妖精猫は竜の背中で爪を研ぐ

六山葵

文字の大きさ
16 / 24
竜と王国

16

しおりを挟む
「あ、当たり前だろう。そう遠くないとはいえ、マオに一人で森をうろつかせるわけにはいくまい」

私は慌てて話を逸らす。

決してビビったわけではないが、この顔をしたリディアに痛い目にあったことがある。

彼女はフッと視線をやわらげそれから小さくため息をついた。
どうやら本気で怒ったわけではないらしい。

「相変わらず過保護だね。今のあの子ならこんな森程度どうってことないだろうに」

どの口が言う――
とはさすがの私も言えなかった。

家の中からマオが顔を出し、

「どうしたの」

と不思議そうに尋ねる。

私は

「何でもない」

と返事をして、そのままでは入れないので人間の姿に変身してから家の中に入った。

「そうだ、マオ。そうして自分の魔力を感じてごらん、そうしたら次はどんな魔法を使いたいのかイメージするんだ」

家の中に入るなり、二人は魔法の特訓を始めてしまう。
手持無沙汰になった私は出されたお茶を啜りつつ、その様子を眺めた。

正直、リディアがここまで面倒見のいい女性だとは思っていなかった。エルフという長命種で、魔法の才能もある彼女が世間では有名な魔法使いの一人であることは知っている。
勇者と共に旅をして、一緒に戦ってきた中なので彼女の実力にも疑う余地はないだろう。

しかし、私の記憶が確かなら彼女はたびたび訪ねて来た何人もの弟子志願者をすごい剣幕で追い返していたはずだ。

「私に魔法を習いたきゃ、それ相応の才能ってもんを開花させてから出直しな」

と怒鳴り散らしていたのを覚えている。

そのリディアがまるで子供のままごとに付き合うかのようにマオに魔法を教えているのだから、人間というのはわからないものだ。……正確には人間ではなくエルフだが。

そんなことを考えていると不意にリディアがこちらを振り向く。
一瞬考えを読まれたのかと思ったがそうではないらしい。

「あんたも偶にはこうして訓練したらどうだい。今なら私が直々に教えてやるよ」

その提案を鼻で笑い飛ばす。

彼女に魔法を教わるなんて冗談ではない。どうせことあるごとに叱咤して、ぐちぐちと小言を言われるのがオチだ。
そんなのは育児に関してで間に合っている。

「いつでもドラゴンの姿でいられるんならいいけど、そういうわけにもいかないだろう。今度王国に招待されたと言っていたじゃないか」

とリディアが言う。

「魔法に関してはあまりすごくないんですね」

そんな失礼な言葉を残していったのは半年前のソーヤである。
彼は去り際に思い出したかのようにそう言ったのだ。

「そんなわけはない。私は勇者と共に魔王を倒したドラゴンだぞ」

私がそう反論するとソーヤは驚いたように頷いた。

「へぇ、伝説のあのドラゴンもイグさんのことだったんですか。長生きだなぁ。……でも王国に伝わる伝説ではドラゴンは魔法ではなく、爪や牙。それから口から吹く炎の息吹で戦ったと聞きましたけど」

そんなわけはない。
確かに爪や牙で魔物や魔族を倒したし、魔王に大きなダメージを与えたのも私の炎だ。
だが、魔法だって大きな貢献をしたはずである。

そう主張したが、ソーヤは「へー」というだけであまり信じてはいない様子だった。

それが悔しくて私は彼が帰ってからリディアを訪ね、彼女に確認したのである。

すると帰って来た返答はこうだった。

「何を馬鹿なこと言ってんだい。あんた碌に攻撃魔法を使えないじゃないか」

衝撃的だった。まさか共に戦った仲間からもそんな評価だったとは……。
試しに彼女を真似て生み出した弓の魔法を見せてみたが、彼女はそれを鼻で笑い、

「弟子なら破門レベル」

と言い放った。

「だいたい魔法っていうのは地道な努力と研鑽の上で強くしていくものなんだ。あんたみたいに魔力の量は多くても真面目に修練もしないようなやつの魔法が強いわけないじゃないか」

さらにとどめを刺すような彼女の言葉に私はようやく、自分の魔法が大した脅威ではなかったことを自覚した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...