妖精猫は竜の背中で爪を研ぐ

六山葵

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竜と王国

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私を王国に招待したのは現国王である。
だが、それを直接私に伝えにきたのはソーヤだった。

「今度、王国の建国祭があるんです。トーマ王がその時にイグさんをお呼びしろって。もちろんマオちゃんも」

私の魔法を見ている間、片手間にマオと遊ぶソーヤがそう言っていた。

こいつ、私よりもマオに会いに来ているのではなかろうなと思うほどにマオを可愛がっている。

マオもマオでソーヤにやたらと懐いているようにも見える。いや、この子は誰にでも人懐こいか。

そのソーヤの誘いで私が王国に赴いたのは、リディアの家を訪ねてから数日後のことである。

一体何が悪かったのかまだわからぬが、私の失言によってリディアとレンリも一緒だ。

二人とマオを背中に乗せて、私は王都ヒーズルへと飛び立った。

「あわ……ち、ちょっと。もう少しゆっくり飛んでください!」

私の背中の上でレンリが叫ぶ。
普段から乗っているとマオと、昔乗せたことのあるリディアとは違って彼女に空の旅は刺激が多いらしい。

おかげで到着するのに予想していたよりもずっと長い時間がかかってしまった。

「おい、まさか……ここがヒーズルなのか?」

上空を旋回しながら目を見張る。
背中の上で何故か勝ち誇ったかのようにリディアが、

「当たり前だろう」

と言った。
確かにここがヒーズルで間違いない。

勇者が作った王国なのだから、その場所を忘れるはずがない。

しかし、建国した当初よりも圧倒的に。
数十年前にふらりと立ち寄った時よりも格段に発展した街の姿が私の眼下に広がっていた。

「うわー、おとしゃんすごいね」

マオが歓喜の声を上げる。
無理もない。

彼女が人間の街を見たのはこれで二度目。
一度目は物心がつく前のことだ。

初めて目にしたのがこんなにもすごい街だったら、テンションも上がるというものである。

「ほら、あそこで国王と衛兵が待っているんじゃないかい」

リディアが街の一画を指し示す。
視線を向けると、そこには人が密集していた。

防具に身を包み、武器を持って整列しているのは街の衛兵だろう。

しかし思いの外騒いでいる様子はなく、かつ、こちらに対して攻撃の意思も感じない。

ソーヤが

「ドラゴンの姿のままでいいですから」

と言っていたのはこういうことか。

私は安心して、その人だかりの真ん中に着陸した。

流石にざわっと人々が呻く。

私の姿に畏怖したのか、やたらと緊張している者もいるようだ。

人混みの中心、奥の方にソーヤの姿を見つけた。
彼はこちらに視線を向けつつ、マオに向かって手を振る。

その隣に三人。他の誰よりも高そうな服に身を包んだ人間がいる。

ソーヤの隣にいるのが第一王子のユーマか。
では、その隣が国王トーマ。

一番右にいるのが……なるほど。確かな何か企んでいるような顔している。
彼が第二王子タクマであろう。

「捧げよ、剣」

トーマ王が号令をかけると、衛兵たちが一斉に剣を突き出した。

人間の習わしか。くだらん。
マオが怖がるからむしろやめてほしい。

私の思いに反して、マオはキャッキャと喜んでいた。

トーマ王たちが私に近づいてくる。

「お初にお目にかかります。イグ・ドラニケル・ソウルハート殿。私はヒーズル国の現国王、トーマ・ヒーズルです」

トーマ王がそう言って右手を差し出す。
人間の文化で握手というやつだ。

私と対等な関係であると民に示そうというのか。おこがましい。

そう思ったが、私の背から降りたリディアが私の腕を小突く。

「ここで無視すれば波が立つだろう。応じておけば有効的だと示せる。握手しな」

なるほど、確かにそうだ。

私は彼に言われた通り、前足をトーマ王に向けて差し出した。

彼の右手が私の爪に触れる。

「おおっ」

と衛兵たちがどよめき、歓声に似た声をあげた。
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