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二人の王子前編

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王都西の商店街。
そこは貴族も平民も足を運ぶ賑わったところだった。

しかし、内戦が始まった今となっては見る影もない。

客など当然寄り付くはずもなく、店の主人達もヒースクリフ派の魔法使い達の説得により避難しているためだ。

ただ一つ、ボロボロの外観でありながら多くの魔法使いが足繁く通う魔法商店「魔魔堂」を除いて。


その店主であるクエンティン・ウォルスは目の前で心配そうに貧乏ゆすりをする男、ダレンに声をかける。


「そんなに気を張り詰めていても仕方ないさ。僕たちに今できるのは気長に待つくらいだろ」


「それはわかってる……わかってはいるが、落ち着かないんだよ」


二人が待っているのはこの国第二王子にして、彼らが担ぐ旗頭本人でもあるヒースクリフだ。

ダレンは窓から見える景色を眺めながら少しだけ後悔し始めていた。

今回の作戦を考えたのはレオンとクエンティンである。

そうでなければ主人であるヒースクリフに王冠の奪取なんて危ない真似をさせるわけがない。

いや、後悔などしても遅い。
止める機会などいくらでもあった。最後まで反対することもできたのだ。
結局自分はヒースクリフの覚悟に押されたのだ。

とダレンの胸中は自責の念でいっぱいだった。

作戦といっても大したことではない。

ヒースクリフがアーサーの不意をつき、王冠を奪取。

そして、風精霊の力を使い姿を隠して魔魔堂まで逃げてくる。

ヒースクリフを魔魔堂で匿いながら、他で陽動して敵戦力を拡散させ、ディーレインとレオンが一対一で戦えるようにする。

というのが今回の作戦の全貌である。

ヒースクリフがまだ来ないにしても、王都には先程から戦闘音と思われる轟音が響いている。

その音がダレンの不安を駆り立てるのだ。

ヒースクリフのことだけではない。この作戦には不安要素がいくつもある。


「本当に大丈夫だろうか。レオンの話では奪われた悪魔の魂は八人なんだろ? それに対して、こっちには精霊王の元で修行してきたあの三人しかまともに戦える人間がいないんだぞ」


八人の悪魔に対して、それと戦えるのは三人だけ。それも一対一で時間を稼げるかどうかというところ。

単純に計算すれば五人の悪魔が野放しになり、ディーレインとレオンの一対一は難しくなる。

クエンティンはダレンの言葉を訂正する。


「戦えるのは彼らだけじゃないさ。アルガンドからの応援もある。ガジン殿がさらに二人、円卓の魔法使いを連れてきてくれた」


レオン達が精霊王の下へ旅立ったあの日、一度アルガンドに帰り女王に報告すると言ったアルガンドの魔法使いガジンは、その言葉の通りにアルガンドに帰国した。

そして、その場でレオン達の状況を女王シェイドに伝えると戦力を増強して戻ってきたのだ。

アルガンドには国の最高戦力とも呼べる円卓の十二の賢者がいる。

彼らは皆、試練の間と呼ばれる場所で精霊に認められ力を与えられる。

彼らならば悪魔とも対等に渡り合えるはずだった。

女王シェイドはその国の最高戦力を新たに二人貸し出してくれたのだ。

そこに、二人を連れてきたガジン。そして王都に残っていた賢者のカールとナッシャを含めると五人の賢者を派遣してくれたことになる。

国の戦力の半数近く。それは内戦中のダレン達からすればありがたいことでもあるが、同時に怪しくも見える。

「信用できるのか?」

ダレンの疑わしげな声にクエンティンは「さあ?」と首を傾げた。

アルガンドからすればレオン達の国のことなど他人事。その他人事にそこまで戦力を貸してくれるというのがどうにもダレンは気になった。

何か裏があるような気がするのだ。


「まぁ、何かしらはあるだろうね。でも、今の僕たちにはそれを気にしている余裕はない。頼れるところは頼って、とりあえずはこの騒動にけりをつけなくちゃならない」

クエンティンの言葉にダレンは「確かに」と納得する。

内戦が続けばそれだけ国は疲弊し、他国からも狙われやすくなる。

今一番大事なのは早々に内戦を終わらせ、ヒースクリフを王にすること。それだけが確実に今すべきことだろう。


「アルガンドの五人と、マーク達を合わせてちょうど八人か。人数的には抑えられるわけだ」


「いや、アルガンドは四人だね。ナッシャという女性は事情があって今は戦えないらしい」


「……なら一人余るのか。いや、一人ならば魔法使いを集めて対抗できるか……」


「その心配はないかもね。北方からが駆けつけてくれたから」


クエンティンとダレンはこのように会話を進めていく。

作戦の検討など今更するべきことではないのだが、未だに来ないヒースクリフへの心配を紛らわせるためでもあった。

そんな二人の話を遮るように魔魔堂の扉がノックされた。
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