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プロローグ
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しおりを挟む本を拾ったところまで戻ると女性は荷物を見つけて拾い上げる。
それからこちらを振り向いてもう一度頭を下げた。
「助けていただいた上に、荷物まで見つけていただいて……本当にありがとうございます! 私、魔法使いのセリーナと申します」
魔法に関する本を持っていたことから薄々勘付いてはいたが、どうやら彼女は魔法を使用することのできる人間、「魔法使い」で間違いないらしい。
「トルマと言います。怪我ないようでよかった。ですが……魔法を使えるのならゴブリン程度なんとかなったのでは?」
自己紹介をしつつ、気になった疑問をぶつける。
街で出会った魔法使いが言うには既に魔法はある程度実戦で使える程度には発展して来ているらしい。
王都の騎士団が訓練に取り入れたという話もあったのだから弱い魔物であるゴブリン三匹くらい、自分で倒せたのではないかと思ったのだ。
俺の質問にセリーナさんは恥ずかしそうに笑う。
「いえ……実は魔法ってそんなに万能な力ではないんです。確かに発動すればゴブリンを三匹倒すくらいの力はあるのですが、発動するのに時間がかかる上に集中力も必要になります。だから、一人で戦う時にはまだまだ不利なものなんです」
セリーナさんが言うには一人で戦おうとすると魔法を発動しようとしている間に距離を詰められ、あっという間に攻撃を受けてしまうらしい。
仲間がいれば魔法を発動するまでの間、仲間に敵の注意を惹きつけてもらい、大きなダメージを与えることができるそうなのだが、実戦で使うにはまだまだ足りない部分も多いらしい。
「魔法は発展途上の技術ですから……でも、発動を早くする方法や一人でも上手く立ち回れるような魔法の開発は今も進んでいるんです」
魔法が弱いものだと思われたくなかったからか、セリーナさんはそう補足する。
先程少し本を読み、魔力の問題で自分には魔法は縁のないものだと分かった俺はその話にあまり興味を惹かれなかった。
「騎士団の戦術も日々進化していると聞くし、そんなものなのだろうな」
と思った程度である。
森を抜けて街に出るのも難しいというセリーナさんを一先ず村まで案内することにした。
「実は、魔法使いの友人と近くまで来たのですが森に入ってから逸れてしまいまして……」
と恥ずかしそうにセリーナさんは語る。
それならば、その友人も森の中で迷っているのではないかと俺は心配になった。
その友人も魔法使いならば、ゴブリンに出会わせたら大変だろう。
村の近くの森でゴブリンが出たなどと今まで聞いたことはなかったが、実際にセリーナさんが襲われていたので油断はできない。
そのことをセリーナさんに伝えると、セリーナさんは首を振って心配はないと言った。
「彼女はもともと王都の騎士団にいた人ですし、魔法が使えなくても剣を持っていますから大丈夫だと思います」
騎士団の人間ならばゴブリンが何匹出てこようとまず大丈夫だろう。
それよりも、本当に王都の騎士団が魔法を訓練に取り入れていたということを知って俺はできればその友人にも会ってみたいと思った。
剣を使いながら魔法も操るという戦い方に少し興味があったのだ。
そんなわけでセリーナさんを連れて森を抜け、村へと戻る。
すると、入り口のところに見知らぬ女性が立っていた。
服装は革鎧の軽装だが、腰には立派な剣が刺さっていた。
赤みがかった短い髪がなんとなく活発そうな雰囲気を醸し出している。
村の前に立つ彼女は遠くから俺のセリーナさんの姿を見つけると早足でこちらに歩き出した。
遠い時には気づかなかったが、近づくに連れて彼女表情が見えるようになる。
鬼のような目をしてこちらを睨みつけながら近づいてくる彼女に俺は少しギョッとしていた。
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