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魔法入門
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しおりを挟む二人を見送った後、俺はシャルベールさんの畑へと向かった。
本当はすぐにでも貰った本を開いて魔法を練習してみたかったが、そんなことはできない。
魔法に出会ったことで俺に起きた変化は「魔法を学んでみたい」と思い始めたことだけではないのだ。
今までの堕落した生活から抜け出したいと思ったのである。
騎士団を辞めて戻って来た俺を迎え入れてくれた母親。することのなかった俺に仕事を与えてくれたシャルベールさん。
なんやかんやで俺を受け入れてくれた村の人達のためにもこのままではいけないとそう思ったのだ。
「なんじゃトルマ、今日はやけに早いの。それに、えらく張り切っておる」
畑に顔を出した俺にシャルベールさんは意外そうな顔をした。
自分で決意したのはいいものの、それを人に伝えるのはなんだか気恥ずかしかったので「まぁね」と曖昧な返事をしておく。
それからシャルベールさんに言われた通りに畑の仕事を手伝い、それがひと段落した後で昨日と同じように森に入ることにした。
森に入ったのは罠の確認と薪を集めるため。
それから人知れずに魔法を練習するためである。
魔法が使えるようになるまで、村の誰にも練習していることは秘密にしているつもりだった。
実際にそれを目にした俺は違うが、魔法はまだまだ田舎には浸透していない文化だ。
辺境では王都で流行っている呪いや占いの類だと思っている人も多い。
つまるところ「お遊び」と捉えられかねないのだ。
「働きもせずに魔法なんて……」
考えすぎかもしれないが、なんだかそんな風に思われそうで隠しておくことにした。
森に入って罠を確認しようとして気がついた。
昨日回収した罠を再び仕掛けるのを忘れていたのだ。
セリーナさんがゴブリンに襲われているところを発見して、そのまま村に帰ったものだから罠は昨日薪を家に置いた時に全て一緒に置いて来てしまっていた。
魔法の本を貰って気が昂っていたために森に入るまで気がつかないとはなんとも間抜けな話である。
家まで取りに帰るか悩んだが、結局今日はいいかと考え直した。
今日の一番の目的は魔法を練習することである。
薪をある程度集めて帰れば文句は言われまい。
そう思い直して適当に薪を集める。
いつものように家の分とシャルベールさん達の家に配る分を確保してから俺は森のさらに奥へと進んだ。
森の奥には木々がぽっかりと生えていない小さい広場のようなところがあるのだ。
俺が子供の頃に見つけた遊び場で、村からもある程度離れているために滅多に人は来ない。
魔法を練習しようと思った時に、真っ先に頭に浮かんだ場所だった。
丸い大きな石に腰掛けて、セリーナさんに貰った本を開く。
最初の数ページは魔力に関する項目が載っていた。
セリーナさんによれば、ここは最近になって間違いが見つかった部分だから読まなくても良いということだったけど、念のため目を通しておく。
まずは、昨日森でこの本を拾った時に目を通した部分。
「魔力は幼少期の頃には魔法を使うことで発達する」というところだ。
ここが間違いだとわかり、成人した後でも魔力が増えることは確認されたみたいだが、幼少期の方がその成長速度は早いらしい。
その次のページには魔力に関する基礎知識が載っていた。
それによると、どうやら魔力というのは人間であれば必ずその身の中に宿している力のことを言うらしい。
しかし、それは小さな種のようなもので何もしなければ芽は出ず、身体の中の魔力の存在に気がつくこともないという。
魔法を使い続けることはこの種に水を上げることと同じであり、それによって種は徐々に大きくなるのだそうだ。
まさか身体の中に本当に種が埋まっているはずもなく、ただの比喩だろうが魔法を使い続けることで魔力の量を増やせるということはわかった。
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