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杖と貴族
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ユーサは一軒の立派な屋敷の前に立っていた。
大きな門だ。
その向こうに庭が広がっていて、さらに向こうに建物がある。
アストルにも平民区と貴族区があり、今いるのは貴族区の方。
周囲にも貴族が住んでいる屋敷が並んでいるが、目の前の屋敷はそのどれよりも目立って見えた。
「バステル家って大きな貴族が少し前に跡取り問題で揉めたはずだ」
酒場でモンドから聞いた話を思い出す。
何でも、バステル家には双子の息子たちがいてその子たちが次の当主問題で揉めたらしい。
モンド曰く、その揉め事に魔法が関連しているらしい。
残念ながらそれ以外に思い当たることはないと彼が言うので、サイドクエストが出現するとしたらここだろう、とユーサは目星をつけていた。
違ったらまた別の情報を集めないとな。
そう思いつつ屋敷の様子を伺う。
現実世界のようにインターホンがあって、それ押せば内部人間と会話ができるなんてわけではない。
どうやって中の人を呼べばいいのか戸惑っていると、屋敷の扉が開く。
細身のスラッとしたスーツに身を包んだ男性だ。
それ相応に歳を重ねているように見えるが、姿勢はシャンとしていて品格が窺える。
「当家に何か御用ですかな」
門の手前まで来た男性がユーサに尋ねる。
黒い鉄製の柵越しにこちらを訝しんでいるような視線だった。
まさか「魔法が関係する跡取り問題があったそうですね」などと聞くわけにもいかず、代わりにユーサはインベントリの中から例の杖を取り出して男性に見せた。
「このような物を手に入れたんですが、何か心当たりはありますか?」
この屋敷の貴族が杖を発注した貴族で、サイドクエストがあるとするのならこれだけで何か話が進むはずだ。
ユーサの目論見通り、男性は一瞬目を見開いた。
明らかに何か知っている様子で微かに動揺を見せる。
「失礼ですが、貴方は?」
「ただの冒険者です。何かお困りごとがあるのではないか、と思い伺いました」
男性は少し悩んでいる様子だった。
少し間を空けて、ようやく決心したのか門を開ける。
「失礼致しました。私は当家執事のセバスティと申します」
深々と頭を下げて名乗るセバスティにユーサも自分の名前を返す。
セバスティはユーサを屋敷の中まで案内した。
客間に通され、温かいお茶でもてなされる。
当主を呼ぶのかと思ったが、セバスティはそのままユーサの前のソファに腰掛けた。
「まず、最初に言っておきますがこの話はどうかご内密に。貴方を実力の冒険者だと見込んである以来をしたいのです」
よし。
とユーサは内心で喜んだ。
どうやらサイドクエストを発生させることに成功したらしい。
クエスト一覧の画面を開くと「高貴な見習い魔法使い」というサイドクエストが新たに追加されていた。
セバスティの依頼はまず、バステル家で起こったという跡取り問題の説明から始まった。
候補となっている双子はまだ十二歳。本来なら跡取りを決めるにはまだ早いが、ある日突然当主がこう言い始めた。
「二人のうち、魔法の適正が高くより優れた魔法使いの才能があったものを次の当主にしたい」
これに何よりも反応したのは双子の息子たちでも、屋敷の住人でもなく、外部の貴族たちだった。
バステル家というのはアストルではかなり力の強い貴族らしい。
それは屋敷の規模から見てもよくわかるが、アストルに住む他の貴族たちはこれを好機だと考えたようだ。
跡取り候補の双子のどちらかに取り入り、見事に当主の座を勝ち取らせれば、その代では自分たちが優遇される。
そんな野心に満ちた貴族たちによって、双子それぞれに派閥のようなものが作られ、跡取り問題はあれよあれよという間に大きくなっていったらしい。
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