【本編完結】悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中

文字の大きさ
110 / 164
第八章 ベジカフェ参入

シルとミルの休日2

しおりを挟む
気持ちの良いぬくもりに包まれて目覚めると、シルの胸に抱き込まれていた。
そうだ。昨日は………

「うう………」

また思い出して恥ずかしくなった。
でも、シルの体温はやっぱり安心する。
そっと胸に頬を寄せすうっと息を吸えば、シルの愛用のシトラスの香水が僅かに香る。
シルの体臭となじみ、ほんのりと甘いその香りが昔から俺にとって一番安心できる匂いだった。
恐ろしい雷も晩も、シルの胸の中にいれば大丈夫。
俺がどんなに隠しても、辛いとき、悲しいとき、怖いとき、シルは必ず気付いてくれた。
そして「内緒ですよ」と俺を抱きしめて眠ってくれた。
5歳の時の俺にはシルはものすごく大人に思えた。
でもそのときシルだってたったの10歳だったのだ。シルにだって辛い夜もあっただろう。泣きたい夜もあっただろう。それでもシルはまるで大人のように俺を守り、慈しんでくれた。

蘇る数々の想い出に、胸がきゅうっとなって知らずに言葉が溢れる。

「シル………お前でよかった。シルと婚約できてうれしい」

俺にとってのシルは……なんというか、無くてはならない人なのだ。


シルの腕の中はとても心地よくて、起きるのがもったいないくらいだ。
今日は午前中は休みなのだ。昼までずっとこうしていよう。うん。そうしよう。
最近は忙しかったし俺なりに頑張ったから、少しくらいこういうご褒美があったっていいはずだ。
「ふわぁ」と小さくあくびをすると、もう一度シルの胸に頬をすりよせそっと目を閉じた。
幸せに形があるとすれば、それはシルの形をしているに違いない。




「ん……?」

かすかな寒さに目を開けた。
ん?
ポンポン、と隣を探ってみるが、シルがいない。なんてことだ!

「シル?」

ガバリと身を起こして部屋を見回すも、シルの姿がない。
一緒にダラダラすると言ったのに!嘘つきめ!

と。「ミル、起きたのか?」とシルがトレーを片手に戻ってきた。

「シル、勝手に離れるな!午前中は一緒にいるといったのに!」

寝起きでテンションがおかしく、理不尽な怒りが止められない。
だって、シルの腕の中で目覚めたかったのだ。

「あはは。すまんすまん。てか子供みたいに拗ねてるミル、珍しいな。可愛い」

「……拗ねてない」

「ふふふ。じゃあ、拗ねてないことにしておく。
ミル、腹が減っただろう?朝食を持ってきたぞ?今日はお行儀悪くベッドで食おうぜ?
ほら、おいで」

ベッドサイドにトレーを置いてひょいっとシルの膝に乗せられた。
そのままオレンジジュースのコップを口に当てられる。

「水分からな?ビタミンを摂ろう」
「自分で飲める!」
「ダーメ。今日は甘やかしの日!俺がそう決めたから!」

ほら、とパンをちぎって口に運ばれ、その後はそっとスープを飲ませてくれる。

「ふは!大人しく俺の手から食うミル、最高!」
「……変なやつ」
「ミル限定でな」

シルの手から俺とシルで交互に食べた。

「なんだか給餌みたいだ」と言えば「そりゃそうだ。俺もミルに求婚してるんだから」と笑われた。
そう返されてしまうとなんだか照れくさい。




そのまま二人でまたベッドにもぐりこみ今度こそゆっくりまったりしていると。

バタバタバタ!

「おーい!ミル、シル!いるかー?」

とアルの声がした。
どうやら合鍵で入ってきたようだ。

シルが苦笑して「あーあタイムアウトか」とぼやく。

「ミルの部屋にいる。ちょっとそこで待ってろ!」

俺はまだ夜着だし、シルもシャツが半分はだけたままだ。
おまけに……俺の上半身はとても見せられない状態になっている。

慌てて着替えようとベッドから出たそのとき……

何を勘違いしたのかアルが「ミルの部屋か?入るぞー?」と俺の部屋のドアを開けて入ってきたのだった。




アルは着替えようと夜着を脱ぎ上半身をさらしたままの俺を見てあんぐりと口をあけた。
次いで慌ててシャツの前を閉めていたシルに視線をやり。

「…………あーーーー…………すまん。お邪魔だったようだな?」

気まずそうに目をそらして後ずさり、そっと扉を閉じるアル。

「ちょ、ちょっとまて!やってねえ!誤解だ!!俺は未成年には手は出さん!!」

慌ててシルが飛び出していった。

「いやいやいや!言い訳しなくていいって!あんな痕つけといてやってねえとかありえねえだろ!
シルはよく我慢したと思うぞ?婚約者なんだし、ミルが良ければいいんじゃね?」

「だから、やったけど最後まではしてねえんだって!!マジで耐えたんだって!!俺の自制心を舐めるな!!」

シルの魂の叫びが聞こえた。
ゆっくりするはずだったのに!どうしてこんなことになった?!

とりあえず服は着たが…………どんな顔をして出ればいいんだ………。




しおりを挟む
感想 359

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

処理中です...