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二つの国編

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エレオノアール王国に二つの国が訪れることになったのはヒースクリフが望んだことではなかった。

しかし、「悪魔の力を是非見ておかなくてはいけない」と念押しされては断るに断れなかったのである。

その要請を断れば「エレオノアールは悪魔の力で戦争を始める気だ」とあらぬ誤解を生みかねないからだった。

ヒースクリフは

「悪魔の力が戦争の抑止力になってはいけない」

とレオンとマークの二人に語った。


悪魔の力を見たいと申し出て来たのは聖レイテリア教会の本部があるレイテリア神聖国。

それから、東の島国であるサンブック王国だった。


レターネ神を祀るレイテリア神聖国は悪魔という特異な力を一度その目で見ておかなければ気が済まないらしく、エレオノアールにいるエルシム司祭を通じて圧力をかけてきていた。

サンブック王国はエレオノアールの友好国の一つであり、エレオノアールに新たに住むことになった伝説的な存在を是非見たいとヒースクリフに直接持ちかけて来たのだ。


その二国の他には今のところは同じような催促は来ていない。

他の国は悪魔の存在を危険視し、状況が掴めるまで静観するつもりのようだった。


国への来訪を求めて来た二国も表向きでは「悪魔の様子を知りたい」と言っているだけだが、その裏では何を考えているのかはわからないという状況だった。


「とにかく、こんな不明瞭な状態で悪いがクルザナシュの領主である君には伝えておこうと思ってね」


ヒースクリフの話では二国からの使者は一週間後にやってくるらしい。

彼らは船で王国の南の港町に到着するらしい。

そこから陸路でクルザナシュに向かう。

移送にかかる費用や馬車の手配などは全て王国が行ってくれるらしいが、レオンにはクルザナシュの領主として実際に南の港町まで迎えに行ってほしいとのことだった。



「それで、俺は?」


それまで話を黙って聞いていたマークがようやく口を開いた。

それまでのヒースクリフの話では、関係あるのはレオンとクルザナシュの悪魔達だけである。

マークはクルザナシュの住民になったわけではないし、ましてや貴族でもない。

今のところこうして直接呼ばれるような理由はないように思えた。


「お前は警備として呼んだ。南部の担当だろ?」


ダレンがマークの疑問に答える。
マークは魔法騎士団に所属しており、担当は変わらず王国の南部だった。


レオンとの関係も深く、連携も取りやすいだろうと今回の二国の来訪の護衛の指揮を取れとダレンはマークに伝えた。


「なるほどな」


マークは納得した様子で頷く。
何故自分が呼ばれたのかが気になっただけで、そこに不満はないようだ。


「よろしくねマーク」


「おう、ばっちり警護してやるよ」


レオンとマークはお互いに拳を合わせてにっこりと笑った。


「とにかく、訪れる二国にこちらを攻撃する隙を与えたくない。レオン、そんなに難しく考えることはないけど、どうか上手くやってほしい」


ヒースクリフは若干暗い顔でそう言った。


「上手く?」


「そうだ、何日か前の人間の商人と悪魔の一人の間にあったトラブルのことは僕の耳にも入っている。もちろん、商人側に非があったことも知っているが一歩間違えば悪魔の名前が良くない風に伝わってしまう可能性もあるとわかっていてほしいんだ」


ヒースクリフにそう言われてレオンは少し前のライルとダルブの騒動を思い出していた。

勇足で張り切ったライルも確かに悪いが、ダルブが過剰的な反応を見せたのも事実である。

一応怪我人は出ておらず、ダルブにも危害を加える意図がなかったことをレオンは理解している。

しかし、二国からの来訪者がクルザナシュに来た時に何かの間違いで同じようなことが起こったらどうだろうか。

もしも、来訪者に怪我を負わせるようなことがあったら?

国同士の大問題にまで発展しかねない。

ヒースクリフはそれだけは避けてくれてと念を押しているのである。


レオンもまた、悪魔達にしっかりと説明して納得してもらう必要があると心に決めたのである。

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