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竜と王国
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「あ、当たり前だろう。そう遠くないとはいえ、マオに一人で森をうろつかせるわけにはいくまい」
私は慌てて話を逸らす。
決してビビったわけではないが、この顔をしたリディアに痛い目にあったことがある。
彼女はフッと視線をやわらげそれから小さくため息をついた。
どうやら本気で怒ったわけではないらしい。
「相変わらず過保護だね。今のあの子ならこんな森程度どうってことないだろうに」
どの口が言う――
とはさすがの私も言えなかった。
家の中からマオが顔を出し、
「どうしたの」
と不思議そうに尋ねる。
私は
「何でもない」
と返事をして、そのままでは入れないので人間の姿に変身してから家の中に入った。
「そうだ、マオ。そうして自分の魔力を感じてごらん、そうしたら次はどんな魔法を使いたいのかイメージするんだ」
家の中に入るなり、二人は魔法の特訓を始めてしまう。
手持無沙汰になった私は出されたお茶を啜りつつ、その様子を眺めた。
正直、リディアがここまで面倒見のいい女性だとは思っていなかった。エルフという長命種で、魔法の才能もある彼女が世間では有名な魔法使いの一人であることは知っている。
勇者と共に旅をして、一緒に戦ってきた中なので彼女の実力にも疑う余地はないだろう。
しかし、私の記憶が確かなら彼女はたびたび訪ねて来た何人もの弟子志願者をすごい剣幕で追い返していたはずだ。
「私に魔法を習いたきゃ、それ相応の才能ってもんを開花させてから出直しな」
と怒鳴り散らしていたのを覚えている。
そのリディアがまるで子供のままごとに付き合うかのようにマオに魔法を教えているのだから、人間というのはわからないものだ。……正確には人間ではなくエルフだが。
そんなことを考えていると不意にリディアがこちらを振り向く。
一瞬考えを読まれたのかと思ったがそうではないらしい。
「あんたも偶にはこうして訓練したらどうだい。今なら私が直々に教えてやるよ」
その提案を鼻で笑い飛ばす。
彼女に魔法を教わるなんて冗談ではない。どうせことあるごとに叱咤して、ぐちぐちと小言を言われるのがオチだ。
そんなのは育児に関してで間に合っている。
「いつでもドラゴンの姿でいられるんならいいけど、そういうわけにもいかないだろう。今度王国に招待されたと言っていたじゃないか」
とリディアが言う。
「魔法に関してはあまりすごくないんですね」
そんな失礼な言葉を残していったのは半年前のソーヤである。
彼は去り際に思い出したかのようにそう言ったのだ。
「そんなわけはない。私は勇者と共に魔王を倒したドラゴンだぞ」
私がそう反論するとソーヤは驚いたように頷いた。
「へぇ、伝説のあのドラゴンもイグさんのことだったんですか。長生きだなぁ。……でも王国に伝わる伝説ではドラゴンは魔法ではなく、爪や牙。それから口から吹く炎の息吹で戦ったと聞きましたけど」
そんなわけはない。
確かに爪や牙で魔物や魔族を倒したし、魔王に大きなダメージを与えたのも私の炎だ。
だが、魔法だって大きな貢献をしたはずである。
そう主張したが、ソーヤは「へー」というだけであまり信じてはいない様子だった。
それが悔しくて私は彼が帰ってからリディアを訪ね、彼女に確認したのである。
すると帰って来た返答はこうだった。
「何を馬鹿なこと言ってんだい。あんた碌に攻撃魔法を使えないじゃないか」
衝撃的だった。まさか共に戦った仲間からもそんな評価だったとは……。
試しに彼女を真似て生み出した弓の魔法を見せてみたが、彼女はそれを鼻で笑い、
「弟子なら破門レベル」
と言い放った。
「だいたい魔法っていうのは地道な努力と研鑽の上で強くしていくものなんだ。あんたみたいに魔力の量は多くても真面目に修練もしないようなやつの魔法が強いわけないじゃないか」
