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極北の大地編
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しおりを挟む少しの休憩の後、三人は氷の洞穴の奥へと進んだ。
坂道だった洞穴の道はやがて大きな扉にたどり着く。
「それではレオンさん、私達はここで待っておりますので。」
扉の前で松明を掲げながらリュウが言った。アルガンドの掟でここから先は試練を受けるものしか進めないのだ。
ナシェンとリュウはレオンが氷の洞穴にたどり着くための道案内でしかない。
ここから先はレオン一人で行かなければならない。
レオンは頷き、大きな扉に手をかけて力いっぱい押した。
重苦しい音を立てて、扉は開く。
その先は下りの階段となっていた。
それまでの自然味溢れる洞穴とは違い、この先は人の手が加わった遺跡となっていた。
レオンは扉をくぐり、一歩踏み出す。
開かれた大きな扉は勝手に閉まる仕組みのようだ。
レオンが振り返るとゆっくりと扉が閉まっている途中だった。
その向こうでリュウが頭を下げ、ナシェンは笑いながら手を振っている。
レオンは扉が完全に閉まってから先に向かって歩み出した。
遺跡の中は暗い。レオンは魔法で光の球を作り出して光源にした。
「おいで、テト」
レオンが声をかけると、影の中からテトが姿を表す。
人間界ではモゾが姿を表せないので、レオンが自ら作り出したこのテトと魔法の技を磨いてきた。
テトはレオンの足元まで来ると、がしがしとよじ登りながらレオンの肩に乗った。
レオンの知っている情報では、氷の洞穴で出てくる試練は五つある。
しかし、それがどんなものなのかはいくら調べてもわからなかった。
ナシェンやリュウも試練の内容に関しては何も教えてくれなかった。
事前に調べ、対策を練るのはアルガンドの流儀に反するのだ。
試練において、求められているのは対応力。何もわからない状態で取り組んでこそ意味があると信じられている。
しかし、レオンの目的は試練の達成ではない。
失敗して終わる事で女王シェイドへの面目を保つのである。
「何個かはクリアしないと怪しいよね?」
テトの頭を指先で撫でながらレオンが言う。テトは首を傾げていた。
アルガンドにおいて試練の間へ行くことが許可されるというのはそれだけで名誉なことだ。
女王から名指しで命じられるのは珍しく、普通は許可を得ずに挑戦するのがほとんどだった。
無許可での挑戦は別に禁止されているわけではない。
達成すれば円卓の賢者にはなれないまでも、強者として認められて国内での重要な役職に就ける。
失敗しても特に罰があるわけではなく、本人にその気があれば何度でも挑戦できるのだ。
しかし、実力の伴わない者が試練に挑戦すれば待っているのは死。無許可で挑戦して失敗して帰還した者はほとんどいない。
レオンは女王シェイドから挑戦の許可を得たのだ。それはつまり、試練を達成できると見込まれたということ。
一つ目や二つ目の試練で簡単に失敗しては女王の顔に泥を塗ることになるだろう。
四つ目まではなんとか達成し、最後の試練で惜しくも失敗に終わる。
そしてなんとか無事に生還し、折を見て故郷に帰るというのがレオンが頭の中で描くこの先の筋書きだった。
失敗すれば命を落とすこともある試練を前にしてレオンは平静である。
心配しているのはどうやって女王の命令を反故にするかという点のみ。
試練を切り抜けることに関しては全く不安はなかった。
下りの階段が一旦終わり、まっすぐな通路となる。
その道を進むと、程なくして再び大きな扉がある。
扉にはアルガンドの古代文字で「第一の試練」と書かれている。
五年間でレオンが学んだのは魔法だけではない。アルガンドの文字や、各国の古代文字をできる限り調べ、習得した。
レオンは扉を開くと、その中に入っていった。
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