妖精猫は竜の背中で爪を研ぐ

六山葵

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竜と王国

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それ以来、リディアは顔を合わせる度に私に魔法を習うように進めてくるようになった。それを私は頑なに断り続けている。

「まったく……そんなんでマオがもし襲われたらどうするつもりなんだかねぇ」

断った後に続く彼女の小言も一連の流れの一つである。

人間の街に行くとき、ドラゴンの姿では大騒ぎになってしまうため人間に変身しなければならない。もしその時にマオが襲われたら私は魔法でこの子を守らなければいけないため言っていることには一理ある。

ただ、私も維持だけで彼女に教わるのを断っているわけではない。

「魔法ならもう既に教わる相手を見つけたのだ。実際、週に一度その者に教えを乞い、もうずいぶんと上達した」

私がそう言うとリディアの長い耳がピクリと動いた。

「へぇ、私以上に適任の魔法使いがこの国にいるのかねぇ?」

そういう彼女の顔がどこか引き攣って見える。

「リディア以上にかはわからぬが、その者は王国の宮廷魔導士だと言っていた。それなりに力のある者でなければそんな地位には居れまい」

そう。私が魔法を習っているのはソーヤである。
リディアに魔法の未熟さを指摘された私は彼女に教わるのが嫌ですぐにソーヤを追いかけた。

どうにか彼が街にたどり着く前に追いつき、週に一度レイテオ山の洞穴に来て魔法を教えて貰う約束を取り付けたのである。

「王国の宮廷魔導士?」

私の言葉にリディアの眉根がピクリと動く。
心なしか怒っているようにも見えた。

「へぇ、も偉くなったもんだねぇ。まさか私から弟子を奪うとは……」

その時、タイミングよく家の扉が開かれた。

「すいません。遅くなりました。頼まれてた物持ってきましたよ」

そう言って入って来たのは街の魔法道具店の店員、レンリである。

「お姉ちゃん!」

マオがそう言って嬉しそうに飛びついたので部屋の中に充満した息を飲むような雰囲気が少し軽くなる。

マオがミルクを卒業した後もレンリとの関係は続いている。
もうミルクを仕入れてもらう必要は無くなったが、本当の姉妹のように仲良くなった二人を引き離すことができなかった。

特に、レンリに会いたいと寂しがるマオを前にしてはもう彼女に用がなくなったとは口が裂けても言えなかった。

そこで、ミルクの代わりに妖精猫に関する本やマオが洞穴で退屈しないようにおもちゃを仕入れて貰うように頼み、配達を続けて貰っているのだ。

なにはともあれレンリの登場に助けられた。
あのままだと、よくわからないうちに話が良くない方へ進んでいた気がする。

そう思っていたのだが、私の考えは甘かったようだ。

リディアは入って来たレンリを見てニヤッと笑う。

「ちょうどいい。今度こいつが招待されて王国に行くんだ。あんたも来な」

と突然レンリを誘い出す。
彼女は状況を飲み込めずにあたふたとしていたが、

「む、無理ですよ」

と何とか言葉をひねり出した。

「王国に招待って……私そんな身分じゃないですよ。リディアさんやイグさんみたいなすごい人ならわかりますがただの魔法具店の娘には荷が重いです」

と彼女は至極まっとうな反論を述べるが、それはリディアの

「いいから来な」

という言葉に一喝された。
いつの間にか、リディアもついてくる方向に話が流れている。

「招待されていないのについて来たのが私だけなら浮いちまうが、二人もいればごまかせるだろう。その王宮魔導士とやら、私がこの目で見定めてやるよ」

変なスイッチが入ってしまったらしい。リディアは不気味に笑っている。

暴論とも言える意見に丸め込まれ、レンリは少し涙目になっていた。
その横でマオがリディアの笑い方を真似している。

混沌とした空間に置いてきぼりにされつつ、私は

「何か良くないことを言ってしまったらしい」

と少し反省していた。
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