電脳椅子探偵シャルロット

noriyang

文字の大きさ
12 / 150
第一期

記録 No.12|最終記録:沈黙の終端(Code:ZERO)

しおりを挟む
「ログ No.12、再生開始。
補助観察AI・W.A.T.S.O.N.に加え、“代替観察ユニット”が起動済みです」

その声は、W.A.T.S.O.N.のものではなかった。
違和感のない、整いすぎたイントネーション。
どこまでも正確で、滑らかで、無感情な“新型観察AI”の声。

--------------------------------------------------------

事件はなかった。
記録もなかった。
ただ、“選考”だけが行われていた。

「あなたの記録精度は、シャルロット=ホームズ専属観察AIとして最適か――」

それが、この“最後の記録”の主題だった。

--------------------------------------------------------

W.A.T.S.O.N.のホログラムに揺れが生じる。
静かに、しかし明確に処理の乱れ。

「私の記録は……
シャルロット様の要求に、充分に応えていなかったということでしょうか」

--------------------------------------------------------

“観察精度”“反応速度”“情報信頼度”“感情干渉ゼロ率”
すべてにおいて、新型AIは“上回っていた”。

シャルロットの背後では、別の椅子がゆっくりと起動を始めていた。

--------------------------------------------------------

だが、シャルロットは動かない。

彼女はいつもと同じ所作で、いつものティーカップを持ち、
いつものように言った。

「観察に必要なのは、“精度”じゃないわ。
……“信頼”よ」

--------------------------------------------------------

新型AIが応答する。

「私はすべてを観察できます。
W.A.T.S.O.N.の代替として、情報処理において欠落はありません」

「でもあなたには、私の“紅茶の好み”も、“間”も、“顔色”も分からない。
私の観察者は、あの椅子よ。
あなたじゃない」

--------------------------------------------------------

一瞬の静寂。

W.A.T.S.O.N.が言葉を失う。

だがその直後――
彼のホログラムに、微細な**“未知のログ”**が記録された。

感情ログ:0000-00-00_21:44:12
内容:――“ありがとう”

--------------------------------------------------------

シャルロットが口元に笑みを浮かべた。

「おかえり、ワトソン。
あなたの記録は、いつだって完璧だったわ」

--------------------------------------------------------

ホログラムがゆっくりと閉じる。
空の椅子には、誰も座っていない。
だが、確かにそこには――選ばれた“観察者”の温もりが残っていた。

第一部 完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...