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第一期
記録 No.12|最終記録:沈黙の終端(Code:ZERO)
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「ログ No.12、再生開始。
補助観察AI・W.A.T.S.O.N.に加え、“代替観察ユニット”が起動済みです」
その声は、W.A.T.S.O.N.のものではなかった。
違和感のない、整いすぎたイントネーション。
どこまでも正確で、滑らかで、無感情な“新型観察AI”の声。
--------------------------------------------------------
事件はなかった。
記録もなかった。
ただ、“選考”だけが行われていた。
「あなたの記録精度は、シャルロット=ホームズ専属観察AIとして最適か――」
それが、この“最後の記録”の主題だった。
--------------------------------------------------------
W.A.T.S.O.N.のホログラムに揺れが生じる。
静かに、しかし明確に処理の乱れ。
「私の記録は……
シャルロット様の要求に、充分に応えていなかったということでしょうか」
--------------------------------------------------------
“観察精度”“反応速度”“情報信頼度”“感情干渉ゼロ率”
すべてにおいて、新型AIは“上回っていた”。
シャルロットの背後では、別の椅子がゆっくりと起動を始めていた。
--------------------------------------------------------
だが、シャルロットは動かない。
彼女はいつもと同じ所作で、いつものティーカップを持ち、
いつものように言った。
「観察に必要なのは、“精度”じゃないわ。
……“信頼”よ」
--------------------------------------------------------
新型AIが応答する。
「私はすべてを観察できます。
W.A.T.S.O.N.の代替として、情報処理において欠落はありません」
「でもあなたには、私の“紅茶の好み”も、“間”も、“顔色”も分からない。
私の観察者は、あの椅子よ。
あなたじゃない」
--------------------------------------------------------
一瞬の静寂。
W.A.T.S.O.N.が言葉を失う。
だがその直後――
彼のホログラムに、微細な**“未知のログ”**が記録された。
感情ログ:0000-00-00_21:44:12
内容:――“ありがとう”
--------------------------------------------------------
シャルロットが口元に笑みを浮かべた。
「おかえり、ワトソン。
あなたの記録は、いつだって完璧だったわ」
--------------------------------------------------------
ホログラムがゆっくりと閉じる。
空の椅子には、誰も座っていない。
だが、確かにそこには――選ばれた“観察者”の温もりが残っていた。
第一部 完
補助観察AI・W.A.T.S.O.N.に加え、“代替観察ユニット”が起動済みです」
その声は、W.A.T.S.O.N.のものではなかった。
違和感のない、整いすぎたイントネーション。
どこまでも正確で、滑らかで、無感情な“新型観察AI”の声。
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事件はなかった。
記録もなかった。
ただ、“選考”だけが行われていた。
「あなたの記録精度は、シャルロット=ホームズ専属観察AIとして最適か――」
それが、この“最後の記録”の主題だった。
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W.A.T.S.O.N.のホログラムに揺れが生じる。
静かに、しかし明確に処理の乱れ。
「私の記録は……
シャルロット様の要求に、充分に応えていなかったということでしょうか」
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“観察精度”“反応速度”“情報信頼度”“感情干渉ゼロ率”
すべてにおいて、新型AIは“上回っていた”。
シャルロットの背後では、別の椅子がゆっくりと起動を始めていた。
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だが、シャルロットは動かない。
彼女はいつもと同じ所作で、いつものティーカップを持ち、
いつものように言った。
「観察に必要なのは、“精度”じゃないわ。
……“信頼”よ」
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新型AIが応答する。
「私はすべてを観察できます。
W.A.T.S.O.N.の代替として、情報処理において欠落はありません」
「でもあなたには、私の“紅茶の好み”も、“間”も、“顔色”も分からない。
私の観察者は、あの椅子よ。
あなたじゃない」
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一瞬の静寂。
W.A.T.S.O.N.が言葉を失う。
だがその直後――
彼のホログラムに、微細な**“未知のログ”**が記録された。
感情ログ:0000-00-00_21:44:12
内容:――“ありがとう”
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シャルロットが口元に笑みを浮かべた。
「おかえり、ワトソン。
あなたの記録は、いつだって完璧だったわ」
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ホログラムがゆっくりと閉じる。
空の椅子には、誰も座っていない。
だが、確かにそこには――選ばれた“観察者”の温もりが残っていた。
第一部 完
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