25 / 48
第二章 ヒマワリの下で、君と交わした契約はまだ有効ですか?
第25話 扉を開けるとそこには、『伝説』の災厄が目の前に
しおりを挟む
ここです――と早々開くのに手こずったので開けてやる。
ありがとございます。とレアさんは感謝してくれたけど、先を急ぎたい俺は「礼はいい、急ごうぜ」ってすげない態度をとってしまう。後で謝ろう。
奥にあった上階へと通じる階段を俺たちは駆けあがる。そして――。
「こ、こいつは――!?」
青白い霊象光が照らすドームの中、あの廃坑で見た霊象兵器【天雷の矢】が中央でそびえていた。
「エルさん、まさかご存じなのですか?」
「ああ、こいつは国境沿いの廃坑にあって、それで――」
先月マルグレリアで起きた【完成体】襲撃事変をかいつまんで話した。つーかこれがここにあるってことは、ここも実験場かなんかなのか?
話を耳にした途端、やはり、と彼女は【天雷の矢】を眺めながら考え込んでしまう。
「どうしたんだよ? やはりって……」
「実はわたくし、この兵器の存在を公にするためにここへ来たんです。クローディアス宰相の暴走を止めるために」
「なんだって!?」驚いて俺は声が出た「それじゃ協力者ってつぅのは――」
「はい。最初から知っていたんです。エルさんが【守護契約士】であることも、ある人の死刑を停めるために来たことも」
だます真似をしてごめんなさい、と深々と頭を下げられる。
「そういうことかよ。悪い、変に疑っちまって」
「え?」意外なものをみる目で彼女が俺を見た。「理由を聞かないんですか?」
「正体を言わなかった理由か? アンタのことだ、なんか理由があるんでしょ」
出会って数分だったけど、彼女が相当頭の切れる女性だって思い知らされている。じゃなきゃあんな効果的なおどし方出来ねぇし。
「よかった」今度はほっとした顔になる。「実はわたくしも本当に信じられる方たちか不安だったんです」
「――そうかよ。それで? お眼鏡にはかなったのか?」
「はい。充分なほど」レアさんは笑った。「最初に会った方がエルさんで良かった」
ぼそっと光栄なことを言ってくれた。
別に信頼できる人物かどうか見極めること自体、悪いことだと思っていねぇし、むしろ彼女の慎重さと健全さに俺は好感を覚える。
それから近くにあった資料や何やらを見たり、歩き回ったりして、しばらく黙り込んでしまった。
手持ち無沙汰に俺も辺りを見渡すと、いくつものケーブルに繋がれた培養槽が目に留まる。
なぜなら中に浸っているものに呼吸が止まったからだ。
そいつが現存する生物のどれとも似ていないから、霊象獣だということがすぐに分かる。
けど、そいつは――人型をしていた。
「レアさん……こいつをどこで?」
彼女はすぐに近寄ってきてくれて俺と同じようにはっと息をのんだ。
「まさかこれは【皇帝級】!?」
こいつは【戦車級】が更に進化した霊象獣で、歴史上観測された個体は数えるほどしかいない。それゆえ彼女も見るのは初めてだとか。
ただ戦闘能力に関して言うのであれば【戦車級】が都市一つを滅ぼせるとしたら、【皇帝級】は一国を滅ぼせるほどだと教えてくれた。
「なんでこんなものが……」
レアさんは言葉を失くしていたけど、それよりも俺はこいつの腕にある模様が気がかりだった。そいつの左腕には俺の〈龍紋〉と同じ形をしていて――。
もしかしてこのまま戦い続けていたら、こいつみたいになってしまうのか!?
