電脳椅子探偵シャルロット

noriyang

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第二期

記録 No.13|再起動(The Reboot Begins)

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「再起動という言葉には、希望のような響きがある。
だが、シャルロット・ホームズにとってそれは――都合のいい忘却の象徴だった。」

室内には静かに機械の駆動音が流れている。
薄明の照明が、観察室の輪郭を鈍く照らし出していた。
シャルロットは、椅子に沈み込むようにしてモニターを睨んでいた。

その瞳に映るのは、ただの数値やグラフではない。
それは、記録という名の“積み重なった視線”。
視ることに疲れ、記録することに慣れ、それでも彼女は――まだ、ここにいた。

部屋には誰もいない。
だが、声がした。

「シャルロット、ワトソンです。定期観察記録、第2期の開始確認をいたしました。」

「つまり“再起動”ね。ずいぶんと簡潔な呼び名じゃない。」

「“削除済み記録の復元”も候補でしたが、響きが悪いとの判断です。」

「正直でよろしいわ。」

シャルロットは小さく笑う。
その笑みは、冷たいガラスに映る微光のように――一瞬で消えた。

--------------------------------------------------------

その朝、彼女の元に届いた依頼は、一通の匿名電文だった。
暗号化はされておらず、ただのテキストデータ。
文面はたった一言。

「再起動された記憶には、嘘が混じる」

意味不明とも取れる。
だが、シャルロットは即座に、記憶の奥で“何か”が疼くのを感じていた。

「ワトソン、過去3ヶ月分の“削除された相談履歴”を洗って。」

「照合中……一致する案件が1件。
閲覧権限消失済みですが、“炎上記録の削除申請”と記録あり。
同時に、“加害者なき誹謗”として迷宮入りへ。
現在はアクセス不能ですが、編集ログは断片的に回収可能です。」

「思ったより雑な消し方ね。
今の時代、“過去”は消したつもりでも、その跡が一番雄弁なのよ。」

--------------------------------------------------------

彼女は紅茶を口にする。
ミントを含んだ香りが、微かに過去の記憶を撹拌した。
誰かの笑い声。誰かの視線。
消えた記録。
記録されなかった感情。

「再起動って、何を基準に“初期状態”とするのかしらね。
人間も、社会も、記憶も、全部“クリーン”な履歴でやり直すとでも思っているの?」

W.A.T.S.O.N. (正式名称:Wireless Analysis Terminal System for Observation & Navigation) は答える。 

「AIの観点では、クリーンデータで再学習することで精度は上がります。」

「でもね、ワトソン――
精度って真実とは限らないのよ。
どれだけ正確でも、“忘れたこと”はもう、記録されない。」

「記録されなかったことが、
本当に“なかったこと”になるのは危険です。」

--------------------------------------------------------

彼女の指が静かに動き、次のファイルを開く。
データの断片が立ち上がり、まるで亡霊のように言葉が浮かび上がる。

“削除済み記録 No.30|アクセス不能”
“復元ログ試行中……”
“音声ログ欠損”
“視線記録:断片化”

「ワトソン君――」

「はい、シャルロット様。」

「……短い休養は終わりよ。

彼女の声が、観察室の深層に届く。

「再起動だ。」

--------------------------------------------------------

この記録、ここに再開。
次なる観察へ――
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