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懐かしの故郷編
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しおりを挟むレオンが故郷の国に足を踏み入れたのはそれからさらに数日経ってのことだった。
一度の襲撃で諦めたのか、それとも様子を見ることにしたのか、あの襲撃者以来六人を襲うものはなく、険しい山道を超えてようやく王都を目前にした一行は商業都市リーンへと辿り着いていた。
レオンが魔法学院入学のために村から王都に立ち寄った街である。
一見すると以前となんら変わりない雰囲気だったが、それでも街の様子はどこかおかしい。
旅人と商人で賑わっていた街の中はなんも言えない空気が流れていた。
まるで、余所者を警戒しているような雰囲気だ。
表では皆笑顔なのだが、この街の人間とそうでない人間の間に見えない壁のようなものがあるようだった。
「なんか……暗い街ですね」
その様子を察したのか、ナシェンがぼやく。そしてすぐに「失礼なことを言うな」とリュウとナッシャに叱られていた。
その街の様子も気になったが、レオンは何より故郷の村のことを考えていた。
王都とは反対方向に進めば、自分の生まれ育った村へ帰れる。
そこには父と母と弟がいるはずで、レオンが何よりも会いたい存在だった。
これから王都に向かい、捕えられたヒースクリフを助け出す。
方法はまだわからないが、第一王子アーサーが国の主権を握っているのなら今度こそレオンは逆賊となってしまうかもしれない。
そうなれば家族に会う機会は失われるだろう。
レオンが後ろ髪引かれる思いで故郷の方角を見ていると、その方にガジンの手が置かれる。
「案ずるな。もしこの国にお前の居場所がなくなっても、第二の故郷アルガンドがある。こんどこそ家族を呼んで一緒に暮らすがいいさ」
帰ることができない故郷への思いは、一度故郷を捨てたものにしかわからない。
レオンの様子から、ガジンはその思いを察したのだ。
六人は一先ず今夜泊まれるところを探すことにした。
今までは人目を気にして野宿をしてきたが、王都を目前にして栄え始めたこの街の周辺では野宿をすると逆に目立ってしまう。
幸いにして腐っても商業都市。
旅人が泊まる伝はいくらでもある。
それなりに安い宿を見つけて、三部屋を借りると六人はこれからのことについて話し合うのだった。
具体的には王都の中へどうやって入り込むか。
これまでの行動からアーサーにはこちらの動きがバレていると思ったほうがいい。
そうなると、王都に直接乗り込むにしても正面から行くのか抜け道のようなものを使って忍び込むのか、作戦を立てないといけない。
「夜の暗闇に紛れて王都に入り、一先ず学院に身を潜めるしかない」
そう提案したのはレオンだった。
学院ならばある程度国に対する権力を有している。
魔法使いの育成期間だけあってアーサーにひれ伏すようなことはないだろうと思ったのだ。
信頼のおける教員たちも何人かいる。
しかし、このレオンの提案はガジンによって拒否されてしまう。
「レオン、焦る気持ちはわかるが私たちはこの国に詳しくない。唯一知識のあるお前でも五年間の空白の時間があるのだ。ここは慎重にいくべきだ」
忍び込む方が安全に思えるが、それにはそれなりの準備がいる。
特にアーサーがそれなりに優秀な情報網を持っているのなら、それを欺くためにはより高度な作戦が必要になってしまう。
王都の街に詳しい誰かの協力がなければそれは不可能なことだった。
しかし、正面から行くのも無謀である。
当然門の前には国の衛兵が待ち受けているし、最悪その場で囲まれてしまうだろう。
いかに賢者といえど、数に囲まれては太刀打ちできない。
結局のところレオン達には情報が足りないのだ。
賢く動くためには王都が今どういう状況で、誰を頼りにできるか知る必要があった。
仲間を助けたいと焦るレオンだったが、急いでもいい結果は生まれない。
ここはガジンに従うしかなかった。
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