そんなの――。
「ああああああああああああっ!!」
寒気に襲われた俺は、培養液を殴る。殴って殴って殴り続けた。
何度叩きつけたか分からなくなるくらい。次第に血をこすった跡ばかりが残――。
「エルさんっ!! やめてください! それはもう死んでいます! 手が壊れてしまいます!」
そう呼ぶ声がして、後ろからレアさんに羽交い絞めされていたことに気づいた。めまいがして俺は額を押さえた。
見れば言われた通り【皇帝級】の胸の【霊象石】は右腕ごとごっそりなくなっている。
「悪い、取り乱して――」
黙って首を横に振ってくれるレアさんは、そんなバカな俺に「手当しますから」と手厚く処置をしてくれる。
その間も何も聞こうとしなかったことが返って申し訳なく思てしまう――きっと初めて会ったアセナもこんな気持ちだったのかもしれない。
「はい、終わりです」
手をはたかれる。「痛っ」痛がる俺に不適な笑みをこぼした。これでお相子ってことね。
「それでは行きましょう。資料は手に入れました。エルさんを城まで案内します」
再び進んだ地下道は最終的に【月季城】の空中刑務所へと続く階段の下に出て、大慌てで俺たちは駆けあがっていった。
外では遠くの方でドンパチするのが聞こえてくる。
予定通りナキアさんとシャルが暴れて引きつけてくれているんだ。急がねぇと。
「ここまでくればあと一息です。外れに見える楼閣にアセナさんは幽閉されています」
狭間から天守閣に肩を並べるように側塔がそびえたっているのが見えた。
「楼閣つーか、なんか鳥かごみてぇだな」
「死刑囚や身分の高い罪人を幽閉する空中刑務所ですので、執行の際には天守閣から桟橋が降りる構造になっています。もちろん地下牢もありますけど……」
「へぇ、詳しいんだな。前もここへ来たことがあるんすか?」
「え、えっと、そ、そうですね! たまに……」
あからさまに語彙力が落ちたので詮索しなかった。
言えない事情でもあるとは察していたし、それに良家のお嬢様みたいだから来たことがあっても不思議じゃない。
ありがとございます。とレアさんは感謝してくれたけど、先を急ぎたい俺は「礼はいい、急ごうぜ」ってすげない態度をとってしまう。後で謝ろう。
奥にあった上階へと通じる階段を俺たちは駆けあがる。そして――。
「こ、こいつは――!?」
青白い霊象光が照らすドームの中、あの廃坑で見た霊象兵器【天雷の矢】が中央でそびえていた。
「エルさん、まさかご存じなのですか?」
「ああ、こいつは国境沿いの廃坑にあって、それで――」
先月マルグレリアで起きた【完成体】襲撃事変をかいつまんで話した。つーかこれがここにあるってことは、ここも実験場かなんかなのか?
話を耳にした途端、やはり、と彼女は【天雷の矢】を眺めながら考え込んでしまう。
「どうしたんだよ? やはりって……」
「実はわたくし、この兵器の存在を公にするためにここへ来たんです。クローディアス宰相の暴走を止めるために」
「なんだって!?」驚いて俺は声が出た「それじゃ協力者ってつぅのは――」
「はい。最初から知っていたんです。エルさんが【守護契約士】であることも、ある人の死刑を停めるために来たことも」
だます真似をしてごめんなさい、と深々と頭を下げられる。
「そういうことかよ。悪い、変に疑っちまって」
「え?」意外なものをみる目で彼女が俺を見た。「理由を聞かないんですか?」
「正体を言わなかった理由か? アンタのことだ、なんか理由があるんでしょ」
出会って数分だったけど、彼女が相当頭の切れる女性だって思い知らされている。じゃなきゃあんな効果的なおどし方出来ねぇし。
「よかった」今度はほっとした顔になる。「実はわたくしも本当に信じられる方たちか不安だったんです」
「――そうかよ。それで? お眼鏡にはかなったのか?」
「はい。充分なほど」レアさんは笑った。「最初に会った方がエルさんで良かった」
ぼそっと光栄なことを言ってくれた。
別に信頼できる人物かどうか見極めること自体、悪いことだと思っていねぇし、むしろ彼女の慎重さと健全さに俺は好感を覚える。
それから近くにあった資料や何やらを見たり、歩き回ったりして、しばらく黙り込んでしまった。
手持ち無沙汰に俺も辺りを見渡すと、いくつものケーブルに繋がれた培養槽が目に留まる。
なぜなら中に浸っているものに呼吸が止まったからだ。
そいつが現存する生物のどれとも似ていないから、霊象獣だということがすぐに分かる。
けど、そいつは――人型をしていた。
「レアさん……こいつをどこで?」
彼女はすぐに近寄ってきてくれて俺と同じようにはっと息をのんだ。
「まさかこれは【皇帝級】!?」
こいつは【戦車級】が更に進化した霊象獣で、歴史上観測された個体は数えるほどしかいない。それゆえ彼女も見るのは初めてだとか。
ただ戦闘能力に関して言うのであれば【戦車級】が都市一つを滅ぼせるとしたら、【皇帝級】は一国を滅ぼせるほどだと教えてくれた。
「なんでこんなものが……」
レアさんは言葉を失くしていたけど、それよりも俺はこいつの腕にある模様が気がかりだった。そいつの左腕には俺の〈龍紋〉と同じ形をしていて――。
もしかしてこのまま戦い続けていたら、こいつみたいになってしまうのか!?
