妖精猫は竜の背中で爪を研ぐ

六山葵

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竜と猫

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異形の化け物の正体は地竜である。
分類的には私と同じドラゴン族だが、知性低く代わりに凶暴性が高い。

しかもこの地竜、どこか様子がおかしい。

目は血走り、赤く染まっていて口からは泡を吹いている。
一目で正気のそれではないとわかるいでたちだった。

人間を助ける義理はない。
しかし、このままではマオが危ない。

私は魔法の弓を出し、それをめいいっぱい引き絞った。

先ほどシカに放った時に矢が逸れたのを参考にして狙いをつける。

指を離すと矢は地竜の左目に命中した。

地竜が呻き声を上げた。
人間の姿とはいえ、最強のドラゴンである私の魔法だ。

威力は相当なものだろう。

正面に立っていた少年が驚いた様子で振り返る。
よほど切羽詰まっていたのだろう。私の接近に気づいていなかったようだ。

「助かりました」

少年はそう言って、隙のできた地竜目掛けて杖を振った。

天空から凄まじい量の光の矢が降り注ぎ、それが地竜を串刺しにする。

ええ……。

私は思わず声を漏らした。

私の矢など比較にもならない。
凄まじい威力の魔法だったからだ。

いや、まぁ本気を出せば私もこれくらいはできるのだが、それでもこの少年の魔法には目を見張るものがある。

地竜は少年の魔法に耐えきれず、あっという間に絶命してその場に倒れ込んだ。

「……ふう」

一仕事終えた、と言うように額の汗を拭いながら少年が息を吐く。

それから私の方を振り返って

「助太刀感謝します。あの一撃で隙を生んでくれなければ危なかったかもしれません」

と頭を下げる。

嘘をつけ、と私は内心で思った。
あの魔法。私でさえ呆気に取られる凄まじい魔法だった。

私の一撃などなくとも簡単に地竜を倒せたはずだ。

只者ではない。

少し警戒を示した私を気にもとめず、少年はマオの元に近づいて膝を曲げた。

「君もありがとうね」

そう言って頭を撫でるとマオが気持ちよさそうに鳴く。

これは断じて嫉妬などではないが、その姿に私は少年への警戒心を強めた。

私の接近には気づいていなかったのに、マオには気づいていたようだ。

私が訝しんでいると、

「この子が危険を知らせてくれたから、地竜にいち早く気づくことができたんです。知らせがなければ、私はともかく彼は巻き込まれていたかもしれない」

少年がそう説明してくれる。

彼、というのは地竜を見て腰を抜かしていた男のことだ。

「実はある方を探していまして、森に詳しい街の人間に案内を頼んだのです」

その案内が男のことだと少年は言った。

「でも悪いことをしました。危険な目に合わせるつもりはなかったんですが」

そう言ってまだ腰を抜かしている男に手を貸して立たせる。
それから、懐からいくらかの金貨を取り出して男に持たせた。

「もう帰っていいですよ。今来た道をまっすぐに帰れば安全に街まで戻れますから」

少年がそう言うと男はようやく我に帰り、私と少年に何度も頭を下げてから街の方へ帰って行った。

「よかったのか?」

男の背中を見送った後、私が少年に尋ねる。

案内役、と言っていたがあの男がいなくても困らないのだろうか。

もしや……私を代わりにしようとしているのか。

それならダメだ。
私はこれからマオに肉を獲ってやらなければならないし、それに森に詳しいわけでもないからな。

頼ってもらって悪いが、力にはなれない。

私がそんなことを考えていると少年はにっこりと笑って

「いいんです」

と言った。その視線がジーッと私を見つめる。

やはり、私に案内役を期待しているようだ。

しかし、その後に続く言葉は私の予想とは違った。

「探していた方はもう見つけましたから」

「なに?」

少年が指をすっと指し示す。
その指が捉えているのは……私だ。

「僕はあなたを探していたんですよ。イグ・ドラニケル・ソウルハートさん」

少年の穏やかな瞳が私にはどうも獲物を狩る狩人と目に見えた。
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