さらにとどめを刺すような彼女の言葉に私はようやく、自分の魔法が大した脅威ではなかったことを自覚した。
私は慌てて話を逸らす。
決してビビったわけではないが、この顔をしたリディアに痛い目にあったことがある。
彼女はフッと視線をやわらげそれから小さくため息をついた。
どうやら本気で怒ったわけではないらしい。
「相変わらず過保護だね。今のあの子ならこんな森程度どうってことないだろうに」
どの口が言う――
とはさすがの私も言えなかった。
家の中からマオが顔を出し、
「どうしたの」
と不思議そうに尋ねる。
私は
「何でもない」
と返事をして、そのままでは入れないので人間の姿に変身してから家の中に入った。
「そうだ、マオ。そうして自分の魔力を感じてごらん、そうしたら次はどんな魔法を使いたいのかイメージするんだ」
家の中に入るなり、二人は魔法の特訓を始めてしまう。
手持無沙汰になった私は出されたお茶を啜りつつ、その様子を眺めた。
正直、リディアがここまで面倒見のいい女性だとは思っていなかった。エルフという長命種で、魔法の才能もある彼女が世間では有名な魔法使いの一人であることは知っている。
勇者と共に旅をして、一緒に戦ってきた中なので彼女の実力にも疑う余地はないだろう。
しかし、私の記憶が確かなら彼女はたびたび訪ねて来た何人もの弟子志願者をすごい剣幕で追い返していたはずだ。
「私に魔法を習いたきゃ、それ相応の才能ってもんを開花させてから出直しな」
と怒鳴り散らしていたのを覚えている。
そのリディアがまるで子供のままごとに付き合うかのようにマオに魔法を教えているのだから、人間というのはわからないものだ。……正確には人間ではなくエルフだが。
そんなことを考えていると不意にリディアがこちらを振り向く。
一瞬考えを読まれたのかと思ったがそうではないらしい。
「あんたも偶にはこうして訓練したらどうだい。今なら私が直々に教えてやるよ」
その提案を鼻で笑い飛ばす。
彼女に魔法を教わるなんて冗談ではない。どうせことあるごとに叱咤して、ぐちぐちと小言を言われるのがオチだ。
そんなのは育児に関してで間に合っている。
「いつでもドラゴンの姿でいられるんならいいけど、そういうわけにもいかないだろう。今度王国に招待されたと言っていたじゃないか」
とリディアが言う。
「魔法に関してはあまりすごくないんですね」
そんな失礼な言葉を残していったのは半年前のソーヤである。
彼は去り際に思い出したかのようにそう言ったのだ。
「そんなわけはない。私は勇者と共に魔王を倒したドラゴンだぞ」
私がそう反論するとソーヤは驚いたように頷いた。
「へぇ、伝説のあのドラゴンもイグさんのことだったんですか。長生きだなぁ。……でも王国に伝わる伝説ではドラゴンは魔法ではなく、爪や牙。それから口から吹く炎の息吹で戦ったと聞きましたけど」
そんなわけはない。
確かに爪や牙で魔物や魔族を倒したし、魔王に大きなダメージを与えたのも私の炎だ。
だが、魔法だって大きな貢献をしたはずである。
そう主張したが、ソーヤは「へー」というだけであまり信じてはいない様子だった。
それが悔しくて私は彼が帰ってからリディアを訪ね、彼女に確認したのである。
すると帰って来た返答はこうだった。
「何を馬鹿なこと言ってんだい。あんた碌に攻撃魔法を使えないじゃないか」
衝撃的だった。まさか共に戦った仲間からもそんな評価だったとは……。
試しに彼女を真似て生み出した弓の魔法を見せてみたが、彼女はそれを鼻で笑い、
「弟子なら破門レベル」
と言い放った。
「だいたい魔法っていうのは地道な努力と研鑽の上で強くしていくものなんだ。あんたみたいに魔力の量は多くても真面目に修練もしないようなやつの魔法が強いわけないじゃないか」
さらにとどめを刺すような彼女の言葉に私はようやく、自分の魔法が大した脅威ではなかったことを自覚した。
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