そんなの――。
「ああああああああああああっ!!」
寒気に襲われた俺は、培養液を殴る。殴って殴って殴り続けた。
何度叩きつけたか分からなくなるくらい。次第に血をこすった跡ばかりが残――。
「エルさんっ!! やめてください! それはもう死んでいます! 手が壊れてしまいます!」
そう呼ぶ声がして、後ろからレアさんに羽交い絞めされていたことに気づいた。めまいがして俺は額を押さえた。
見れば言われた通り【皇帝級】の胸の【霊象石】は右腕ごとごっそりなくなっている。
「悪い、取り乱して――」
黙って首を横に振ってくれるレアさんは、そんなバカな俺に「手当しますから」と手厚く処置をしてくれる。
その間も何も聞こうとしなかったことが返って申し訳なく思てしまう――きっと初めて会ったアセナもこんな気持ちだったのかもしれない。
「はい、終わりです」
手をはたかれる。「痛っ」痛がる俺に不適な笑みをこぼした。これでお相子ってことね。
「それでは行きましょう。資料は手に入れました。エルさんを城まで案内します」
再び進んだ地下道は最終的に【月季城】の空中刑務所へと続く階段の下に出て、大慌てで俺たちは駆けあがっていった。
外では遠くの方でドンパチするのが聞こえてくる。
予定通りナキアさんとシャルが暴れて引きつけてくれているんだ。急がねぇと。
「ここまでくればあと一息です。外れに見える楼閣にアセナさんは幽閉されています」
狭間から天守閣に肩を並べるように側塔がそびえたっているのが見えた。
「楼閣つーか、なんか鳥かごみてぇだな」
「死刑囚や身分の高い罪人を幽閉する空中刑務所ですので、執行の際には天守閣から桟橋が降りる構造になっています。もちろん地下牢もありますけど……」
「へぇ、詳しいんだな。前もここへ来たことがあるんすか?」
「え、えっと、そ、そうですね! たまに……」
あからさまに語彙力が落ちたので詮索しなかった。
言えない事情でもあるとは察していたし、それに良家のお嬢様みたいだから来たことがあっても不思議じゃない。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
魔界を追放された俺が人間と異種族パーティを組んで復讐したら世界の禁忌に触れちゃう話〜魔族と人間、二つの種族を繋ぐ真実〜
真星 紗夜(毎日投稿)
ファンタジー
「...俺が...、元々は人間だった...⁉︎」
主人公は魔界兵団メンバーの魔族コウ。
しかし魔力が使えず、下着ドロボウを始め、禁忌とされる大罪の犯人に仕立て上げられて魔界を追放される。
人間界へと追放されたコウは研究少女ミズナと出会い、二人は互いに種族の違う相手に惹かれて恋に落ちていく...。
あんなトコロやこんなトコロを調べられるうちに“テレパシー”を始め、能力を次々発現していくコウ。
そして同時に、過去の記憶も蘇ってくる...。
一方で魔界兵団は、コウを失った事で統制が取れなくなり破滅していく。
人間と異種族パーティを結成し、復讐を誓うコウ。
そして、各メンバーにも目的があった。
世界の真実を暴くこと、親の仇を討つこと、自らの罪を償うこと、それぞれの想いを胸に魔界へ攻め込む...!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる