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杖と貴族
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しおりを挟む「その杖は、本来なら跡取りと認められた者に贈られるはずのものでした」
セバスティが顔を伏せる。
つまり、何らかの理由で送られることは無くなったということだ。
「杖を作り終わってから発注が取り消された」という武器屋の店主タリムの話を思い出す。
「一体何があったんです?」
ユーサが尋ねるとセバスティは一層渋い顔をした。
簡単に口に出せるような話ではないらしい。
伝えるか伝えないかをひとしきり悩み、そして「依頼するために屋敷の中に案内したのだ」と心を決めてぽつりぽつりと語りだす。
その内容はゲームとはいえ、かなり重たいものだった。
「跡取り候補の一人、ラフト様が魔法の特訓の際に事故で亡くなられたのです」
セバスティは短くそう告げるとうなだれて深く息を吐いた。
双子の片割れ、ラフトが命を落としたのは先月のことらしい。
当主になるために魔法の訓練をしていた彼は、棍を詰めるあまりに一人で町の外に行き、魔法の暴発による事故を起こしたらしい。
ラフト派に属していた貴族の一人が彼の跡を追い、いつも魔法の訓練をしている場所にたどり着いた時にはそこは一面火の海になっていた。
死体は見つからなかった。
骨も残さず全てが灰になったのだ。
「まだ生きているのではないか」
と言うものもいたが、
「豪華の中で叫ぶラフト様の声を確かに聞いた」
と駆けつけた貴族が証言する。
貴族たちは大いに荒れた。
特にラフト派に入っていた貴族たちがだ。
「何故命をかけてでも助け出さなかった」と駆けつけた貴族を非難する者もいれば、「これは何かの策略に違いない」と暗殺を疑う者までいた。
そこにさらに混乱の燃料をばら撒いたのが双子の弟、レイトである。
「家督は本来なら長兄である兄さんが継ぐべきだった。その兄さんが死んだ今、僕も簡単に跡を継ぐと言うわけにはいかない。少なくとも、兄さんよりも魔法の才能があると思えるまでは……」
傍目から見ると魔法の才能が高かったのはラフトの方だ。
レイトはそう宣言してから一人で魔法の訓練をするようになり、自分を見越しの上に乗せて担ぎ上げようとする貴族たちも遠ざけているのだと言う。
「旦那様は宣言を取り下げました。もう跡目争いをする必要はありませんから。ただ、レイト様にはまだ跡を継ぐ決心はついておらず話は平行線に。仕方がなく、発注した杖をキャンセルしたという次第でございます」
セバスティは深々と頭を下げた。
取り消しの連絡をしたのは彼のようだ。
当主の指示だった。
たとえレイトがそのまま跡を継ぐ決心をしても状況を鑑みて杖を渡すのは不謹慎だと考えたらしい。
「それで、依頼というのは……」
ユーサが尋ねる。
セバスティの話の中には彼の頼みたいことの内容がない。
話を聞く限りでは望まれた形ではなかったものの、跡目問題に一応の区切りはついている。
サイドクエストが出現したということはまだ他にも抱えている問題があるはずだ。
「お願いしたいのはレイト様のことです。今もお一人で町の外に行き、モンスターを相手に無茶な魔法の訓練を続けています」
このままではラフトの二の舞になる、とセバスティは考えているようだった。
護衛をつけようにもレイトは頑なにそれを拒否した。
「兄さんを殺したかもしれない連中を近くに置いて置けない」
そう言って他の貴族たちを遠ざけ、屋敷の使用人たちですら信用していない。
「そこで、貴方の力をお借りしたいのです。外部の冒険者の方ならレイト様も多少は気を許すでしょう。もう二度と、あんな不幸な事故が起きないようにレイト様の護衛を引き受けてくださいませんか」
セバスティはそう言って紙に依頼の報酬を記載する。
かなりの額だ。少なくとも昨日達成したサイドクエストでレストに貰った金額の三倍はある。
これだけあれば何か移動用の魔法道具を買えるかもしれない。
そう考えたユーサはセバスティからの依頼を受けることにした。
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