妖精猫は竜の背中で爪を研ぐ

六山葵

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竜と猫

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次の週も、またその次の週もレンリはミルクをリディアのところに配達してくれた。
リディアは「なんで私の家を中継地点にするんだい」と小言を言ったが、本気で嫌がってはいないようだ。

人間の少女にレイテオ山の洞穴まで配達してもらうのは難しい。かといって、私が街に行くのもリスクがある。
彼女もそれをわかっているから、文句を言いつつもダメとは言わないのだ。

ミルクを受け取りに山を下りる時を除いて、私とマオは共に洞穴の中で過ごした。

周囲の森から薪を集め、それに火を灯して人間の様に暖を取る。ドラゴンの私には不要だが、マオはとても温かそうにしていて、火の傍を離れなくなった。

洞穴の中でも私は人間の姿に変身して過ごすことが増えた。

焚き火のための薪を集めるのも、それを積み上げるのも人間の手の方が都合がいいからだ。

それだけでなく、人間が使う想定で作られた物を使用するときにも使い勝手がいい。
哺乳瓶でマオにミルクを与えることや、レンリに貰った本を読むときがそれにあたる。

文字の勉強の本を膝の上に置き、机代わりにどんと置いた岩の上に魔法生物の本を広げて読み解くのが私の日課になっていた。

「おお、マオ。この本によるとお前はもう少しで言葉を話し始めるらしいぞ」

レンリの祖母がくれた本には様々な魔法生物の育成方法が書かれている。魔法生物をペットとして飼いたい人間のために作られたものらしい。

覚えたての文字で内容を読み解いた私は嬉しそうにそれをマオに伝えてやる。
言葉の意味を理解していないのか、マオは首を傾げて「にゃー」と鳴くばかりである。

本には他にもためになる情報が記載されていた。

最近、マオのミルクを飲む量が目に見えて減っていたので気をもんでいたのだが、本によればそれも成長の証らしい。

「なるほど、離乳の時期か。そのへんはドラゴンの生態とそう変わらないのだな」

本に目を通しながら呟く。
傍らで、マオが焚き火用に集めた木片ををかじっている。

しっかりとした歯が生え、食べ物を食べる準備が始まったようだ。

妖精猫は雑食で、森の木の実や果物だけでなく肉も食べる。
私は森で採集をしたことはないが、狩りならばお手の物だ。

自分の食い扶持のために毎日肉を集めているのだから、マオの分を用意することなど容易い。
ミルクを準備するよりも気が楽だ。

しっかりとした栄養を取らせるには肉だけでなく木の実や植物なんかも必要らしいが、とりあえず今は肉だけでいいだろう。

私はマオを肩に乗せて森に狩りに行くことにした。

人間の姿のまま山を下りる。
飛んでいった方が早いのだが、それではマオに冷たい風が当たってしまう。

それに、レンリの言っていたことを思い出したのだ。

「マオを育てていくのなら今後人間の文字が役に立つ」と確かに、魔法生物向けの餌や道具を扱う人間の店にはこれから世話になることが増えるだろう。
レンリに言えば用意してくれるかもしれないが、彼女に頼ってばかりなのも気が引ける。そのために人間の姿で行動することにも慣れておこうと思ったのだ。

何しろ人間の姿で戦ったことがない。マオを連れて町にいる時にまた襲われても、今のままではドラゴンの姿に戻るしかない。
それではまた騒ぎを起こしてしまうので、人間のまま戦えるようにならなければいけない。

まさか自分がこんなことを思うようになるなんて、と自分でも意外に思う。
少し前までの自分ならそもそも人間の町に近づこうなんて考えなかった。襲われても彼らの騒ぎなど気にすることなく変身を解いていただろう。

わざわざか弱い人間の姿に変身して戦うなんて意味がない。きっとそう考えていたはずだ。

しかし、マオのためならば関係ない。

それがこの子を守ることに繋がるのなら、苦にはならなかった。
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