白を切るのか? 知っているぞ、お前があの聖女を捕まえたらしいな。屈服の魔法で」
「…………」
「いや、どうやって成功させたのかが不思議なんだ」
ローリエは白々しく笑う。
「もしかして、貴様も何か隠してるんじゃないのか? フレデリック=カーマイン伯爵と親友になったのも――」
「黙れよ……」
確かに興味を持って接触したのは事実だ。
そこは否定しない。
しかし――。
「今後、俺と親友の近辺を少しでも嗅ぎ回ってみろ。その時は真っ先にヴィリジアン家の血筋が絶える時だろうがな」
同じ歳のくせして、出来の悪い弟みたいなあいつを俺は見捨てない。
絶対にだ。
俺の魔力は静かに膨れ、空中で重量に逆らった水を周囲に作り出す。
その決意を見て、ローリエは静かに笑っていた。
俺は宿の二階廊下から苦手な女の決意表明を聞いて、顔を盛大にしかめた。
こんなことだろうと思って、真意を確かめようとしたらこれだ。
あいつなら、俺が手紙なんて出さないで直接訪ねる無礼者だと分かっているし、この女の先手を取って欲しいという意思表明だと気が付いたはずだ。
だけど、これはそれ以前の問題だわな。
親友に仇なす存在をわざわざ近付ける理由がない。
「まっ、田舎の観光でもしてもらって、帰ってもらいますか」
俺が小さく呟いた時だった。
部屋の扉が開いて、俺を睨み付ける存在が一つ。
もちろん、ローリエ=ヴィリジアン女侯爵た。
エルフという種族は金髪で耳がとがっていて、美人しかいない。
しかし、性格も目付きもきっついから、俺は好きになれそうもない女だ。
「お、おぅ、昨日はぐっすり眠れたか?」
「盗み聞きとは感心しないな」
こいつ――。
窓際にいたはずなのに、一瞬で扉の前まで移動しやがったな。
「親友に悪さしようとしてる奴も感心しねぇな」
「ふん、そっちは秘密を知りたくないのか? オルソン=インディゴ侯爵。青の名家たる貴様だってスレイヴイーターを目指す一人だろうに」
「俺はあいつが白状するのを待つ」
「それは最近、功績を収めた余裕の自慢か?」
「はっ、そういう訳じゃねーさ。俺は功績を焦ってたとしても、親友の弱みに付け込むクズにはならないね」
「それは強者の言い訳だ。敗者にならなければ見えないこともある」
ローリエは俺を睨みながら言った。
そう言えば、大森林を獣人の国ビースティリアに奪われて移民したエルフは、貴族制度に否定的な勢力と、肯定的な勢力に分けられていた。
そんな肯定的な勢力が、クリアステルの先住民と仲良くなれるのは明白だし、先住民の魔法技術と、エルフの高い魔力が合わされば、そりゃ色王にエルフが選ばれ続けるわな。
彼らは何色にも染まらない透明を冠し、一族全体が風の魔法にこだわることなく、四大名家を取りまとめる裏の存在として今も君臨している。
そして、それで面白くないのが緑を冠する貴族に押し込められた、ローリエたち貴族制度に否定的なエルフだった。
ローリエは色王を目指しているのだろう。
最初は魔法学校で首席だった俺をライバル視していたが、あの日からフリックに標的を変えてしまった。
俺個人としては安堵したいところだが、親友のピンチではそうもいかない。
「じゃ、俺はお前を連れていかない。自分の力で何とかするんだな」
俺は踵を返して階段を目指した。
「いいのか?」
「何がだ?」
下らない挑発に乗る気はないが、俺は立ち止まる。
「貴様があの奴隷を買えば全ては丸く収まったはずだぞ?」
「無茶言え、黄金卿の魔力に届かない俺が?」
「あくまでも白を切るのか? 知っているぞ、お前があの聖女を捕まえたらしいな。屈服の魔法で」
「…………」
「いや、どうやって成功させたのかが不思議なんだ」
ローリエは白々しく笑う。
「もしかして、貴様も何か隠してるんじゃないのか? フレデリック=カーマイン伯爵と親友になったのも――」
「黙れよ……」
確かに興味を持って接触したのは事実だ。
そこは否定しない。
しかし――。
「今後、俺と親友の近辺を少しでも嗅ぎ回ってみろ。その時は真っ先にヴィリジアン家の血筋が絶える時だろうがな」
同じ歳のくせして、出来の悪い弟みたいなあいつを俺は見捨てない。
絶対にだ。
俺の魔力は静かに膨れ、空中で重量に逆らった水を周囲に作り出す。
その決意を見て、ローリエは静かに笑っていた。
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