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魔法学院生徒受入編
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しおりを挟む洞窟内を照らすために作った魔法の光が足元を照らしているが、ゴツゴツとした岩肌は気をつけなければ足を取られそうだった。
幸い転ぶこともなく、少し進むだけでレオンにもわかるほどに獣臭が増してくる。
先導するシュドラがその足を止めて
「いたぞ」
と後方の二人に伝える。
シュドラの肩越しにレオンが覗き込むと、魔法の光に照らされてうっすらと熊の影が見えた。
テトの報告の通り、二頭いるようだ。
一頭が横たわり、もう一頭がその周りをうろうろと歩き回っている。
大きさから見て、倒れているのは親熊でその周りを歩いているのは小熊のようだった。
「母親だな。狩人の矢でも受けたか……いや、この傷は岩を転がり落ちたな」
シュドラが熊に近づくと、魔法の光がシュドラの後を追って先程よりも明るく二頭を照らす。
小熊はこちらに気付き、低い唸り声を上げたが親熊の方は動かない。
呼吸はしているため、生きてはいるのだろうが怪我の具合が良くないようだ。
シュドラは唸り声を上げる小熊など気にも留めず、母熊の状態を観察している。
小熊は懸命に母親を守ろうとシュドラに噛みつこうとするが、その牙はシュドラが纏っている魔法の鎧に弾かれて届くことはなかった。
「傷はさほど深く無いが、全身が傷だらけな上に骨まで折れているな。ここに逃げ込んだはいいものの、餌を取れずに衰弱したか」
母熊は岩山の上から転落し、体を強く打ち付けた後だった。
動けないほどの重症だったが、ここで倒れては連れていた小熊の命も危ないと最後の気力を振り絞り、この洞窟に身を隠したのだ。
「……今楽にしてやる」
苦しそうに息をする母熊にシュドラはそう声をかけると魔法の槍を作り出し、振り上げた。
小熊はシュドラのやろうとしていることを理解したのか、母熊の前に立って懸命に吠えていた。
まるで、「やめろ」と叫んでいるようである。
シュドラのその槍が振り下ろされる瞬間、思わずレオンは叫んでいた。
「待って」
と。
その声に反応して、シュドラの動きが止まった。
シュドラは振り向きはしなかったが、その後ろ姿はレオンの続きの言葉を待っているようだった。
「治そう、その母熊」
レオンが言う。
シュドラは槍を振り上げたまま動かない。
レオンからはシュドラの顔が見えず、彼女がどんな表情をしているのかわからなかった。
「治す? それに何の意味がある。ここでこのクマを治したところで、元気になれば襲ってくるかもしれん。私達はここの安全を確保するために来たはずだ。そのためにはここで殺しておいた方がいい」
シュドラはそう反論したが、槍を振り下ろすことはなかった。
意見は述べるが、レオンの指示には従うつもりらしい。
「わかってる……でも、いいんだ。魔力が関係ないただの外傷なら、僕にも治せる」
レオンが頑なにそう言ったため、シュドラは振り上げた槍をしまって身を引いた。
レオンは母熊に近づくと、その体に魔法をかける。
小熊は変わらず吠え続けていたが、レオンが母熊に危害を加えるつもりがないのがわかったのか、次第に大人しくなった。
魔法によって、母熊の傷は治っていく。
擦り傷はみるみるうちに塞がっていき、骨折したところもくっつく。
衰弱している分はレオンにはどうしようもなかったが、怪我さえ治ればまだ動く力は残っていたらしい。
母熊はゆっくりと起き上がると、レオンの顔を見上げた。
そして、そのまま洞窟の出口の方へと向かっていく。
怪我をして、しばらくは何も食べていないはず。怪我が治れば目の前にいるレオン達は格好の獲物となるだろう。
それでも襲わなかったのは母熊がレオンのしたことを理解して、感謝していたからだと捉えてよいだろう。
小熊は母熊に甘えるように身をすり寄せながら、洞窟の中から消えていった。
「偽善だぞ」
二頭が去った後、シュドラが短くそう言った。
レオンは「わかってる」と短く返事をする。
ここで熊達を逃したのはレオンのただの我儘でしかない。
レオンだって今までに何度も狩りをして、動物の命を奪ってきたのだ。
それが食べるためであっても、命を奪ったことに変わりはない。
その動物達とあの二頭の熊に一体何の違いがあったのか。
レオンは母親を懸命に守ろうとする小熊をどうしても殺すことができなかったのである。
「まぁ、いい。別に街が食料に困ってるわけではないしな。あの母熊は頭が良さそうだったから、これを恩に感じてくれれば人間を襲うこともそうそうないだろう」
シュドラは最後にそう言って、それ以上はこの件に触れてこなかった。
洞窟はまだ奥に続いているようだ。
三人は魔法の光を頼りに、さらに奥へと進んでいった。
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