スレイヴイーター

鬼畜姫

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沈黙の聖女

スキンシップ

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 結局のところ、計画とは『0番目の魔法』という伝説を追い求めるものだったっす。
 その障害となる敵組織『節制商団』と、 今後の外交次第では魔法使いの敵味方が増えていくということ。
 そして、色王はスレイヴイーターを親善大使とすることによって、外交問題を解決したい目論見でいること。

 そんな感じだったっす。

 長年、八歳児のまま生きていたっすけど、これだけべーたんの周りが騒がしくなったのは初めてっすね。

 現色王様々っすけど、専守防衛を美徳とするクリアステルにこれだけ戦力があるのは未だに謎に包まれているっす。
 なにせ、貴族と呼ばれる魔法使いは他国の倍以上っすからね。

 まず、魔法使いの人数が三桁いくことが不思議なんすよ。

 人の暮らしを支えてきていたとはいえ、大量に魔法使いがいたら国のバランスが崩壊しかねないっす。
 それをつり合う天秤のようにコントロールしている色王とは何者なのか。

 計画に乗ればべーたんの復讐する機会か近付くだけに、手の内は知っておきたいんすけどね。

 これだけ秘密主義だと節制商団と変わらない胡散臭さが鼻につく――。

「と、思うんすけど、新しいの意見を聞きたいっすね」

 八歳児の裸体を抱えるフレデリック伯爵に顔を向けて、べーたんは尋ねたっす。

 薔薇の液体石鹸を混ぜた――甘く濃厚な香り漂う豪華な泡風呂を堪能するべーたん。
 さっそく新しい御主人様の奴隷になって得をした感じっすね。
 御主人様の身体はもっと華奢かと思ったんすけど、やわ肌をしっかりと抱いている逞しい腕に視線が目移りしそうっすよ。

「そんなことより……僕をオモチャにするのをやめてくれないかな?」

『屈伏の魔法』の原型とも言える『力の魔法』は、御主人様を強引に風呂場へと向かわせたっす。
 それが気に入らなかったんすね。

「色々と心外っす。まず、べーたんは大事な話をしてるんすよ?」

「大事な話なら風呂でする必要はないよね? 裸になる必要もないよね?」

 純情って罪っすねぇ……。

「さて、本当に分かってないんすかね?」

「何がだい?」

「べーたんが力を貸せば、御主人様の様々なデメリットは解消するっすよ。今も何か違和感を感じないっすか?」

「特に何も――って、そういうことかい?」

 ようやく御主人様は、自分がことに気が付いたっす。

「神経伝達物質の活動を抑えてるっすよ。魔法で不能になった気分はどうっすか?」

 べーたんは意地悪な笑みを浮かべて尋ねたっす。

「ああ、でもそれでいいさ。ベクティアみたいな身体に欲情してたら真面目な人間から軽蔑されそうだし……」

「いいんすよぉ。あーんなことや、こーんなことをしたってお咎め無しなんすから」

 べーたんはそう言って、御主人様の腕に指を這わせて、現状では意味の無い挑発をしたっす。

「でも、君の気持ちはどうなんだい?」

「ギブアンドテイクっすよ。共生できるならセックスだって当然オッケーっす」

「感情を無視して?」

「感情は殺しているはずなんすけどねぇ……」

 魂に嘘はつけないのか、人形を操っているという認識が薄れるのか、自我が強いと魔法の威力が弱まってしまう。

 復讐だって、人形が決めただけのこと。
『私』ではない。
『べーたん』なのだ。

「たまに人形であることを忘れそうになるっすね。そうなれば、また死体に逆戻りって理解してるはずなんすけど……」

 全ては他人事。
 そう思わなければ生きられないジレンマ。

「この生き地獄があなた様に分かりますか?」

 真面目な話をしたい時には口調を変えればよい。
 そう思い込まなければ『本音』を晒せない生き地獄。

 分かるはずがない。

 自分を否定すれば生き延びて。
 自分を肯定したら死んでしまう。

 長く生き過ぎて死にたいはずなのに、復讐の為に延命し続ける。
 その怨みを募らせれば本音で死んでしまうはずなのに、簡単には死を選べない。

 まともな人間ですらない法則。
 それが人間ごときに分かるはずがないのだ。

「分からない。けど――」

 御主人様は『べーたん』に告げた。
 いや――。

「君を眠らせたいって親友の気持ちがやっと分かったよ…………」

『私』に告げた。

『若僧が知った風な口を聞くな』

 そう言いたかったはずなのに、御主人様の腕の震えが喉から出かかった言葉を止めた。

「僕だったら死んで逃げ出してるだろうね…………」

「マリアさんの為に逃げ出さなかったあなた様が?」

「結局、ローリエに同情されてなければ負けていたからね。それで泣き寝入りが許されなかったら、僕は絶望していただろうさ」

『いいえ、それでもあなた様は最後までみっともなく足掻いたのではございませんか?』

 尋ねたかった言葉も出なかった。
 これは『私』の純粋な気持ちだから。
『私』はまだ死にたくない。

 しかし、何でも手に入れてきた前の御主人様と違って、彼の危うさは魂に眠る母性本能を刺激する。

『僕が母さんだったら、とっくに諦めているよ』

 そんな弱音を言いながら、私の見えないところで努力する息子。
 子供を産んでいたら、愛しい我が子をこんな時に甘やかすのだろうか?

『お母さんは何でもお見通しなんですからね』

 そう言って頭を撫でてやるのだろうか?

『子供扱いするなよな!』と反抗されても、『もう、照れ屋さんなんだから』と言って強く抱き締めて。

 それから――。

 雲のようなフワフワが、フワフワで、フワフワに――。

 白で埋め尽くされる世界が花のように散って――。

「――っ!? べーたんを殺す気っすか?」

 一瞬、お花畑が見えたっす。

 こんな下らない妄想で死ぬとか本当に勘弁っすよ。

「えっ、あ、うん。君を死なせない為に頑張るよ。あれっ!? でも、これじゃ逆だよね?」

 こちらの妄想に気付いていない御主人様は、べーたんのツッコミの意味を理解できずに混乱していたっす。

 だから、べーたんはそれに便乗してごまかすことにしたっす。

「情けないっすねぇ。御主人様は明日も頑張ってもらわないといけないことが山積みなんすからね。この入浴タイムは報酬の前払いなんすよ? しくじったら見捨てるっすからね?」

 意地悪な――いつものべーたんが戻ってきて、少しだけ尖った胸の先端を御主人様の腕に擦り付けてやったっす。

 残念っすねぇ。
 こんなにしてもらっても興奮できないんすから。

 しかし、残念そうにしない御主人様は真面目に答えたっす。

「ま、やれるところまで頑張ってみるさ。明日の監査は秘策があるんだろう?」

「あるっすよぉ。奴等を黙らせるもの凄い秘策が……」

 べーたんは御主人様に向けて悪人面の笑みを浮かべたっす。
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