あのヒマワリの境界で、君と交わした「契約(ゆびきり)」はまだ有効ですか?

朝我桜(あさがおー)

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終章 ずっと一途に。

第48話 どこまでも君と一緒に……

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 それから【神凪節】が終わり、1週間が過ぎた。

「ほんとうに行くの?」

「はい。カサンドラさん、ありがとうございました」

 白みを帯びた早朝、協会前で俺はカサンドラさんに頭を下げる。

「気が早いわ。お礼を言うのは帰ってきてからでしょ?」

「そうですね」

 カサンドラさんの手には《巡回届》が握られている。

 これは【花】になるために必要なものだ。地方に点々とする協会支部から推薦状をもらい、昇格試験を受け、合格することで晴れて認められるんだ。

 なんでって? 俺にも思うところがあったんだよ。

 この旅で俺は、【花】へ昇格を目指すほかに、左腕の〈龍紋〉の浸食を止める方法を見つけなきゃいけない。少しでもアセナと長くいるために。

「アセナには伝えたの?」

「はい、手紙で」

「そう、寂しくなるわね。気を付けてね」

「はい、行ってきます」

 いってらっしゃい、と背中を押された俺はリュックを背負い直して一歩を踏み出した。
 道のりは長い。でもやり遂げられると信じている。

 そう胸に刻んで誰もいない町を一人歩いていると、すっと路地から人影が――。

「一人で回るにはこの大陸は広いぜ?」

「ナキアさん!? どうして!?」

 黒いナップサックとフーリガンバーを肩にかけて現れた。

「帰って来て早々また出張だよ。それと引率してやろうって思ってな」

 途中までだけど二人旅を楽しもうぜ、と首に腕を回してくる。全く相変わらず粋なことを。

「違うよ、三人だよ」

 などと思っていると、反対の路地から正直耳を疑う声がした。

「おいおいおい、なんでシャルがここにいんだよ!?」

 ウチも《巡回届》出したから、と下げていた重そうなリュックを担ぎあげるのだけど。

「シャルまで出て行ったら協会どうすんだよ!」

「そりゃ大丈夫だぞ、本日付でオレ様の後輩何人が本部から来るし、国境警備隊のやつらも数人出向にくる。カサンドラの姐さん言ってなかったのか?」

「聞いてねぇよ!? 心配して損した。早く言えよ~」

「まっ! 心配かけたくなかったんだろうよ。そういうことで納得しとけ」

「そういうわけだからよろしくね、エルやん」

 メンバー総取り換えやんけ。こんなん。門出から早々、いつもの寄り合い所帯と化して早くもセンチメンタルな雰囲気が台無しにされた。別にいいけどさ。

 こうして三人となった俺ら。しばらくして街の出口である城壁前までたどり着いたのはいいんだけど。

 まぁ……二度あることは三度あるとはよく言ったもの、まさかとは思ったよ。

「あ、エルさん! おはようございます」

「レ、レアさん!? それにフェイまで、なんで二人が?」

 見送りって言うわけじゃなさそう。伝えたのは協会のみんなだけだ。

「実は『白い女』について私なりに調べたいと思いまして、これから各地を転々とする予定です」

「ボクはその殿……レア様の道中の護衛だ」

 頑張って『殿下』という単語を飲み込んだところ見て俺は察した。

 秘境を探検して財宝を得るのが趣味の考古学者で貴族のご令嬢と、その使用人という設定に落ち着いたんだと。

「というわけで、途中までご一緒させてはもらえませんか? 見たところ遠征のようですし」

「ボクは反対だけどな。レア様が言うなら仕方がない。ありがたく依頼を受けろ」

「なんでお前が偉そうなんだよ」

 結局5人という大所帯になってしまった。

 いつまでも門までたむろしていてもしょうがない。とりあえず街の外へ出なくては。

「なんでこんなことになっちまうんだ。これじゃまるで……」

「嘆いているヒマはねぇぞ、ほら見ろ」

 新たな旅の入り口である。ナキアさんが門を指し示して――俺は目を疑った。

 穏やかな微笑みを浮かべているようで、その実、青筋が立っている。

 それはもう大層ご立腹であらせられる少女の姿に――思わず俺は身震いした。

「どうしてウソをつくかな? 一人にしないって言ったよね?」

 落ち着いた声だけど、目が全然笑っていない。

「私には行くなって言っておいて、自分は置いて行こうとするんだ?」

「あ、アセナ!? いや待ってくれ、別にウソをついていたわけじゃ」

「まさかお義母さんがいるから……とか言うつもり? この手紙に書いてあるみたいに?」

 白い便せんをふってこっちをにらんでくる。ぐっと喉の奥が詰まった。

 手紙の最後にこう書いたんだ。

 ――新しくできた家族と一緒に幸せに暮してくれ。いつまでも俺は君の心の中にいる。
 ――たとえ遠くにいても君のことを思っている。

「それで? なんでみんなまでいるのかな?」

 そうゆっくりと歩いてくる。巨人が近づいてくると錯覚するほどのオーラをまとって。

「こ、これはそれぞれ海より深っぽい事情があって……あれ!?」

 きょろきょろと見渡すも、全員がその場から消えている。

 どこ行ったのかと思えば植込みに隠れていた。あ、きったね!

「キサマの女房だろ~? 自分で何とかしろ~」

「あ~あ、ウチ知~らない」

「先輩! ひと思いにやっちゃっていいです。そんな奴!」

「エルさん、ファイトです!」

 視線が痛い。振り上げられる手のひら。ひっぱたかれるのを俺は覚悟した――が、一向に痛みがやってこない。代わりに胸を軽く拳で叩かれる。

 ぴとっと額を押し付けて、彼女は胸の中でうずくまった。

「……どうしてそうやっていつも自分に嘘つくの!?」

 言葉の終わりは、ひどく震えていた。やっぱりバレているか。

「……ごめん」

「許さないよ。私を連れてってくれなきゃ、絶対に許さないから」

 もうこれはテコでも動きそうにない。

「……危険な旅になるぞ――いてててててててっ!」

 手の甲をつねられ、その上からさらにねじられる。

 決めたもんな。側にいて守り通すって。自分で決めたことは最後まで貫き通さないと。

「分かった! 一緒に行こう! アセナ!」

「うん!」

 弾ける笑顔の彼女の手を引いて俺は走り出した。

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