妖精猫は竜の背中で爪を研ぐ

六山葵

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竜と猫

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マオと出会ってから一週間が経過した。
この一週間でマオはどうも一回り大きくなった気がする。

リディア曰く「妖精猫は成猫になるまでの時間が早い」ということらしい。
成長したと感じるのは身体だけではなく、知能の方もだった。

「ごはん」や「さんぽ」などの短い単語の意味を理解し始めたらしく、私が「マオ」と呼ぶと嬉しそうに駆け寄ってくるようになった。

まだ言葉を話せるようにはなっていないが、それも時間の問題だろう。

「あんた、すっかり父親らしい面構えになったね」

リディアの家にマオ用のミルクを取りに来ると彼女が私を見てそう言った。

「父親? 違うな。私はただの保護者だ。あの子が一人前になるまでの間世話をしているに過ぎない」

私がそう言っても彼女はにやにやと笑っているだけだった。
どうにも腹が立つ。

人間の姿に変身して彼女の小屋に入ると先客がいた。

「あ、イグさん。おはようございます」

そう言ってリディア特性のお茶を啜っているのはレンリである。
私が街でドラゴンの姿をさらけだし、混乱を生み出してしまった日の数日後、彼女は自らリディアの家を訪ねて来たらしい。

手にはミルクの詰まった箱を抱え、不安そうにしていたとリディアが語る。

「元々この子の婆さんとは深い知り合いなんだよ。それで私のことも知っていたんだね」

「はい。イグさんが飛び立っていった方向を見て、もしかしたら……と思って」

すっかり怯えさせてしまったと私は彼女に申し訳なく思っていたが、私に会うと彼女も頭を下げた。

「怖がってしまってすいません。でも、驚いただけなんです。ドラゴンさんを見るのは初めてだったので……。それで、もしよければ……」

再開した時、レンリはそう言って私の方口に乗るマオをちらちらと見ていた。

それだけで彼女が子猫に会いに来たのだとわかる。

「マオちゃんにご飯も持ってきましたから。ほら!」

そう言って箱を差し出す彼女に渡しはとても感謝した。
正直、ご飯問題は一番の懸念点だった。

リディアに頼もうとも思ったが、彼女の言う通り「年老いた者を使いぱしり」にするのは気が引ける。かといって私が行ったらまた騒ぎになりそうだ。

彼女が尋ねて来たのはそんな時だったので本当に助かった。

そんな話を聞いたレンリは「力になりたい」と言ってくれて、一週間に一度こうしてリディアの家にミルクを配達してくれることになったのだ。

私が人間の姿に変身したのも、まだドラゴンの姿に慣れていない彼女のためを思ってのことである。

「それで、街の様子はどうだ」

リディアに出されたお茶に口をつけながらマオと楽しそうに遊ぶレンリに尋ねる。
彼女はやや上を向き、何か考えるようなそぶりを見せてから

「うーん、そんなに騒がしくはないですね」

と呟いた。

その横でリディアがほっと息を吐く。

「まったく。いい加減もう大丈夫だろうと町に行かせてみたらこれだ。私の見立てが甘かったかね」

彼女の嫌みが私の胸の内をぐさぐさと指す。数十年前に私が人里に下りた時のことを言っているのだ。
マオの前足を両方とも持ち上げて、リズムに乗ってダンスを躍らせていたレンリが不思議そうな顔をする。

「少し前にもこのバカはやらかしたのさ。あの時は討伐体を出すなんて騒ぎになって、王都からも騎士が呼ばれて大変だった」

それは、私が勇者と共に魔王を倒してしばらくしてからのことである。
どれ、久しぶりに勇者の顔でも見に行ってやるかと重い腰を上げたところ、勇者は頭の昔に死んでおり、私の姿を覚えている物も誰もいなかった。

私の姿を見た人間は大混乱になり、襲ってきたと勘違いして攻撃してきたのである。

「襲われたならこいつも逃げればいいのに、下手にやり返すもんだから余計に大事になってね。王国は討伐体を組もうとするし、こいつは迎え撃とうとするしで大変だった」

何を隠そうその時に双方をいさめてくれたのがこのリディアである。
彼女は事の顛末をレンリに説明し、レンリはやや引き気味に苦笑いをしていた。
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