妖精猫は竜の背中で爪を研ぐ

六山葵

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竜と猫

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「リディアさんってそんなにすごい人だったんですね」

持ってきたミルクを哺乳瓶に入れ、マオに飲ませながらリディアがそんなことを言った。
リディアが王国に働きかけ、私との諍いを止めたことを言っているのだろう。

「そりゃ、まぁね。こいつや勇者と一緒に魔王を倒したし、こいつと違ってその後も王国にたまに顔を出していたからね」

そういう彼女の顔はどことなく誇らしげだった。
途端にレンリが「えっ」と声を上げる。

リディアが魔王を倒した四人の英雄の内の一人だと知って驚いたらしい。

「イグさんだけじゃなくて、リディアさんも勇者様と一緒に旅を?……ひょっとして王国に飾られている像の中の美しいエルフの女性って……」

「私さね」

と今度は不満そうにリディアが答えた。
私は思わず笑ってしまう。

「そうか、気づかなかったか。確かに今では見る影もない……」

言い切る前に殺気を感じた。
硬いゲンコツが頭にぶつかり、私は涙目になる。

「余計なこと言うんじゃない。だいたい、あんたの像だって実物とは似ても似つかないんだからね」

リディアが声を荒げた。
まさか、、私の像もあるとは。

勇者と別れてから王国に立ち寄ったことはない。人里に下りた時も、人間に襲われていてそんな暇はなかった。

レンリの方を見ると彼女は気まずそうに顔を伏せた。

「確かに……イグさんも言われるまでは像と同じ人物とは思えませんでした」

気まずそうに彼女が言う。
一体、どんな像だと言うのか。気になるな。今度王国に見に行ってみるか。

「とにかく、今回は大事にならなそうでよかったね」

とリディアが話をまとめる。

レンリの話では私が街に行って姿を現した後、街中は騒然としたらしい。
「ドラゴンが襲ってきた」と騒ぎ立てる者もいたが、衛兵が静かになだめていった。

マオを攫った連中も衛兵に伝わり、そのうち大事にする必要はないと王国からの通達もあった。

とにかく、今の時点で「ドラゴンを退治しよう」なんて話は街中に広まってはいない。
皆気にはなっている物の、通達通りに平静を装って普段通りの生活を送っているらしい。

「王国の方もしっかりと歴史を受け継いでいるらしいね。あんたも見習って偶には人里におりることだね。滅多に行かないからこうして騒ぎになるんだ」

とリディアが私に忠告する。
耳が痛い。

私の傍で食事を終えたマオが大きくあくびをする。

「さて、私はそろそろ行かねば。この子も眠たいようだし」

助かったとばかりに話を変えると、レンリが思い出したように慌てて席を立つ。

「そうだ、これお祖母ちゃんからイグさんに。修理代のおつりだそうです。それから、魔法生物に関して載っている本も。少しだけど妖精猫についても載っているから役に立つかと」

そう言って財宝と本を差し出す。
店を壊したお詫びにと渡した財宝なので返す必要はない。
それに、本を貰っても字が読めないので使い道がない。

私はそう言ったが、それでもレンリは強引に私に持たせた。それから、荷物の中から本をもう一冊取り出し、魔法生物の本の上に重ねて置いた。

「そうだろうと思ってこれも。人間の字を勉強する本です。マオちゃんを育てていくならこれからきっと役に立つはずです。お代はいりませんからぜひ受け取ってください」

言葉に有無を言わせぬ圧がある。
こんなにぐいぐい来る子だっただろうかと頭をひねりながら、彼女の言うことにも一理あると私はありがたく受けと取った。

「これから寒さがもっと厳しくなるんだ。風邪をひかないように気を付けるんだよ」

家を出て飛び立とうとするとリディアがそんなことを言った。
余計な心配だ。ドラゴンには熱袋がある。これしきの寒さで風邪をひくはずがない。

そう返すとリディアは「アンタじゃない」とため息を吐いた。

「マオのことさ。そろそろ太くて厚い毛が生えてくるだろうけど、油断するんじゃないよ。ちゃんと温めておやり」

そう言ってマオを包んだ毛布を整える。
彼女はこんなにも世話焼きだっただろうか。

そんな疑問を抱えつつ、私は家を後にした。
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