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星下の修行編
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しおりを挟む「まぁ、つまり重要なのは陰と陽の釣り合い。そのバランスがどちらか一方に傾けばお前の望む世界は存在しない」
その説明をカナルは石と木の棒を用いて説明した。
石の上に平行になるように木の棒を置き、その両端にそれぞれ同じ大きさの石を置く。
すると、木の棒はバランスを保つ。釣り合っている状態だ。
両端に並んだ二つの石は陰と陽の二つの魔力を表している。
つまり、必要なのは二つの魔力の大きさを等しくすること。
レオンの表情に不安の色が浮かんだ。
それを見抜いたカナルはさらに説明を続ける。
「わかってる。心配するな。陰の魔力の操作に自信がないんだろ」
図星だった。
王都から逃亡し、アルガンドで五年間を過ごしたレオン。
その五年間はほとんどを魔法の勉強に費やした。
学院で学ぶはずだった分とそれ以上の、悪魔に関する知識や新しい魔法の習得などだ。
しかし、陰の魔力に関してだけは碌に修行していないのである。
そもそも人間界では陰の魔力に効果などなく、使ってみてもまるで手応えを感じない。
当然教えられる人間もおらず、文献もない。
手詰まりとなり、後に回すうちに今日まで来てしまった。
陰と陽の魔力は異なるようで本質は同じ。
陽の魔力で自分を鍛えておけば陰の魔力が必要となった時も応用して戦えるだろうという油断もあったのだが。
しかし、陽の魔力と陰の魔力を同等の量練り上げるとなると話は違う。
微細なコントロールが必要となるはずで、それを自分にできるだろうかとレオンは不安になったのだ。
「まぁ、ディーレインとか言うやつに陰の魔力を練らせて、お前が陽の魔力を担当するってこともできなくはないが今回は却下だ」
カナルはレオンが頭に思い浮かべた可能性の一つを簡単に却下する。
ディーレインとの協力をレオン達が結びつけて二人で陰と陽の世界を創造するのならばカナルの言った方法もある。
却下したのは今この場にディーレインがいないことが理由だった。
「協力を取り付けて二人でここに戻ってきてもいいが、お前達にはそんな時間はないだろう。てことは、協力できるとなったらすぐ魔法を発動させる方がいい」
レオン達が魔法を発動させるのは人間界。
そして、カナルは人間界には行けない。
となると、人間界で魔法を発動させる時に向こうでそのやり方を知っている者がいなければいけない。
レオンがここで修行をするのはそのためだ。
だからこそ、方法を学ぶためにもレオンはここで陰の魔力のコントロールを学ぶ必要がある。
「そんで、まぁ陰の魔力を手っ取り早く覚えるならうってつけの師匠がいるだろう」
カナルのその言葉にレオンはカナルを指差す。
カナルは一瞬呆気にとられたような顔になり、そして笑った。
「ハハハ……違うわ。お前の中だ、お前の中」
今度はカナルがレオンを指差す。
その指はレオンの胸をまっすぐに向いている。
「ファ・ラエイルだ」
とカナルは言う。
考えてもみろ、と丁寧に説明まで加えてレオンにここにくるまでのことを考えさせる。
そう、ちょうどレオンが精霊界に来ることになる直前に戦っていた相手のことだ。
「ディーレイン?」
レオンは首を傾げる。
カナルの言いたいことがいまいち要領を得ずに掴めない。
記憶を辿ってディーレインとの戦闘の一部始終を思い起こし、やがて気がつく。
「そういえば、ディーレインはア・ドルマと入れ替わっていた。それに、二人は意識を共有しているみたいだった」
レオンが思い出したのは戦いの終盤、悪魔達の魂を抜かれた後のことだ。
ディーレインの口調がそれまでの元は変わっていた。
その喋り方からしてあれはア・ドルマだったのではないか、と。
もしそうならば、カナルの言っている意味がよくわかる。
ディーレインは立場は違えど、レオンと同じ悪魔と共鳴して融合した存在なのだ。
そのディーレインが体の中のア・ドルマと話せるのならば、レオンにそれができない理由はない。
「僕の中でエレノアはまだ意識を保っているのか」
レオンは不思議そうに自分の胸を見つめる。
この五年間で、ファ・ラエイルがレオンに語りかけてきたことはない。
しかし、もしかしたら静観しているだけでずっと意識はあったのかもしれない。
だとしたら、
「話したい」
とレオンは思った。
修行など関係なく、もう一度会いたいと。
「そんじゃ、まずは己の中での対話だな」
といってカナルはレオンに瞑想をさせる。
地面の上に座らせ、両手を膝の上で組ませる。
伝統的な瞑想の手法だった。
本来ならば瞑想は心を落ち着かせ、魔力をより綿密に練るための修行だが、己の深層心理に深く入り込むことで魂で繋がっているファ・ラエイルと会話ができるはずだった。
レオンは時間操作の空間の中でこの作業を数日続け、数日後に悟る。
「ダメだ……エレノアがいない」
と。
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